漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第1夜 地味目なあの野菜による不可思議オムニバス…『茄子

      2014/04/21

「「親の言葉となすびの花は千に一つの無駄もない」って知ってるか/ありゃ嘘だ/ボロボロムダ花が落ちる」


茄子(1): 1 (アフタヌーンKC (272)) kindle版

『茄子』黒田硫黄 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2000年11月~2002年10月)

 茄子。それだけを軸として、時空を超えて紡がれる茄子ストーリーのオムニバス。日本の片田舎で茄子や野菜をこしらえて暮らすインテリっぽいおっさんの話を皮切りに、青春のペーソスだのインドだの江戸時代だの近未来だの…といった物語が縦横無尽に溢れ出す。

それがあるところ、どこでも
 茄子は「あまり栄養素を含んでいない」とされる野菜だが(食物繊維やポリフェノールは割とあるらしい)、この野菜に対して、何か特別な思いを抱いた人が何人いるだろうか。黒田硫黄という漫画家は、その奇特な人の1人である。
 「何なのこの漫画」というのが初読時の感想だった。その時、自分はまだ大学生で、住んでいたアパートから最寄のコンビニに行った時、たまたま『アフタヌーン』を手に取った。夏、だったと思う。『ヨコハマ買出し紀行』のアルファさんが表紙で、何とも涼やかだったので思わず購入した。
 その時の『茄子』は、田舎で茄子その他の野菜畑をやりながら文学書を読んで暮らす、高間というおっさんの話で、夏の暑い中、おっさんが畑の茄子に水をやったり、農協に持っていったり、知り合いの女子高生が家に来てタバコを吸ったり、二度目に来た時はおっさんが水風呂に入っていて出られない、といった、些細な(割とどうでもいい)エピソードの集合体のような話だった。それなので、上のような感想を抱いてそのままにしていたのだが、それでも何かが頭に残った。それが何かを言葉にするのは困難なのだが、アフタヌーンを定期的に購読していなかった自分が、その後になって、『ヨコハマ買出し紀行』と同じようにこの『茄子』も単行本を買って書架に納めたことが証左になるのではと思う。

茄子のSF仕立て
 へなへなとした描線(時に毛筆を用いて描画されることもある)で描かれる世界は、話の内容に反して白昼夢のようだ。前出の“高間のおっさん”の話がメインらしく、断片的ながらこの人とその周辺のエピソードが一番多いのだが、画風と同じく夢のように、合間に雑多な話が描かれていく。正直なところ、本作が、スペインの自転車レーサーを描いたアニメ映画『茄子~アンダルシアの夏~』およびその続編の原作だとは、読んだ人でないと信じられないのではないだろうか。
 そんな構成で、とんでもなくカオスな漫画になってもおかしくないのに、全体が不思議なトーンでまとめられ、全巻読後はなぜかすっきりとしていた。この読後感はSFに似ている。たまに残酷なほどに一気に時間や場面が飛ぶ箇所があるのだが、その突き放し方が、純文学というよりも、ハードでロマンティックなSFに通じると思うのだ。2009年発売の新装版(下)では、新編も収録されていることも付け加えておこう。

*書誌情報*
☆旧版…B6判(18.2 x 12.8cm)、全3巻。絶版、電子書籍化済み。
☆新装版…B6判(17.8 x 13cm)、上下2巻。新表紙・新編収録あり。

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