【一会】『せっかち伯爵と時間どろぼう 5』……始まりなのか、終わりなのか
2018/07/20
人類の60倍の速度で生き、しかし寿命はたった1年のために時間中に飛び飛びに存在するという人類の上位存在、上人類の生態を、物事の新解釈&パロディ&風刺ネタ満載で描くこの漫画(まあ、云ってしまえばネタの方が本体なのかもしれませんが…)『せっかち伯爵と時間どろぼう』。前巻から3か月で5巻の発刊となりました。
今巻、前半は新解釈&パロディ&風刺ネタの平常運転ですが、後半は物語が大きく動き出した印象です。とりあえず前半から気になったことでも拾っていきましょう。
夏祭りに出かけた時只卓(ときただ・すぐる)、夕仏真心(ゆぶつ・まごころ)、ミチル、葦姫は例によっておかしな屋台に遭遇しますが、ひときわ異彩を放つのは4次元面なる年をとるお面を売る屋台。「若い時何のキャラだったかわからない」というのを逆手に、ギリギリのお面が陳列されています。「これはアレかな?」「アレなわけない」のやり取りが秀逸です。
真心の「シミソバカスを作らず体内時計をリセットする」という強引な思考で日光を訪れた卓たちは、今度は伯爵が解釈するところ“上人類の体内時計リセット法”だという丑の刻参りに触れることに。こういうネタはもはや久米田漫画ではお家芸とも云えるものですが、唐突に登場したコテカの小手川君のバカバカしさに思わず笑いました。
そして、お月見しながら夏目漱石の「月が綺麗ですね」に関する雑談から展開する“天使語”の一篇。ここでいう“天使語”とは要するに「お花を摘みに行ってきます」=「トイレ行ってきます」という類の隠語のことですが、それが上人類によってもたらされたという新解釈。でも福沢先生の言葉は違うと思うんですけど…。
そんないつも通りのエピソードの後、急展開は訪れます。
70年後の未来に飛んだ伯爵が見たのは、ある人物の死。そして、迫る伯爵の妹ミチルの時命(寿命のこと)。さらに、黒奥様の云う、人類でも上人類でもない、もう1つの時計の針に相当する種族のこと…。
幾つかの謎が提示され、物語は“2週目”に突入します。新たな展開が始まったようにも、幕切れに向かっているようにも思えますが、今巻ラストでは“終わり”が匂わされているような。実際、今週号の本誌(12/24発売)で終わるという噂もありますが、現時点では確認できません。
いずれにせよ、この漫画が近く節目を迎えるのは確実でしょう。お月見の時に卓が云った「100年待っていて下さい」は、夏目漱石『夢十夜』の「第一夜」からとったのかなと思いつつ、その言葉に従って静かにその時を待とうと思います。