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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『少女終末旅行 4』……おしまいを歌うものたち

      2018/07/31

少女終末旅行 4 (BUNCH COMICS)

 静かに終末を待つ未来世界。黒髪黒瞳・しっかり者のちーちゃん(チト)と金髪碧眼マイペースなユー(ユーリ)が、履帯式牽引車両ケッテンクラートに揺られつつ、呑気なのか深刻なのか分からない旅を続ける、つくみず氏『少女終末旅行』。昨年11月に4巻が刊行されましたが、ようやく概要と感想を書きます。

 特にどこを目指すというわけでもなく、食料や水や燃料を求めて移動し、何となく多層構造都市の上へ上へと登り続けるチトとユーリ。今巻冒頭では、地下殻層を走る列車にケッテンクラートごと乗って移動します。

参考:1/32 Sd.Kfz.2 Kettenkrad (ケッテンクラート)
参考:造形村SWS 1/32 Sd.Kfz.2 Kettenkrad (ケッテンクラート)

 ケッテンクラートが乗るくらいですから、我々が普段乗るものよりもだいぶ大きい列車でしょう。車両ごと乗れる列車が疾走する地下空間と云えば、自分的には『新世紀エヴァンゲリオン』のジオフロントなど思い出すのですが、それはともかく。列車の中をケッテンクラートで移動するうち、2人は“回る地球の上を走る列車の中で移動する自分たちは、いったい時速何キロで移動しているのか”という疑問に翻弄され、さらに時間についての考察に進んでいったりもします。
 そうこうしているうちに列車は止まり、2人は降りて進みます。以前(3巻)立ち寄った墓地で入手したラジオからは、不思議な声の連なりが流れてきますが、2人にはそれが“歌”であることを、はっきりとは理解できない様子。
 この漫画が始まった時には既に2人きりで旅をしていた彼女達ですが、どんな風に生きてきたのか気になります。人類は、とっくに歌なんてものは忘れてしまったのでしょうか。

 昇降機を見つけた2人は、それに乗って地上部に出ます。そこにあったのは、よりはっきりと聞こえるようになった歌と赤い夕日。悲しいリズムと光が目に沁みつつ、身だしなみを整えたりする2人ですが、眼下に広がる風景は、大きな戦いの傷跡を残した痛ましいものです。以前「イモ」から作った固形食料を2人が食べていると、そこに奇妙な来訪者が。それは、人語を解す、何だか長い生き物でした。
 「ヌコ」と名付けたそれとともに、2人は移動を再開します。そろそろ食料が乏しくなってきている2人ですが、ヌコは何故だか銃弾や燃料を食べるみたいなので、その辺の心配は無用なようです。
 移動の途中、チトは古い本を拾います。その装丁から『War in Human Civilization』という実在の本だと思われますが、「なぜ戦争がなくならないのか」を考えて「いろいろな本を読んだり」しているという(今巻あとがき参照)つくみず先生が読んだ1冊でしょうか。日本語訳としては『文明と戦争』という名前で刊行されているようなので、自分も一読してみようかな、と思います(上下巻という大ボリュームですが…)。

 次にめぐり会ったのは、やたら部品をばらまいて落下してきた、巨大ロボット的な何か。「的な」というか、中に乗り込めるようなのでズバリ巨大ロボットなのだと思います。ユーリの軽はずみな行動で見渡す限り火の海に…。作中の時代よりずっと前に、大きな戦争があったことが示唆されていますが、このロボットなども投入されたのでしょう。
 さらに進むと、そこは金属製の巨大トウモロコシ畑(森?)とでも云えそうな場所でした。風変りな風力発電施設か、あるいは集光型太陽光発電施設でしょうか。その金属の畑を突っ切って進んだ先に現れたのは、かつて巨大ロボと同じように戦争に使われたであろう潜水艦でした。
 無人ですが電源が生きている艦内では、本物のチョコレートが見つかったりもしますが、2人はそれがオリジナルのチョコレートであるとは認識できないみたいです。読者である我々が当然と思っていても、その知識が伝達されていない場所では当然とは思われない、というのが今巻のテーマでしょうか。
 ふとしたことから以前カナザワ(1~2巻)から譲り受けたデジタルカメラのデータが開かれ、2人はカメラが写してきた人々の姿を見ることになります。
 今はたった2人だけど、カメラが手渡されてきた時間の中には、多くの人がいたということ。終末感が漂いつつも基本的に暢気な旅を続けている彼女達ですが、もちろん寂しさを感じています。その中で見いだしたこの事実に、2人は勇気づけられたと思います。

 眠っていた2人が目覚めてみると、そこには巨大になったヌコが。というか、それは幼体であるヌコと同族の成体なのでした。彼らは一体何なのか。それを成体は教えてくれます。
 それは同時に、人間達が何をやってどうなってしまったのかを示すものでもありました。しかし2人にとっては、確かに「どうでもいいこと」かもしれません。2人だけでは、どうにもならないことでもあります。
 成体たちと共に行くヌコとも、別れの時となりました。そのとき2人が感じた穏やかな絶望感に、自分は少し泣きました。

 斜陽の世界で、それでも生きている2人の旅は続きます。次の刊行は夏の終わり頃でしょうか。巻末のチトの絵日記を解読したり、『文明と戦争』を眺めたりしつつ、続きを待ちたいと思います。

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