【一会】『白暮のクロニクル 7』……迫る未年の終わり、まだ視えない真相
2018/07/20
非常な長命と不死性を有する“オキナガ”と、それを管理する厚生労働省夜間衛生管理課(通称やえいかん)が存在する世界。夜衛管の新人・伏木あかり(ふせぎ・――)と、88歳にして外見は少年な“オキナガ”雪村魁(ゆきむら・かい)の2人が、未年ごとに若い女性を殺害する連続殺人者“羊殺し”を追い、関連する事件を解決するオカルティック社会派推理漫画『白暮のクロニクル』の7巻が発刊となりました。今巻の舞台は、銀幕です。
前巻で登場した『週刊ゲンロン』の記者・須本美和(すもと・みわ)殺害が報道される2015年9月下旬から、今巻はスタート。
前巻で血縁が明らかになった、あかりの父と魁が対面し、あかりにとっての実の祖母となる津野田棗(つのだ・なつめ)について話し始めますが、テレビで紹介されたとある映画の制作発表によって中断されます。
その映画とは、“羊殺し”を題材とした映画『眠れない羊たち』。オキナガを思わせる犯人の吸血鬼を主役に置いたシナリオということで、社会への影響大と見て、あかりと魁はこの映画に接近することになります。
一方、5巻で登場した魁の元弟分・柘植章太(つげ・しょうた)の意識が戻りますが、棗の殺害当時の記憶がないようで真相解明にはまだ時間がかかるでしょう。章太のことはあかりの医大時代の先輩・山田先生に任せ、2人は映画の撮影所へと赴きます。一般に認知度が低い“羊殺し”をモチーフにした映画の企画を、いったい誰が立てたのか、その辺りを探ろうというわけです。
どうにか現場に潜り込んだ2人ですが、シナリオはやはり“オキナガ”の悪印象を煽るもの。さらに映画製作中止を迫る自称“羊殺し”の脅迫状が送られてきますが、それでも制作は続けるようで。
色々と納得いかない様子の魁ですが、主演の1人で“オキナガ”役をやる数馬涼(かずま・りょう)との、演技指導という名の雑談は割と楽しんでいる様子です。歳が近い(いや、本当の歳は半世紀以上離れていますが)ためか、共感する部分もあるようです。将来の夢を語る涼に、自分のかつての――あらゆる意味でもう叶わない夢を語る魁には少しばかり感傷を誘われます。
しかし、ここで事件発生。死者1名を出した犯行について、映画のシナリオに反感を持っていたため動機があるということで、魁は警察に“引っ張られ”てしまい、あかりは医師免許を持っていながら何もできなかったと悔やむことになります。
しかし、“オキナガ”が悪者になっていく状況をそのままにもできません。もう1人の主演・鈴川なえ(すずかわ・――)の秘密を知ったのを切っ掛けに、あかりの推理が珍しく(!)冴えていきます。
自分は今回、割と早い段階で犯人を当てられました。廊下と部屋の見取り図を考えて、誰が犯行可能だったか、というのを考える、古典的といえば古典的な展開ですが、それだけに考えやすかったと思います。犯人が分かっているので、クライマックスは推理というよりサスペンスチックな味わいで、それもまたよしでしょう。
また、“現実と勘違いすることを前提として虚構を制作すべきか否か”ということについての鳥飼プロデューサーの言葉も興味深いものでした。3巻あたりもそうでしたが、たびたび挿入される創作物と世間の関係に関する考察は、この漫画の隠し味と云えそうです。
かくして今回の事件は一段落ですが、その解決の過程で“羊殺し”についてまた1つ新たな情報が明らかになりました。作中の時間はまだ2015年秋、年末までに大きな動きがあるのは間違いありません。嫌がらせをされて按察使文庫(あぜちぶんこ)に転がり込んできた2巻に登場した“オキナガ”巻上良三(まきがみ・りょうぞう)の今後や、これから鈴川なえが語るであろう“羊殺し”の情報など、今後の展開を占う要素は色々とありますが、何より不穏な動きを見せる夜衛管の統括者・竹之内参事が気になります。
全てが明らかになる時が徐々に、しかし確実に迫るなか、巻末おまけ「伏木あかりの推理手帳」であかりの推理への突っ込みもかわし、2016年4月末刊行予定の8巻に続きます。思わぬところに伏線が隠されている本作。そのつもりで既刊をなめるように読みながら、次巻を待ちたいと思います。