漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第101夜 恋と友情は、廻る星座とともに…『星の瞳のシルエット

      2013/09/12

「気がつくと/まわりはみんな/そわそわ わくわく/あの人がすき この人がすき/毎日ドキドキきらめいて 14歳――――そうね/憧れ とか/恋 とか/片思い………とか/そんなことばが/いつのまにか もう/似合うときになったんだな」


星の瞳のシルエット 第1巻 (フェアベルコミックス CLASSICO)

『星の瞳のシルエット』柊あおい 作、集英社『りぼん』掲載(1985年11月~1989年4月)

 中学2年生の沢渡香澄(さわたり・かすみ)は、親友の森下真理子(もりした・まりこ)、泉沙樹(いずみ・さき)と慌しくも楽しい学校生活を謳歌していた。真理子が「好きな人ができた」と云うのを聞いて、香澄はいつの間にか自分たちがそんな時期にいることに気付く。
 恋愛経験の乏しい香澄にも、たった1つ初恋と云えそうな記憶があった。それは、幼い頃に祖母の家の近くのすすき野原で、見知らぬ男の子からもらった「星のかけら」の思い出。全天で最も明るい星、シリウスにも似たその石を、香澄は肌身離さず持ち歩き、大切にしていた。
 沙樹の幼馴染の白石司(しらいし・つかさ)への用事に付き合った香澄は、訪れた弓道部で司と一緒に弓を引く久住智史(くずみ・さとし)と出会う。真剣に的を狙う智史を知らず眼で追う香澄。彼こそが真理子の意中の人であると知り、軽い落胆を味わうが、そんな折、ラジオ番組に「すすき野原の男の子」から「シリウスの星のかけらの女の子」に宛てて曲のリクエストがかかる。
 「すすき野原の男の子」は誰なのか。香澄のほのかな恋心の行方は。中学から高校へと移ろう時と星空の下、少女たちと少年たちは、ひたむきで清冽な恋模様を描く――。

微笑みは偽り
 何度も書いた(第42夜第54夜ほか)ので「もう飽きた」と云われそうだが、高校時代、自分は天文部にいた。とはいえ本作のようなことは全くなく、どちらかというと『究極超人あ~る』的な感じで、先輩同輩後輩と馬鹿馬鹿しくも楽しい日々を送っていた。
 けれど、自分に本作を勧めてくれた、とある女子部員にとっては、そうではなかったのかもしれない。そう思うようになったのは、卒業後に文庫化された本作を読み終えた時で、あらゆる意味で後の祭りではあったのだが。
 本作は間違いなく少女漫画で恋愛漫画である。だが、それ以前に、人が大人になる時に訪れる避け難い困難を主題に描かれた、教育的な作品ではないかと思う。
 思春期になると、人はせいいっぱい格好をつけた態度を取ろうとする。それは、ゲーテが云った「疾風怒濤の時代」に懸命に抗い、未成熟なりに「優しさ」とか「誇り」とか、そういう言葉にすがるからだと自分の思春期を顧みて思うのだが、本作の主要人物たちも、それぞれがそれぞれの形で、そうした未熟で高潔な価値観を持って現れる。
 未熟だからといって、彼女ら・彼らのひたむきさを笑い飛ばすことなど、自分にはできない。それは間違いなく自分の通ってきた道でもあるからだ。
 表面的にはいつも楽しく笑っていても、実は悲しみにくれているその表情は、作中に散りばめられる冴えた星空のビジョンと感応し、哀しく美しく映える。香澄たちと同じ「疾風怒濤の時代」の中、秘めた想いや将来への不安を抱え、夜空を見上げた読者がいかに多かったか、それは「250万乙女のバイブル」という本作のキャッチフレーズからも分かるだろう。

素直さと誠実さ
 誰もがそんな「疾風怒濤」のただ中にいる故に混迷していく人間関係が、物語の中盤で描かれていく。こうした展開に疲れ果て、そこから逃げ出す主人公という描き方も有り得たはずだ。しかし、作者はそうしない。
 香澄は逃げない。少し臆病になることはあっても、最後にはかつてと同じ友人達との日々を願って動き出す。そんな彼女の友人たちも、自らの気持ちに逃げずに向き合おうとする(この点については、エピローグ的番外編「ENGAGE」で登場する人物と好対照を成している)。
 自分に素直に行動した時、その気持ち自体は必ずしも綺麗な色はしていないかもしれない。が、誠実であれば少なくとも後悔することはないはずだ。そんなことを何となく悟るのが、いわゆる大人になっていくことだと思うが、本作の登場人物たちはそれを体現することで読者に語りかけてくる。
 爽やかで優美な作画に加え、こうした見かけによらない骨太なメッセージが、多くの男性読者をも惹き付けた理由ではないだろうか。
 自分の高校時代によく聞いていたからなのかもしれないが、本作を読むと槇原敬之の「素直」という曲を思い出す。その曲と同じく、素直になれない多くの人に、本作は今もひっそりと語っているように思える。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全10巻。絶版。
☆文庫版…文庫判(14.8 x 10.8cm)、全6巻。作者あとがきあり。絶版。
☆新版…B6判(18.2 x 13cm)、全10巻。絶版。電子書籍化済み。

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