【一会】『白暮のクロニクル 4』……反逆者の来歴、カインと吸血鬼、彼の嫌悪の意味
2018/07/20
3巻から少し間があいて、5か月ぶりの4巻となった『白暮のクロニクル』。その辺の事情は巻末のおまけ漫画に詳しく描かれていますが(いやまあ、ゆうき氏まさかのBL漫画漫画(誤記にあらず)『でぃす×こみ』との同時進行のせいなんですが)、まあそれはそれとして。
今まで深く考えてきませんでしたが、今巻に付けられたサブタイトルは「Vの聖痕」。この往年の本格推理っぽい副題を見て、「この漫画は“オキナガ”という吸血嗜好と長命性を併せ持つオカルティックな存在を含んだ、1巻1エピソードのミステリなんだ」と再認識しました。
人間と完全にと云っていいほど同一の肉体を持ちながらも、何かが決定的に異なる“オキナガ”が共存する世界。読者たる我々が生きる現実ともどこか地続きな政治的だったり経済的だったりする課題を孕んだ中に巻き起こる事件に、“オキナガ”の古株でありながら「吸血童貞」の雪村魁(ゆきむら・かい)と、彼らを援護(事実上は「管理」)する厚生労働省夜間衛生管理課(通称やえいかん)に所属するルーキー伏木あかり(ふせぎ・――)が挑むちょっと風変わりなSFオカルティックミステリ。と、改めてこの漫画を表現すると、そうなるんじゃないかというわけです。
魁のアジトである按察使(あぜち)文庫を訪れた“ちょっと太めなのび太君”とでも形容できそうな青年、梶田直(かじた・すぐる)。彼の妹で夜の仕事に手を染めていた杏奈(あんな)が失踪し、その直前に“オキナガ”との関わりがあった、という話から今回の話は始まります。
時を同じくして起こる女性の失血死事件。「“オキナガ”=吸血鬼」と主張するかのようなウェブサイト『カインの裔』と、その管理人の“オキナガ”村上淳資(むらかみ・あつし)および仲間たち。“オキナガ”の自由度を拡張した改正案が国会で持ち上がっている「長命者援護法」。そんな要素が絡み合い、事態は進んでいきます。
持ち込み原稿への編集者の対応になぞらえた、ゆうきまさみ的「カインとアベル」も面白いですが、ゲスト“オキナガ”ムラカミの半生がまた興味深い。幕末、自由民権運動、全共闘という日本の革命の歴史を、自分史の中で認識している彼は、どんな思いで現代を眺めているのでしょう。そんな彼の物語を、どこか別のところで見たいような気もします。
今回の真相は、そこそこミステリを読んでいる自分にとってそこまでの驚きはないものの、相応に説得力のある手堅い作りと思いました。しかし、それ以上に目を引くのは「娼婦殺し」に対する魁の強い嫌悪かと。
“役人100人の苦労よりデリヘル嬢2人の命の方が重い”という彼の持論には頷けますが、そこに単なるヒューマニズムとか、人間だった頃に愛していた長尾棗(ながお・なつめ)の最期への自戒以上のものを感じるのは穿ち過ぎでしょうか。彼の過去は既に2巻後半で明かされていますが、まだ伏せられていることがあるのかもしれません。
かくて、魁とあかりの間は微妙に距離をあけたまま、物語は次巻へ。4月末刊行予定の5巻では、あかりは研修出張に赴くようですが、当然のごとく何事もない訳にはいかないでしょう。既刊を再読して、結構な数が出てきた“オキナガ”たちを整理しつつ、楽しみに待つとしましょう。