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第165夜 かつてこの国が経験した、凄絶な季節に…『夏のあらし!』
「それでも/夏の間だけでも/生きて再びこの世界に居られることを感謝したいわ/だから精一杯/楽しく生きるわ/命短し/恋せよ乙女/紅き唇/褪せぬ間に…ってね/生きてるあなたは/恋をしなよ!」

『夏のあらし!』小林尽 作、スクウェア・エニックス『月刊ガンガンウイング』→『月刊ガンガンJOKER』掲載(2006年8月~2010年10月)
八坂一(やさか・はじめ)は、チビで眼鏡ながら科学への愛と男気に溢れた中学1年生。実家がある広島の呉から、夏休みを利用して横浜の祖父の家に遊びに来た。炎天下を歩き疲れ、涼みに入った喫茶店「箱船(はこぶね)」で、古風な雰囲気とたおやかな黒髪をもった年上のウェイトレス、嵐山小夜子(あらしやま・さよこ)に一目惚れする。
ふとしたトラブルで2人が触れ合った瞬間、電流のような衝撃が走り、「通じた」と叫んだあらしは一の手を引き外へと飛び出す。裏山を駆け抜けると、そこには60年前、大東亜戦争真っただ中の横浜が広がっていた。驚く一。あらしは、60年前の横浜大空襲で命を落とし、以来、毎年の夏だけを過ごしている幽霊で、特定の人物と「通じ」、手を繋ぐことで過去へと「飛ぶ」能力があるのだ。
厄介ごとを嫌う「箱舟」のマスター(実は稀代の女詐欺師)はあらしをクビにしようとする。あらしを「箱船」に置いてもらうためマスターと勝負し敗れた一は、居合わせた中1の上賀茂潤(かみがも・じゅん)共々、「箱舟」のウェイターとして働くことに。その一方で、あらしが過去へ飛び、当時の人々を戦禍から救うのを手伝う決心をするのだった。
そして、ほどなく波乱は訪れる。あらしと同じ女学校の生徒として空襲に遭い、幽霊となって現世に留まっているカヤ・バーグマン、伏見やよゐ(ふしみ・――)、山崎加奈子(やまざき・かなこ)。彼女らの登場により、過去と現在は交錯の度合いを強めていく。
彼女たちがいちばん綺麗だったとき、全ての人を襲った酷烈さは、友情も恋心も家族への想いも、全ての希望を赤黒く塗りつぶした。
その時と同じ夏の暑さを感じながらも、一も潤も、まだそのことを実感してはいなかった――。
