【一会】『七つの大罪 22』……世界を覆う、そのものの名は絶望
2018/07/20
つい先日21巻について書いた『七つの大罪』ですが、早くも一昨日に22巻が刊行となりました(自分が読むのが遅かっただけですが)。珍しく早めに読みましたので、レビュー&思ったことを書きたいと思います。
その前に、恒例の限定版付録ですが、今回はミニキャラが描かれたペットボトルカバーですね。「保温・保冷機能はありません」とありますが、いちおうアルミシートが組み込まれている模様。まだまだ暑くてペットボトルを持ち歩くことも多そうですし、なかなか実用的ではないでしょうか。
さて本編ですが、今巻はシーンの転換もあまりなく、息づまる展開を一気に描いています。描かれるのは、前々巻くらいから続いている〈十戒〉のグロキシニアおよびドロールが主催する“バイゼル大喧嘩祭り”の顛末です。と云っても、“大祭り”の筋書き通りの展開ではありません。
前巻ラストで〈傲慢の罪(ライオン・シン)〉エスカノールが〈十戒〉の2者に不意打ちを仕掛けましたが、これに乗じて戦いを始めたのは〈憤怒の罪(ドラゴン・シン)〉メリオダス。“喧嘩祭り”に参加したいと云いだしたのは彼で、いつもの気楽な気まぐれと思われましたが、そこは流石の〈七つの大罪〉団長(というか主人公)、それ相応の考えがあってのことだったようです。
これまで“喧嘩祭り”に乗る形で予選から本戦が描かれてきたわけですが、ここに至って急にメリオダスが場外乱闘を始めたようにも感じられます。けれども、そもそもこの催しは〈十戒〉の2人が始めたもので、優勝者の願いを叶えると云いつつ、彼らが約束が果たす保証はありません(巨人のマトローナは家族を救うために参加を決めましたが、他の方法を考えた方が良いのかもしれません。「考えがある」と云うディアンヌに期待です)。そう考えると、唐突に思えたメリオダスの行動にも頷けます。
“枠”が作られると、その“枠”の中で最適な行動してしまうというのは、自分も経験がある気がします。“枠”に沿っていた方が楽ということもあり、最終的な目標がどこにあるかを意識していないと、“枠”の中でどう行動するか、という発想に陥りがちになるのではないでしょうか。メリオダスの行動は、“喧嘩祭り”という〈十戒〉が作った“枠”にとらわれず、自分の目標達成に向けて最良の手段を講じたとも云えそうです。
しかし、最良の手段をとったことと、それで必ず勝てるかということは別問題です。グロキシニアおよびドロール(この2人とは浅からぬ因縁もあるようで)と互角以上の戦いを繰り広げるメリオダスでしたが、大ごとになり過ぎたため、残りの〈十戒〉7人も姿を現す事態となります。
既にメリオダス以外の人物はリオネス城に転移しているため、状況は1対9。しかも〈十戒〉それぞれが天変地異クラスの戦力を有するということで、ここからの戦いは一方的で、酸鼻を極めるものでした。
戦線離脱を封じられ、起死回生の一撃も奏功しないという絶体絶命な状況。そこで助けに入ったのは、誰あろう〈強欲の罪(フォックス・シン)〉バンです。愛するエレインとの別れも厭わず、真意を疑うこともあったはずのメリオダスを助けに、文字通りの「死地」に足を踏み入れ、しかも普段通り軽口を叩く彼は、見上げた男と云っていいでしょう。
しかし、ほぼフルメンバーの〈十戒〉の前では、その加勢もあまりに無力でした。戦いは無情な形で終結を迎えます。
戦いから1か月。〈十戒〉によって蹂躙されるブリタニアでは、人心もすさみ、抵抗するのはごく僅かな人々のみとなりました。世界はこのまま〈十戒〉によって支配され、人々は滅ぼされてしまうのでしょうか。
初代プレイステーションの頃のゲームには、容量が大きいRPGなどを中心に、ディスク2~4枚組で1つの作品というものがありました。シナリオが進むとディスクを入れ替えるように画面に指示が出て、それに従ってディスク1から2、2から3と入れ替えてゲームを進めるスタイルだったのです。
何でそんなことを書いたかというと、今巻の戦いの終結から1か月後の流れが、ちょうど1つのディスクの終わりに重なるように思えたからです。プレーヤー側が敗北し、世界は終末へと進んでいく。そんな場面で、「ディスクを交換して下さい」とメッセージが出た作品が、幾つかありました。
ディスクが続く以上、それらの物語が終わらなかったように、彼らの世界もまた、まだ終わりではありません。アーサーの、侍の“ななし”の、エリザベスの、そして恐らくは、メリオダスと〈七つの大罪〉の物語もまだ、終わりではないでしょう。
次なる“ディスク”で描かれるだろう希望を予期するかのように、明るい表情でエールのジョッキを運ぶエリザベスのコマで、今巻は幕となります。
気になる次巻23巻は2か月後の10月17日刊行。巻末予告を見て〈傲慢〉のあの人の活躍を予感しつつ、心して待ちたいと思います。