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【一会】『ダンジョン飯 5』……「めでたし」からの急転直下

      2018/07/21

ダンジョン飯 5巻 (ハルタコミックス)

 まるで往年のコンピューターRPG『ウィザードリィ』あるいは『ダンジョン・マスター』のような迷宮探索と、そういう世界観での食にまつわる記載がミックスされた、九井諒子氏による妙に所帯じみた“剣と魔法”系ファンタジー『ダンジョン飯』。現在6巻まで刊行されていますが、まだ述べていなかった昨夏刊行の5巻から書きたいと思います。

 人間の戦士ライオスが、迷宮内で炎龍(レッドドラゴン)に喰べられてしまった妹ファリンを救出するため、エルフの魔法使いマルシル、ハーフフットの鍵師チルチャックに、ドワーフの戦士センシを加えたパーティでダンジョンに再挑戦する――という導入で語られてきたこの漫画。ダンジョン内のモンスターを食材とした「魔物食」について、ちょっと常軌を逸し気味な興味を抱くライオスと、「魔物食」の実践家であるセンシのおかげか、その道中は結構な割合でドタバタ風味となりましたが、ともあれ前巻で当初の目的は果たされることとなりました。すなわち、因縁の相手である炎龍の打倒と、亡骸となっていたファリンの蘇生です。

 けれども、ファリンの蘇生はマルシルの古代魔術(≒禁術である黒魔術?)によるものですし、その蘇生の際、必要となる血肉を炎龍のもので補ったという辺りにも、なにやら不穏なものが漂っているのも事実。そんな状況ではあるものの、炎龍の肉でハムを作るセンシを除いては全員休憩中という場面から、今巻は始まります。
 開幕早々、前巻で自分が抱いた嫌な予感が的中してしまいました。眠り込む一同の中、目覚めたファリンは姿を消します。
 炎龍の亡骸の傍らで錯乱するファリンに対し、なぜか主人のように振る舞う謎の人物は、追いかけてきたライオスを「汚らわしい盗賊」呼ばわりし、見覚えがある、と云います。そういえば2巻で彼が絵の中に入った時、侵入者だと認識して攻撃を加えようとしてきたエルフがいたことを思い出します。ただ者ではないようですが、ライオスのモノローグ通り、本当にこの迷宮の主である“狂乱の魔術師”なのでしょうか?
 ともかく、彼の者がライオスたちに敵意をもっていることは確か。混乱したままのファリンも気になりますが、まずはこの“狂乱の魔術師”(仮)を退けなければなりません。
 古代魔術を駆使する敵に対し、マルシルも古代魔術の荒技で応戦しますが、旗色は悪そう。対話を試みる暇もなく、一同は排除されることに。やっと助け出せたと喜んだのも束の間、ライオス一行とファリンは、再び分断されてしまいました。
 “狂乱の魔術師”(仮)の言動を見る限り、彼女(と思います)はかつての王・デルガルを奉じており、その僕(しもべ)として、今はファリンの肉体を構成している炎龍を使役していた、という感じでしょうか。その炎龍の意識が、何らかの原因でファリンのものと混濁しているということのようです。

 一難去ってもう二難くらいを切り抜けた先で、まだ気絶しているライオスたちが鉢合わせたのは、2巻で遭遇したのとはまた違うオークの一団でした。基本的に他種族は殺す、という方針のようですが、センシの取り成しでどうにか事なきを得ます。
 この一団の隊長は、以前に会ったオークの族長の妹とのこと。方法はやや乱暴ですが、まだ意識が戻らないライオスや魔力切れのマルシルを助けてくれます。また、彼女によれば、一行を襲った魔術師が迷宮の支配者であることは間違いないようです。
 迷宮の支配者に目を付けられたことに恐れをなし、ライオス達を騙してでも地上に戻ろうと云うチルチャックを、オークの妹君は軽蔑したようです。が、一緒に置きっ放しの荷物を取りに行きながら話を聞いて、認識を改めた様子。
 仲間を「アホでバカで大間抜けだ」と罵って、騙してでも連れ帰ろうとするのは、大切に思うが故に違いありません。それに気付いたオークの妹君の助言を、ここは素直に聞いたチルチャックの「説得」に目頭が熱くなりました。
 それにしてもこのオークの妹君、なかなか美しいように思えます。もちろん人間とはかけ離れた容姿をしていますが、その“かけ離れたところで均整をとっている”と云いますか。勇敢さを重んじ仲間を大切にする価値観も清々しいです。

 ところでその少し前、幾度か全滅を繰り返しつつライオス達の後を追うようにダンジョン探索を続けている小麦色の肌の剣士カブルーの一行は、ドワーフの女戦士・ナマリの雇い主であるノームのタンスに蘇生してもらったところでした。食糧が無いのをライオス達に盗まれた、と思っているようですが以前の宝虫の時と同じく、不可抗力的な事情によるものです。
 「力不足」を理由に、こちらも出直しを決めたカブルーですが、パーティー全体の力量はともかく、いちはやく幻術を見抜く洞察力、流れるように多数を斃す戦闘技術など、実のところ彼個人の力量は割と優れたもののようです。あくどいことをして日銭を稼ぐ“死体拾い”に対して断固たる対応をとるあたり、前巻でも少し扱われた“ダンジョンという資源がどう扱われるべきか”という課題に意識的である、とも云えそうです。
 表面的には人当たりのよく見える彼が、ざらついた印象を伴うのは、その野心ゆえでしょう。その主を倒した者は大きな影響を持つとされるこのダンジョンを、最も巧く運用できるのは自分だ、と彼は思っているようです。そのためには、深層まで到達している先達は邪魔ですし、「人間に興味がないだけ」なライオスには反感もある、ということになります。
 ともあれ、その野心のためにも、まずは地上に戻ろうとするカブルー達。ですが、その途次の水上でシーサーペントに遭遇、窮地に立たされます。
 その時、彼らを救ったのは、くノ一風、鬼武者風、侍風、陰陽師風といった、何だか東洋風な出で立ちの一団でした。仲間達に「坊ちゃん」と呼ばれる、侍風の無精ひげの男こそ、ファリンを探す、かつてのライオス達の仲間・シュローなのでしょう。たちまち事情を悟ったカブルーは予定を変更、さっそくシュローに“助力”を申し出るのでした。

 さて、チルチャックの説得もあり、改めて一丸となったライオス達(気絶していたマルシルを除く)。地上に帰ろうということで動き始めましたが、例の魔術師の仕業か、道に迷って足止めを食っていたようです。
 食糧も乏しくなり、困る一同が文字通り嗅ぎ付けたのは、花木が生い茂る泉でした。「迷宮の中に泉があるのはおかしい」という指摘もごもっともですが、前述の『ウィザードリィ』でも出てきますし、半ば伝統ということで…。
 平和に見えた泉ですが、妖精を見紛うような植物の魔物ドライアドが襲ってきます。舞い散る花粉で鼻水ドロドロになりながらも、チルチャックとセンシの連携で辛くも勝利。泉の廻りで得た食材で、久々の調理と相成ります。だいぶビジュアルが悪い(特にポタージュの容れ物)ですが、お腹も膨れたし、魔力切れだったマルシルにも多少の好影響だった様子。
 「強くならなくちゃ」とマルシルがライオスに治療や防御の魔法を手ほどきする間、センシはチルチャックに“おしべとめしべ”の話を――チルチャックがいい大人であるとは、ドワーフの彼にはなかなか受け容れられないようです…。

 ライオスは回復魔法を試みて「魔力酔い」に陥り、チルチャックは黒魔術を怖れ、マルシルは自らが研究していた「“座標”の魔術」を説明するなど、一行は弛緩した時間を過ごします。迷宮が変動する法則性を見出せない以上、まだ動くわけにはいきません。
 「もう少し観測が必要」というセンシの言に同意する面々ですが、ライオスを置いてきた状況で、1巻で戦ったバジリスクより数段やっかいなコカトリスに襲われます。
 ライオスの言を思い出し、どうにかこれをやっつけますが、代わりにマルシルが見事なツッコミのポーズで石化してしまう憂き目に。残った3人が手を尽くして回復させようとしますが、石になっているからって、あの扱いはさすがに可哀相ですね。
 そうこうするうち、迷宮変動の法則性をチルチャックが掴み、一行はようやく地上に帰還すべく動き出します。途中、炎龍を斃した現場で見つけたのは、ダンジョンの損傷を復元する生物(?)ダンジョンクリーナー。自己再生するこのダンジョンは、さながら一個の生物のようでもあります。
 首尾良く登り階段を見つけた一行は、勘違いして愉快な格好になったマルシルをよそに食事の準備に取りかかります。…しかし親子丼的なメニューはともかく、ダンジョンクリーナーは美味しくなさそうですね。
 地上に帰れることに油断したのか、食事中のライオス達は近づく者たちに気付かなかったようです。いとも簡単に一行を捕らえたのは、見覚えのあるエキゾチックな出で立ちの一団でした。
 とはいえ、シュローはすぐにライオス達であることに気付き、拘束は解かれます。ライオス達とシュローの再会。それは、シュローと同行していたカブルー達とライオス達が顔を合わせることでもありました。

 というところで5巻はお開きです。巻末の「モンスターよもやま話5」を箸休めに頂いて、この4月に刊行された6巻に進みたいと思います。

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