100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『謎のあの店 2』……追憶を、苦味と旨味にのせて

      2018/07/21

謎のあの店2 (Nemuki+コミックス)

 作者が日常生活から掘り出した“入ってみたかったけど勇気とか縁とかがなくて入れなかったお店”に思い切って入店し、ごく主観的な記憶を交えつつ紹介するこの『謎のあの店』。作者さんを知ったのは実は旅行雑誌の『旅の手帖』の1ページ漫画「今月のかけ湯くん」だったりするんですが、それはともかく2巻が発売されました。

 2012年に初版発行(ちなみに掲載誌休刊と後継誌への引継ぎのために1巻は2種類のエディションがあるようです)の1巻では“前々から気になっていたお店”がメインだったのに対し、2巻では編集者その他から教えられた店も増えてきたのがちょっと気になるところ。とはいえ、作者の「あの店」が有限である以上、もちろんそれは仕方ないことだし、それでも「あの精肉店」や「あの木津温泉」「あの蚤の市」などのエピソードは、変わらずの“蔵出し”感がいい塩梅かと。

 恐らく今巻の刊行にあわせて重版された1巻には『孤独のグルメ』(100夜100漫第63夜)や『花のズボラ飯』原作者の久住昌之氏による帯が。確かに『孤独のグルメ』の空気とこの漫画のそれは親和性が高いと思う一方、やっぱり異なる点もあるなー、と2巻を読んで思い至った次第です。

 それは幾つかあるのだけど、一つ挙げれば、それは訪れた先にたびたび重ね合わされる作者の感傷というか追憶というか、そういうウェットな空気じゃないかと。実録漫画というこの漫画のスタイルゆえかもしれないですが、作者がお店の佇まいや店主やお客といった物事を引き合いにしつつ、自らの過去や現在についての吐露を素直に出している(ように読める)辺りが一番の持ち味なんじゃないかと思います。

 この漫画らしからぬ展開に驚愕する「あの浅間神社」や、施術者のプリミ恥部(ぷりみちぶ)氏が色々スゴい「あの宇宙マッサージ」などインパクト大なエピソードも多い今巻ですが、自分なりに出色と思うのが、「あの拉麺屋」と「あの木津温泉」の2つ。前者は“アヤしいメニューのお店の潜入ルポと思いきや印象に残るのは全く別のこと”という、いかにもこの漫画らしさ溢れる一篇で、後者は訪れた先の魅力がストレートに出たすっきりした一篇です。

 現在は隔月刊の『Nemuki+』で連載中のため、3巻の刊行は単純計算で3年あまり先の話になろうかというところ。自分なりの“謎店”訪問など楽しみつつ、鷹揚に待つことと致しましょう。

 - 一画一会, 随意散漫 , , ,

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