漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

*

「 SF 」 一覧

第93夜 仮想ロボバトルと男の娘の惑い…『バーコードファイター』

「そのゴーグルを通して見た物は、ゲーム世界での現実なの。/烈ちゃんは今、パイロットスーツに身を包んで愛機のコクピットに座る……、/バーコードファイターなのヨ!」


バーコードファイター (上) (fukkan.com)

バーコードファイター小野敏洋 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1992年3月~1994年6月)

 お調子者の虎堂烈(こどう・れつ)はゲーム好きの11歳。ある日、行きつけのゲーセン「ドラゴン」に向かうと、フロアはガラガラ。聞けば、客はみんな屋上に新設された「ゲームドーム」に行っているという。
 屋上で烈が見たのは、ドーム内の天井全体がスクリーンとなった超大型体感ゲームだった。ゲーム名は「バーコードファイター」。自分が見つけてきたバーコードをマシンに入力し、その情報から生成される仮想オリジナルロボを操縦して戦う、バトルシミュレーターゲームだ。一足先にプレイしていた幼馴染の有栖川桜(ありすがわ・さくら)に勧められ初プレイした烈だが、一撃で敗退してしまう。対戦相手の掛須巧(かけす・たくみ)の挑発を受けた烈は、バーコード探しを経て愛機ダッシュビートルを戦士登録する。
 掛須やアメリカ人戦士のスティーブ・セコイア、格闘戦が得意な清白彩(すずしろ・あや)、電話回線を介して戦う日本全国の戦士達と烈の、ゆるいノリながらも真剣なバーコードバトルは続く。しかし、いつしか物語はバーコードをめぐる陰謀との戦いに遷移していく。

ホビー漫画からの逸脱
 バーコードの情報から生成された戦士を戦わせるエポック社の電子ゲーム機「バーコードバトラー」が発売されたのは、自分が小学生だった1991年だ。本作はそのメディアミックス作品として、少年向けホビー漫画の牙城である『月刊コロコロコミック』にて連載されていた。
 興味をそそられたものの、結局自分は「バーコードバトラー」を購入しなかった。当時としてもそこまで進歩的とは云えないモノクロ液晶画面で(モノクロ液晶の大ヒット携帯用ゲームハード「ゲームボーイ」は89年に発売)、バーコードから戦士を作って戦わせるという単機能モノなところがネックに感じられたからだ。しかし、本作はそうしたオリジナルのビジュアルの貧弱さを補いつつ、明るく楽しげな世界観も相まって自分を惹きつけた。
 作者の小野敏洋は、これ以前にも『ミニ四駆快速マニュアル』シリーズなどで漫画やイラストを手がけており(本作のゲームドームスタッフである権田原夏樹(ごんだはら・なつき)も登場している)、その経験を生かしてか、お気楽な雰囲気でありながらも、人物もメカも当時の少年向け作品としてはスタイリッシュにまとめている。ちなみに別名義の成年向け漫画でもその特殊性で知られた描き手だ(後述)。
 強いバーコード探しと、それを用いての仮想空間でのロボバトルが本作序盤の構成要素だが、段々と大規模なSF・ファンタジー的な展開をみせるようになる(その内の古代文明がらみのエピソードは、本作の少し前に同じ『コロコロ』で掲載されていたミニ四駆漫画、徳田ザウルス『ダッシュ!四駆郎』の終盤を彷彿とさせるが、何らかの繋がりがあるのだろうか)。これを単なるストーリー上のテコ入れと取ることもできようが、萩原一至『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』やCLAMPの諸作品など、90年代前半に一部で流行した、“個人レベルでの行為が世界レベルの命運を決定する”という、後のセカイ系の萌しとも云える動きの一つと見ることもできるだろう。成功しているか否かは措くとして、単なるホビー漫画の枠を超えた試みであったに違いない。

彼女の物語
 本作を語るにあたり、やはり避けて通れないのが精神的にも外面的にも女子としてふるまう男子、今風に云えば「男の娘」についてだろう。ほぼ打ち切りに等しい幕切れに終わった本作だが、打ち切り後しばらくは、その理由が「男の娘」を描いたため(関連して、過激な性的描写があったため)だという噂が囁かれたという(復刊版のあとがき漫画では否定されている)。作者は本作の数年後に、その筋の成年向け漫画によって局所的な人気を博すことになるが、1992年という時代に、しかも少年誌でその萌芽を描いたということには、是非はともかく、言葉通り前衛的だったと云えよう。
 “女の子になりたい男の子”という存在は、奇しくもバーチャルリアリティが実現している作品世界とリンクする。結果的に本作の最終章となった、「男の娘」を仮想世界から救い出す一編は象徴的だ。もはやバーコードで生成されるロボがただの道具扱いになっているが、彼女(敢えてそう記そう)の物語という視点からは中心的なエピソードと云えよう。バーチャル世界に身を浸しながらも、ある人物の心からの包容力ある言葉を受けた彼女の表情を見ると、性別にこだわって自分らしさを抑圧することの悲惨さを、真面目に考える。いまだに物議を醸すこともある本作だが、彼女の物語がひとまず区切りが付くまで綴られたことは僥倖だ。

*書誌情報*
☆通常版……新書判(17.6 x 11.4cm)、全5巻。絶版。

☆ブッキング版…A5判(20.4 x 15cm)、全2巻。2004年に「復刊ドットコム」を介して発刊。絶版。

☆オンデマンド版…A5判(21 x 14.8cm)、全2巻。上記ブッキング版のオンデマンド印刷版。

広告

広告
thumbnail

第92夜 優しさ、ゆえに精神を壊す…『MIND ASSASSIN』

「この平和な時代で/ボクの力が本来の意味で使われることは もうないと思ってた……/でも それは…自分が勝手にそう望んでいただけなのかもしれない…」 『MIND ASSASSIN』かずはじめ 作、集英社『週刊少年ジャンプ』→『週刊少年ジャンプ増刊号』→『月刊少年ジャン……

thumbnail

第91夜 鈍く終局する世界を見て歩くもの…『ヨコハマ買い出し紀行』

「この数年で世の中も随分変わったわ/時代の黄昏が/こんなにゆったり来るものだったなんて/私は多分/この黄昏の世をずっと見ていくんだと思う/私には/時間はいくらでもあるからね」 『ヨコハマ買い出し紀行』芦奈野ひとし 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(1994年4月[……

thumbnail

第82夜 旅の最果てを目指し、少年と彼女は行く…『銀河鉄道999』

「あなたは機械の体をくれるという星へ行くのね/もし私をいっしょにつれていってくださるならパスをあげるわ/私と同じパスをあげるわ」「パス?」「そう/パスよ/無限期間有効の銀河鉄道の定期よ」 『銀河鉄道999』松本零士 作、少年画報社『少年キング』掲載(1977年1月~……

thumbnail

第81夜 ゲームと世界の特異点…『PSYCHO+(サイコプラス)』

「知らないの?/この緑色はね……/悪魔の色なんだよ!!」 『PSYCHO+(サイコプラス)』藤崎竜 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1992年11月~1993年2月)  もって生まれた緑色の瞳と髪という特異体質のせいで、日陰者の生活を余儀なくされていたゲーム好……

thumbnail

第79夜 貧乏とUFOと…『NieA_7(ニア アンダーセブン)』

 2013/07/22  100夜100漫, , ,

「人はパンのみにて生くるにあらず?」「疑問形かよ!!/パン買えない人が言うな!!」 『NieA_7(ニア アンダーセブン)』安倍吉俊+g(ジェロニモ本郷)k(糞先生) 作、角川書店『月刊エースネクスト』掲載(1999年9月~2000年12月)  大学受験に失敗した……

thumbnail

第74夜 彼女は庶民的な日常とSF世界を行き来する…『成恵の世界』

「飯塚クン/私なんか誘ってもつまんないわよ」「そ/そんなコトないよっ」「ビンボくさくてネクラでも?」「うん」「愛読書が女性セ○ンでも?」「う うん」「父が宇宙人でも」「うん」 『成恵の世界』丸川トモヒロ 作、角川書店『月刊少年エース』掲載(1999年4月~2012年……

thumbnail

第62夜 彼方に挑む者達と、一切をただ抱擁する者達…『プラネテス』

「そのオッサンはな/地球(おか)の上で満足できる人じゃねェんだよ/オレにはわかる」「独りで生きて/死んで/なんで満足できるんですか/バカみたいよ/宇宙は独りじゃ広すぎるのに」 『プラネテス』幸村誠 作、講談社『モーニング』掲載(1999年1月~2004年1月)  ……

thumbnail

第61夜 真摯に生きる生物の姿は時としてスプラッタだ…『寄生獣』

「…………この前/人間のまねをして…………/鏡の前で大声で笑ってみた……/なかなか気分がよかったぞ……」 『寄生獣』岩明均 作、講談社『モーニングTHE OPEN』→『月刊アフタヌーン』掲載(1989年8月~1994年12月)  地球上の誰かがふと思った。「生物(……

thumbnail

第45夜 新鋭機と“お役所的仕事”の流儀…『機動警察パトレイバー』

「よくみとくといいや。/志望がかなえばこいつに命預けることになる。」「じゃ……じゃあこれが……/新型の警察用レイバー!?/こ…これは…/趣味の世界だねえ……」「とかいいながらわりと気に入ってるだろ。」 『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみ 作、小学館『週刊少年サンデ……

広告

広告