【一会】『魔法陣グルグル2 10』……魔王、交代。振り出しのジミナ村
2018/12/20
テキトー感あふれる勇者の少年ニケと、気持ちが魔方陣の効果に反映される神秘の魔法「グルグル」を使う少女ククリの、再びの冒険を描いている『魔法陣グルグル2』。過日に続き、今年9月に出た最新10巻について、概要と読んだ思いを綴って参りましょう。
なんだかヤバそうな技術「マキニカ」が魔王のものになるのを阻止すべく、その在処とされる秘境ズックニィはケムリの塔までやってきたニケたち。前巻ラストで最上階らしい扉を開くことに成功しました。その直後から、今巻のお話は始まります。
新・魔王の誕生
扉の向こうには、果たして魔王の姿がありました。そして時すでに遅し、「マキニカ」は彼女の手にあったのです。
魔王の示した「マキニカ」とは、ぱっと見はただの“中身の入った割れかけたカップ”。しかしそれは、技術の神テクネロが自らの“世界最初の失敗”を取り繕うため、世にもたらしてしまった力の象徴なのでした。魔王が云うところによれば、「なんの理屈もなんの技術もなーい/ただただ成立しているこの力」を用いれば、「どんな武器でも作りほーだい」だとか。そんな絵空事じみた、因果律無視の、チートな力に対し、魔技師であるトマは「ズルだ」と気色ばみますが、魔王は一笑に付します。これからは地道な「くふう」ではなく、やりたい放題の「闇くふう」の時代だ、というのです(ちなみにここで“ラッパ吹き”の誕生にもテクネロが関与していたことが明らかになりますが、なんとも残念な経緯に脱力します)。
「マキニカ」を入手した魔王は、そのままワープ――と思いきや、「マキニカ」を失ったケムリの塔が崩壊し、地上に降り立ったニケたちの近くに、まだ居ました。
なんだか様子がおかしな魔王に声をかけたのは、側近である将軍ジーカ。しかしジーカは、邪神セイフクンチョを完全体とするために「マキニカ」を捧げ物とするとして、魔王にクーデターを宣言します。
続けてジーカは、魔王が眠るのを嫌い、描くのに22年もかかるグルグル「かみさまのもよう」を描けることについての仮説を披露。さらに、魔王の魔方陣の威力は、彼女が大人に近づくほどに衰えていくだろう、との推論も口にします。
激昂した魔王の態度は、それが真相に近いことを裏付けているのでしょう。飛来したカヤたちも参戦し、ここに魔王と反乱する魔物たちによる戦いが始まりました。
しかし、魔王はジーカを一蹴。真打ちはカヤと思いきや、魔王の前に立ったのは、意外な――と云うべきか、やはりと云うべきか。以前からカヤたちと共に行動していたデキルコでした。
デキルコの空間魔法は魔王を、というかその場の全てを圧倒します。彼女が持つ箱と、世界が同一化するというこの空間魔法、破るのは容易ではなさそうです。
自由人なデキルコは、魔王になるつもりなんてない様子。ではありましたが、ちょっとイイなと思っているレイドに勧められれば、まんざらでもありません。居合わせた人も魔物も新たな魔王の誕生に沸く中、以前レイドに買ってもらった衣装に身を包み、「マキニカ」を造作も無く手元に引き寄せたデキルコは、新・魔王として君臨すべく、どこかへと姿を消しました。
故郷周辺での冒険
「何もできなかった」とは、9巻に収録されていたデキルコ読み切りで登場し、この場にも駆けつけていた魔法学校の元同級生・ルーミュの台詞。ですが、それは彼に限ったことではありません。主人公なのにニケやククリも手出しできませんでしたし、途中から完全に蚊帳の外だった元・魔王も、それは同じことでした。
もはや魔王でなくなった少女には、冒険者たちも注意を払いません。そんな彼女に、ククリはパーティに加わらないかと持ちかけます。
魔王だった者が仲間になるというのは、例えばスクウェア・エニックスの往年の名作ゲームなどで見た気がします。ただ、その場合、魔王は本当の魔王でないというか、さらにその向こうに真なるラスボスが存在するパターンが多いでしょう。してみると、この漫画もこれからが本当の戦いなのでは、という気がしています。
成功したかに思えたククリの申し出でしたが、やはりそう簡単にはいきませんでした。魔法の星で素顔を隠した魔王(今となっては元・魔王ですね)の力によって、ズックニィは水没。居合わせた人々はみな、前巻でも使われた元魔王の魔方陣「かおあらってでなおせ!」によるものでしょうか、それぞれの出立地まで強制的に飛ばされてしまいます。
元魔王の所業にニケやトマは怒っていますが、ジュジュは同情的でした。「ホントに世界が欲しかったんだよ/みんながあたしをカワイイって言ってくれるそんなくだらない世界が」というモノローグに込められた、かつて恋に破れ魔王となった彼女の悲しみは深そうです。一方、新たな魔王となったものの、デキルコは相変わらずの調子。ただ、トランクの中に世界を入れてしまうという彼女の魔力は半端なものではないということは確かでしょう。
水没したズックニィでは、魔法使いのデリダとミグミグ族のパル――ククリの助言者である2人が合流していました。
デリダによればデキルコは、魔法が凄すぎるあまり魔王ではなく「神的な何か」に思えるそうで、まだまだ底知れぬ感じが漂います。対して「大人になってもグルグルを使い続けるための戦略」を編み出せなかったククリには、「顔を洗って出直すしかない」と厳しいお言葉。厳しいですが、元魔王とデキルコの間で何もできなかったのは事実ですし、今のままで事態を収拾できそうもありません。再修業のうえ、再起を図るしかないでしょう。
というわけでニケとククリは当面、故郷ジミナ村で生活することに。冒険が失敗に終わってしまったので肩身が狭いですが、仕方なしですね。夜になると龍になってしまうことを知っても、「勇者には珍しくないこと」で流すニケの両親は流石と云うべきでしょうか。。
ククリはグルグルの新しい力を育てるため、ひとり修行するようオババに云われますが、捗らない模様。それでも夜になれば、龍化したニケに食べさせるために、グルグルで月を作らねばなりません。元魔王の呪いによって、魔方陣を描くと世界中のトイレ(使用中)のドアが開いてしまいますが、致し方なしというところでしょうか(ここでの「知らない人だらけの扉が開いてしまう!!」というモノローグは、初代アニメの主題歌「MAGIC OF LOVE」の歌詞のもじりですよね…)。
その呪いのせいか、自分が作った月の表情のインパクトのせいか、ちょっと混乱気味なククリだったので、彼女の前に突如あらわれてすぐに消えてしまった元魔王が、本物かどうかは分かりません。けれども、ククリと2人で歌って笑う彼女は、ククリが感じた通りに可憐な少女のようでした。
キタキタ親父が“謡(うたい)”のような節回しで奇妙な歌を歌い、トマの歌の出来に不機嫌になったり、歌の意味が分からんと町長に突っ込まれるという、(現時点では)意味不明なキタの町のエピソードを挟み、暇を持てあますククリには、ささやかな事件が起きていました。それは、龍になったニケが村の南にあるコブリの森に飛んでいって帰ってこない、というもの。
さっそく探しに行ったククリですが、「森の主」を名乗るモンスター・ベログールにテンポよく捕まってしまいました。一緒に捕まっていたニケによれば、この森には「おねがい玉」という、1つだけ願いを叶えてくれるアイテムがあるとのこと。色々と課題山積の2人にとっては、ぜひ欲しいアイテムです。
ベログールが留守の間に「おねがい玉」を首尾よく見つけられたのは、ククリの世間知らずのおかげ、というところでしょうか。玉をくれた存在の云った「小さいもの繊細なものが歴史を作る」という言葉に応えるごとく、2人が玉に願ったのは、小さく繊細なものを取り返すというもの。ニケの龍化の呪いや、グルグルにかけられた呪いも解決しなければならない問題ですが、確かにこれも、魔王によって世界から失われた大切なものでした。
「マキニカ」がもたらしたもの
引き続き“謡”に凝っているキタキタ親父の一幕を置いて、ニケとククリのコブリの森からの脱出行は続きます。が、あっという間にベログールに見つかり、魔法攻撃に四苦八苦。ヒントを得たとはいえ、まだグルグルを使うのにためらいがあるククリですが、“ラッパ吹き”の天使たちの(力技な)助力によって、どうにか魔方陣を完成、敵の撃退に成功します。
その頃、相変わらず奇妙な謡を「もみほね」っていたキタキタ親父に、怪しい入れ知恵をした者のおかげで、ノコギリ山が大変なことになっていました。
噂を聞いてやってきたニケとククリが、ザザやミグとの再会もそこそこに見たそれは…なんかとても言葉では表せない感じのわけのわからなさ。それを称賛するキタキタ親父は明らかに様子がおかしいです。
ニケの機転で親父は元に戻りましたが、どうやらこの事態の大元は、新魔王が手にした「マキニカ」の力のようです。ケムリの塔で元魔王も口にした「闇くふう」を行なう「闇くふう結社」は、こんな感じで世の中をわけわからなくしようとしているのでしょうか。
トマの「ショボショボ」でこの場は切り抜けましたが、やっぱり現魔王であるデキルコのところへ行って、話をしないことには済まないようです。それに、魔王軍が復活させようとしている邪神セイフクンチョは、どう考えてもマズそうですし。
そんなニケ達の思いをよそに、暇さに嫌気がさして魔王城から姿を消した現魔王デキルコと、アッタケ村で魔王討伐隊が遭遇した元魔王。それぞれの行動が波乱を予想させつつ、今巻の本編はこれにて幕、猫とコーヒーな「オマケマンガ」でほっこりとして、次巻へと続きます。
次なる11巻の刊行は、来年5月くらいでしょうか。デキルコのトランクと世界の関係を考察しつつ(一体全体どうなってるんでしょうか…)、楽しみに待ちたいと思います。