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【一会】『乙嫁語り 9』……同じ方を見ている2人

      2017/03/21

乙嫁語り 9巻<乙嫁語り> (ビームコミックス(ハルタ))

 昨年暮れに出た、中央アジア諸方お嫁ストーリー『乙嫁語り』の第9巻。だいぶ遅くなりましたが、つれづれ感想などを書きたいと思います。
 前巻に続きまして物語は、手先も態度も不器用系なパリヤのエピソードです。
 アミルの実家ハルガルの襲撃により家がほぼ全壊し、以来アミル達のところへ厄介になっているパリヤ達。嫁入りの準備である「布支度」として手間ひまかけて刺繍していた布類も失ってしまい、これを再度準備しないとお嫁に行けなと焦りがつのり、ついでにちょっとお転婆なところを婚約相手のウマルに見られてしまい、絶対嫌われた! と、例のマイナス思考で鬱々しているところに、いい感じのお嬢さんカモーラと友達になり、少し救われたパリヤ――というあたりまでが、前巻の内容だったと思います。

 冒頭に、作中に出てくる動物たちと登場人物の関わりをコミカルに描いたスナップ的4コマ漫画「いきものがたり」を置き、本編はパリヤ達のパン作りのエピソードから。
 襲撃から徐々に街が復興されていく中、パリヤとカモーラは一緒に共用かまどでパンを焼きます。彼女たちの焼くパンは円盤状でけっこう固そうと、我々が親しんでいるパンとはちょっと違います。今巻の巻末あとがき漫画「あとがきイヤッホゥ!マンガ 春が来た」でも少しだけ触れられていますが、味は美味しいらしいので、いつかどこかで食べてみたいところ。
 胡麻か何かで描かれているパンの文様は、パリヤが四苦八苦している布の刺繍と同じように、それぞれ意味があるようです。その説明を通じて、彼女はウマルに自らの想いを精一杯伝えます。
 得意分野を活かしてコミュニケーションするというのは、いい方法ですよね。一方通行では駄目ですが、相手の反応を見ながら語りかけるというポイントを押さえれば、パリヤさんみたいにコミュニケーション力に若干難ありでも、思っていることを伝えられるのではないかと思います。

 父親が再開させた焼き物の店を手伝いつつウマルの情報を集めるパリヤや、弓の練習をするカルルクとアミルの一悶着(というほどでもないですが)を挟んで、今巻のメインと思われるエピソードの始まり。パリヤとウマルの、ちょっと遠方へのお使いです。
 女性が使う眉墨(5巻でライラとレイリが使っていましたね)の材料である葉を受け取りに親戚の家まで行くことになったパリヤ。そんな彼女をウマルは馬車で送ってくれますが、往復で半日ほどかかるようで。
 その間ずっと2人きりという、パリヤの緊張が天井知らずに高まるシチュエーションではありますが、あれこれ考えて挙動不審なうちにあっさりと往路は終了。殆ど会話もできなかったことにパリヤは落ち込みますが、しかし帰り道では少しだけいい雰囲気に。現地の民謡(森先生のことなので、もちろん文献を参照されていると思われます)をパリヤが歌うのですが、その素朴で謙虚な歌詞には、読者もほっこりすると思われます。
 このままつつがなくお使いは終わるかと思いきや、2人は路上に倒れている女性を発見、救助することになります。

 相変わらずトラブルに巻き込まれているフィールドワーカーのスミスとガイドのアリ、北方で交渉が難航しているアゼルたち、弓の一件があっても変わらず仲睦まじいカルルクとアミルといった面々を双六仕立てで描いた1話を幕間的に挟み、パリヤ達の物語が続きます。
 急病人の女性を運び込むのを手伝い、そのまま2人は女性の家に一泊(もちろん別室ですが)することに。翌日、街へと帰る途中で、パリヤはようやくウマルに自分の思いを言葉で伝えることができました。布支度が終わるまで、結婚をもう少し待って欲しいというパリヤに、ウマルも承知してくれます。信じられないパリヤに、ウマルが“担保”としてとった行動は、パリヤには刺激が強すぎたようですが…。
 これで本当にお使いも終わりと思ったら、まだトラブルが残っていました。前夜から不穏な感じではありましたが、突然の破壊音とともに、馬車の車軸が真っ二つに。まだ家までだいぶあるとことで立ち往生――と思われましたが、そこはメカニズム好きなウマルと力持ちなパリヤ。よさそうな立木を見つけて仮軸を作ります。この“共同作業”が、2人とも生き生きとして清々しいです。
 見事に仮軸を作り上げて馬車に組んだものの、道具もないところで急ごしらえしたものなので、それほど巧くいかず。結局、馬車から降りて引いたり押したりしながら帰ることになります。が、失敗しても2人で困難を分かち合って歩いていく様は、2人が立派な夫婦になることを予期させます。
 帰ったら帰ったで、無断で一晩帰らなかった2人は(というか主にウマルが)、怒られてしまうことになりますが、視線を合わせる2人の間には、確固たるものが生まれたようです。

 その後、倒れていた女性たちがお礼に来たりしますが、パリヤは布支度、ウマルは復興の手伝いという、変わらぬ日々を過ごすことに。けれど、パリヤの周りにはもうアミルやカモーラや幾人かの友人がいますし、以前のような孤立気味な少女ではなくなりました。口下手なままではありますが、ちゃんと人への好意を伝えることもできますし、友人達の手伝いで、布支度の方も何とかなりそうです。
 パリヤの家の立て直しが終わり、子猫も貰うことになった日。その屋上でウマルは未来の妻に、将来の夢を語ります。
 隊商宿をやりながら技師などをやりたい、というその夢に、パリヤも自分の夢を重ねます。自分が得意なパンを焼いて、宿泊客に売るというのは、なかなか盤石なビジネスモデルだと思いますが、どうでしょう。2人の結婚はもう少し先のようですが、もう2人は同じ方向を向いているようです。

 ――というところで、今巻はお開きとなりました。あとがき漫画によれば、次巻は北方で暮らすことになったアゼルたちと牧畜についての話がメインとなりそうです。
 刊行は、また年末になるでしょうか。作中に出てくるパンを食べられるお店を探しつつ、楽しみにしたいと思います。

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