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【一会】『双亡亭壊すべし 6』……命を振り絞るということ

      2018/07/21

双亡亭壊すべし(6) (少年サンデーコミックス)

 呪わしいおばけ屋敷に対抗する人間たちの知恵と能力を結集した、亡者VS生者の物語と思いきや、屋敷に干渉する宇宙の彼方からの意思が明らかとなり、にわかにSFチックホラーアクションの色を帯びてきた『双亡亭壊すべし』。先日に引き続いて、昨年10月刊行の6巻について書きたいと思います。

 紅の助力と凧葉の言葉によって、鬼離田三姉妹のうち次女・雪代と三女・琴代はどうにか乗っ取られることはありませんでした。が、外道修験者の朽目を始め相当数の人員がやられてしまいましたし、残った能力者達も疲労の色が濃い状態。
 そして自衛隊による爆破作戦も不発ときては、宿木の下した撤退という判断は合理的だと云えるでしょう。実際、ほぼ全員が同意しましたし、読んでいる自分もその方がいいと思いました。
 しかし、異を唱えるものがありました。凧葉です。

 もちろん自分も怖くて逃げたい。けれど、まだ皆が十分に戦ったわけじゃないのに逃げたくない。彼の言葉を要約すると、そういうことです。そして、彼が云う“十分に戦う”とは、つまり、それぞれが協力し合うということ。確かに、これまで個人技ばかりで、連携も何もあったものではありませんでした。凧葉の言葉にまず紅が、そしてフロルが、能力者たちが次第に翻意していきます。 自分としては、それでも撤退した方がよいのではと思ったのですが、確かにここで帰ったら二度と戻る気にはならないというのも頷けますし、難しいですね。その場に居たら凧葉と侃々諤々やってしまいそうです^^;。
 結局、彼らは〈双亡亭〉に残ることを選びます。まず行なったのは各自が持っている情報の共有。そこから推論された「奴ら」の弱点とは――窒素。3巻で第34代総理の“溶ける絵”を撃退した時、青一が口にしたのと同じ元素でした。
 既に無線が途絶しており、外に伝える手段がないと悔しがる凧葉。が、外では既に、青一の言により液体窒素が手配されていました。

 窒素のことはひとまず置いて、〈双亡亭〉内部の面々の推論は更に先に進みます。窒素を減らし、〈双亡亭〉で人間と入れ替わり乗っ取って、「奴ら」は何を目指しているのか。それを突き止めるため、フロルのテレパシー能力を頼りに、凧葉たちは前衛・後衛に分かれて“乗っ取られ人”(作中ではこう呼ばれてはいませんが、便宜的にそう書きます)の後を追います。
 夥しい数の“乗っ取られ人”が向かう先で、彼らはその“目的”を目にしました。手先が朽ちた多くの死体が転がるその光景は何とも忌まわしく見えます。
 “乗っ取られ人”の行動が意味するのは、彼らが双亡亭の底部で穴を掘っているということ。窒素の多い地球上の大気中では活動できず、水中では活性化する「奴ら」は、地下を流れる水路――暗渠を通じて海に出ようと画策しているようです。
 が、様子を見ることができたのはそこまで。凧葉たちに気付いた鬼離田三姉妹の長女・“乗っ取られ”菊代の指示で、“乗っ取られ人”たちが襲いかかってきます。応戦する紅たち。しかし多勢に無勢です。
 窒素されあれば「奴ら」を一網打尽にできるのに。その気持ちをテレパシーで呼びかけたフロルは、青一との感応に成功。液体窒素が手配されるのと同時に、緑朗を小脇に抱えた青一は、ついに双亡亭と対面しました。液体窒素をなるべくフロルたちに近付けるため、そして何より双亡亭を壊すため。青一のドリルの腕によって突撃が敢行されます。
 〈双亡亭〉内の戦況は刻一刻と悪化していきます。対して、外部では自衛隊を始めとした種々の大人の事情が、液体窒素の搬入を遅らせます。けれども、緑朗の懇願が届く人もありました。年少者の必死の願いに心動かされる大人という構図は、『うしおととら』(100夜100漫第64夜)でも『からくりサーカス』(第27夜)でも、初期の短編「メリーゴーランドへ」(短編集『夜の歌』所収)でも見られました。藤田先生の漫画の、きっと根幹を成すピースの1つだと思います。

 ともあれ、ついに液体窒素を積んだトラックは、フロルの能力圏内に到達。そして、彼女は死力を尽くします。
 物体を引き寄せて現出させる超能力「アポーツ」を、恐らくかつてない強さで駆使する彼女の脳裏に浮かぶのは、故郷ヘルシンキに居た頃のこと、アウグスト博士に見出されて養女になってからのことでした。
 死を覚悟して力を振るうフロルを見ていて思うのは、「他人が自分を必要としてくれる、その根拠である力を振り絞って死ぬなら本望」という考え方は、美しいけど悲しいということです。そんなことしないでも認めてくれる人が、彼女にはいなかったのか、と思います。
 けれども、今まさに命を燃やそうとしている人を目の当たりにして、止めることはできないでしょう。やり遂げて血の涙を流しながらも誇らしげなフロルの表情に、自分はやっぱり心震えました。彼女の生死は今巻終了時点では不明ですが、叶うなら幸せになって欲しいと思います。

 フロル決死の「アポーツ」は、状況打破の決定打となるか? というところで、今巻は閉幕。巻末のあとがきおよび予告を見ると、事態は更に混迷の度合いを高めていきそうですが…。
 気になる7巻は、幸福なことに既に昨年12月に刊行済みです。このまま最新刊に歩を進めて参りましょう。

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