100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『七つの大罪 41』(完)……英雄譚は連なる。かの王の物語に

七つの大罪(41) (講談社コミックス)

 2012年10月から『週刊少年マガジン』で連載が開始された、アーサー王伝説へと連なる物語『七つの大罪』。5月に刊行された41巻をもって、長い物語も完結となりました。その最後の展開を、辿ってみたいと思います。

明かされた本性

 「暴食の罪(ボア・シン)」マーリンの密かな野望。それは、世界を生まれ変わらせるために「混沌」の力を蘇らせるというものでした。そして、彼女の計画の担い手となるのが、混沌の王――キャメロットの若き王アーサーだった…。
 というところまでが、前巻の内容。41巻の物語は、その直後から開始されます。

 マーリンの目指したものが結局なんなのか、まだ把握しきれない一同ですが、ソールズベリーの湖に宿る自称「混沌の巫女」が、説明を補足します。

 彼女によれば、「混沌」そのものは既に皆がよく知る者だ、と。煉獄出身のはずの生物に「おっ母」が居るのは、よく考えたら不整合ですよね。意味深なコマも幾つかありましたし、これで納得がいきました。

 その「混沌」は、これを統べる王であるところのアーサーの肉体に宿ります。「混沌」は、善も悪も内包した力のようですが、アーサーという人格の元に行使される限りは、善い方に作用しそうです。相変わらずマーリン以外の面々は困惑しきりのようですが。

 しかし、ここで思わぬ横やりが。やはり以前から登場していたあるモノが、ここに至ってその本性を現したのです。「混沌」より生まれ、その王になろうと戦いを挑んだ獣の暴君。その名をキャス・パリーグと云います。

 この獣は強力で、魔神王戦で消耗しきった一同は劣勢を強いられます。アーサーの聖剣により、どうにか窮地は脱しましたが、マーリンの魔術でメリオダス達はリオネスに転移、マーリンとアーサーはそのまま同地に留まることを選んだようです。

キャス・パリーグとは何か

 ところで、このキャス・パリーグとは何ものなのでしょうか。最近のソーシャルゲームなどでも、しばしば見られる名前ですが、大元はやはりアーサー王の伝説に絡んだ化け猫のようです。

 しかし、いわゆる異説のような位置付けで、現在の日本で流通しているアーサー王伝説では、あまりメジャーな存在ではないようです。自分も最寄りの図書館で関連書籍を漁ってみたのですが、その名前を見つけることは出来ませんでした。

 ただ、Wikipediaソース(キャスパリーグ – Wikipedia)ではありますが、一説によればキャス・パリーグ(Cath Palug)はアーサー王を殺したとも云われており、強力な化物であることは間違いないようです。

 アーサー王伝説には確固たる原本が存在せず、口頭伝承が後世になって編纂されたため、こうした異説が存在するのでしょう。その異説の化物を、アーサーが王となる前の最初の試練として配置したところに、作者のセンスを感じます。

王たる者の目覚め

 さて、強制的にリオネスに戻された一同。マーリンの気持ちが分からず悶々とします。ゴウセルの訴えは皆の気持ちを代弁するものでしたが、それにしても「混沌」を野放しにしておくわけにもいきません。

 一方、アーサーとマーリンは、キャス・パリーグとの戦闘を続けていました。追い込まれた2人の加勢に駆け付けたのは、云うまでもなく〈七つの大罪〉の5人とエリザベスです。

 しかし、物理的な強さもさることながら、この魔獣の本当に恐ろしいところは精神的な揺さぶりをかけてくるところ。「混沌」の力をたずさえ、悠久の時を生きてきただろう獣の云うことは、一面、真理のようにも思えます。

 どんな道を通っても、結局のところ命は死に、万物は滅ぶ。キャス・パリーグが見せたのは、その具現化ではなかったでしょうか。「絆」と云って立ち上がっても、この混沌の魔獣は揺らぎそうもありません。

 しかし、アーサーは打倒の一手に思い至ります。それは、云わば混沌VS混沌の力比べのようなものでした。そして、王としての誓いを立てたアーサーにとって、魔獣は敵ではなかったようです。限りない理想論とは正に混沌。やはり彼こそ、混沌の王なのでしょう。

 王としてのアーサーの目覚めと、この新しき王を支えるという〈七つの大罪〉の宣言をもって、物語はひとまずの終わりを迎えたと言えます。

別れと再会と

 物語の終わりには、人物たちの別れが付き物です。それは本作も例外ではありませんでした。希望を感じさせる再会とともに、まとめてみたいと思います。

ひとつの別れ

 大きな別れとしては、〈七つの大罪〉の解散がありました。既にマーリンは離れ、エスカノールは亡くなってしまいましたし、彼らの戦いも、ようやくこれで終わりを迎えたと云うべきでしょうか。

 ペアで、あるいは単独で、彼らは思い思いの生き方を選んでいきます。寂しさはありますが、それ以上に颯爽とした空気が感じられるのは、月並みながら“離れていても一緒だ”ということを、全員が心から信じているからでしょう。

 ひとり残ったメリオダスは、とうとうリオネス王となることを承諾し、エリザベスとの結婚を確約します。ただ、王位継承はもうしばらく後になる模様。色々あって、エリザベスとゆっくり話もできませんでしたし、現王バルトラも健在なので支障はないでしょう。

ふたつの再会

 一方、これからへの想像が膨らむ再会も描かれています。まずは、アーサー、マーリンと、謎のサムライ的人物ナナシの再会です。

 滅んだと云われ、アーサーも打ちひしがれていたキャメロットの人々ですが、その一部はナナシの“癒しの魔力”によって救助されていました。キャメロットの民の生存は、これから同国を盛り立てていこうというアーサーとマーリンにとって、何よりの吉報だったことでしょう。

 アーサーの側近として、これからも活躍してくれそうなナナシですが、彼の正体についても少しだけ触れられています。まぁ、癒しの魔力を持つということは、半ば明らかですけれども。

 そしてもうひとつ、個人的に忘れられない、とある兄弟の再会も、描かれていました。やっぱり、彼があの程度でやられるわけがないと思っていたんですよね。
 それでも、こうして実際に描かれると感慨もひとしおです。兄さんが云うには、命が尽きるまであと100万年。強大な兄弟として仲良く過ごして欲しいと思います。

次代へ

 そして1年半が過ぎ、『七つの大罪』本編はラストエピソードを迎えます。
 登場人物たちは、それぞれに平穏な時を過ごしているようですが、語ることはもはや多くないでしょう。アーサー王伝説の前日譚と位置付けられるこの物語は、やはり、かの王の物語に接続される形で終幕となります。

 すなわち、メリオダス王とエリザベスの息子はトリスタン、バン王とエレインの息子はランスロットと名付けられ、この世に生まれてきます。彼らはやがて成長し、Knights of the Round Table――円卓の騎士の一員としてアーサーに仕えることとなるのでしょう。

 アーサー王伝説に沿うならば、長じて後のトリスタンやランスロットにも、相応の苦難や戦いが待ち構えていることになります。巻末にて発表されている、続編『黙示録の四騎士』(仮)は、あるいはその辺りを描くものなのかもしれません。

おわりに

 とはいえ、それらはキャス・パリーグが見せたのと同様、あくまで一つの可能性、仮定ないし予想の話です。今は、子ども達の前に広がる、大空のような無限の可能性に思いを致して、英雄たちによる群像劇の終幕に拍手を贈りたいと思います。

 鈴木先生、8年に及ぶ長期連載、たいへんお疲れ様でした。すぐ再会できそうな雰囲気ではありますが、しばしゆっくりお休みいただければと思います。その上で、再び漫画を拝読できることを楽しみにしています。

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