【一会】『魔法陣グルグル2 5』……勇者さらわれる。乙女パーティ結成
2018/07/20
シロップと粉砂糖たっぷりのパンケーキにハーブティー、そこに何故か具がたっぷり入った豚汁というセットメニューをダンスフロアでいただくような、RPG風メルヘンチックアドベンチャー漫画『魔法陣グルグル2』。先日新刊の5巻が発売となりました。
幻のグルグルと云われる「かみさまのもよう」(ビッカ曰くあと3種類ほど同レベルのグルグルがあるみたい)の手がかりを求め訪れたのはノーベン山。「かみさまのもよう」を作ったグルグルの天才チカチカ(の遺した具象気体)から「生涯ムフフ(ハート)」など有り難い教えを頂戴したククリですが、その近くにある「かみさまのもよう」が発動した跡地である“聖なる四角”に立ち入ると、その全員がファンシー化してしまいました。
元の姿に戻るため(?)、どう見てもネコな外見をしているニャー族のペペロ達の頼みを聞くところから、今巻の物語は始まります。
ニケもククリも(キタキタ親父も)ファンシー化しているので、なんだか往年のNHK人形劇みたいな画面になっていますし、唯一もとの姿を保っているデキルコはその可愛さに興奮していますが、それはともかく。ペペロ達の頼みとは、ずばり魔物退治。さっそく引き受け、鳥型の魔物バシャカーとの戦闘開始となりますが、敵も味方もファンシー化しているのでイマイチ緊張感には欠ける様子。
ニャー族には「カワイイの暗黒面に取り込まれた者は/小さいものを見たいがために自らが巨大化する」という伝説があるそうですが、大型動物や地球や太陽が大きい理由もそのため(自分より小さなものを愛でるため)だというのには、何となく納得。そんな伝説通りに巨大化したデキルコがまさかの活躍をしつつ、ククリのグルグルもばっちりと見せ場です。
秘薬「ほろ苦いデビュー」を飲んで、大人の階段を登る途中の“とんでもなくおかしな瞬間”メガロッパをそれぞれ披露しつつ、それぞれ元の姿に戻ったニケ達。ほっと一息つく間もなく、今度はニャー族が古来あがめる魔神「プッスンのび太郎」が現れます。
膨大な魔力をつかさどり、友達となることでグルグル使いの力を大幅にアップさせる魔神と云えば、前作ではベームベームやサイレン、今作では「月」などが登場していますが、それらとは一線を画すこのネーミング。このボーダーレスぶりがグルグルらしくて素晴らしいです。
勇者とは、神をもじゃらす者――ということか、ニケは「神のジャラー棒」で「プッスンのび太郎」のお相手をすることに。満足してゴロゴロ鳴く魔神様の様子は完全に猫なんですが、ご褒美としてニケには幻の剣が授けられます。…なんか思っていたのと違いますが、3巻からしばらく丸腰でしたし、あとあと持ってて良かったという展開になるのかも。
谷底からの帰還を果たし、今度こそ一息と思いきや、ストーリーが一段落すればパーティ内の人間関係が浮上するのが国産RPGの常。再びククリの胸中は「勇者様はあたしのことどう思ってるの」で満たされていきます。
心配したジュジュの過激な後押しが空振る中、現れたのは妖精「愛の使者」。彼によれば、世界の「愛のバランス」が壊れてきており、特に修復が必要な「愛」をつきとめた、と。要するにニケとククリに破局の危機が来ているとのこと。
前作の最終盤で、伝説のグルグル「恋するハート」を用いて魔王ギリに対抗しつつ、ククリはニケに告白したわけですが、その答えは作中にもある通り「フワッと」していました。多分、ククリとニケの今の関係性に何らかの変化があった時が、この漫画の本当のエンディングだと自分は思っていますが、破局というのは穏やかではありません。やはりその影には、今回の魔王が暗躍している様子です。
無理にニケの気持ちを確かめたくない、と云いつつも、チカチカが教えてくれたグルグルは“好きな人を問い詰める”という、まことにタイムリーなもの。ニケの気持ちは……と引っ張って、ドタバタしているうちに、魔王の呪いは虚を突く形でニケをさらって行ってしまいます。
「おともだち召喚」の魔方陣でも呼び出せないニケは、裏を返せばククリのことを友達以外の認識で捉えているということ。「おともだちのままだったら/勇者様を救えたのに」というククリの嘆きは、“好きになったからこそ、友達の頃みたいに無造作に連絡できない”という現実世界の乙女心と同じものでしょう。「偉大なる魔法使いの歩いた後には花が咲く」と伝えられる通り、悲しみの心は魔力となって彼女の周囲を咲き乱れますが、ニャー族に祝福されながらも涙を流す姿は、可憐にして痛ましいです。
勇者救出の方策として、駆け付けたミグミグ族の魔法使いココルデが提案したのは、この世の全てを知るという“知ってる姫”に、ニケの行方を聞くというもの。“知ってる姫”が住むと云われる魔境アッタノカに向けて、ククリ、ジュジュ、デキルコというガールズパーティ(まぁキタキタ親父もいますが)は、魔境の手前にあるオーシズの町へ出発します。
そこで登場したのがこの人。前作ではククリを“ピンクボム”と呼んで横恋慕し、その空回りっぷりが痛々しくも笑いを誘った自称魔界のプリンス・レイドです。
女子3人と同道で浮き気味のキタキタ親父とか、デキルコのヘンな空気を利用する魔法の研究とか、オッサンくさいバス(?)といったエピソードを挟みつつ、舞台はオーシズの町へ移るわけですが、お面を付けて接近するレイドの相変わらずな空回りぶりが、自分には懐かしいやら可笑しいやら。初対面となるデキルコとは何かちょっとイイ感じになったりもしますし、今後の展開が楽しみです。
一方、「今度の魔王はミグミグ族」という情報が独り歩きしていて、オーシズの町はククリ達にはちょっと居心地が悪い様子。ミニノイ王国の使者を名乗るアーシュという魔女のおねーさんと仲良くなりますが、ちょっとアヤしい素振りも見せて油断なりません。誰が魔王か分からないだけに、気になります。
そのことを指摘するジュジュとククリの仲がおかしくなったのとほぼ同時に、人間への憎しみを再認識したレイドが町を急襲。「グルグル使いを出せ」と要求するのに対し、ジュジュが応戦しますが旗色は良くなさそうです。
そんな時、レイドが連れてきた魔物の空気の中にニケの空気を感じ取ったデキルコは、今現在のニケの居場所を告げます。それは……「知らんおっさんの国」。
そりゃ一体どんな国なのか。そして、デキルコとレイドをくっつけようとはしゃぐククリの心中に、ジュジュが感じ取った「何かが静かに進行してるような」感じとは何なのか。
世界の行方と恋の行方、2つながら抱えて、物語は次巻へと続きます。巻末のオマケマンガで衛藤先生が見せてくれた魔方陣のスケッチに影響されて、メモ帳に自作の魔方陣を描きつつ、次巻を楽しみに待ちましょう。
※今回も版元さんがAmazonさんに“なか身”のデータも上げて下さっていたので、適宜使用させていただきました。