漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【随想】扉の向こうの、もう一つの扉――活字本に繋がる漫画たち

      2017/11/05

惡の華(3) (週刊少年マガジンコミックス)悪の華 (新潮文庫)

 暑かった今年の夏も終わり、そろそろ読書の秋。ホームである『100夜100漫』から出張して、読書人の牙城『シミルボン』に自分がお邪魔するようになって、1年になりました。
 『シミルボン』は読書全般についてのレビュー&コラムのプラットホームですが、そこで自分が書いているのは、やはり「漫画と自分とその周辺」についてです。ただ主題は漫画でも、関連しそうだったり、連想したりした活字本については、ちょこちょこと言及したりもしています。まぁそれは『100夜100漫』でも同じで、世に根強い「漫画|活字」という区別を無くしたい、という密かな野望が背後にあったりするのですが。

 その野望の一環として、今回は“漫画と活字”なる切り口で考えてみたいと思います。
 直ちに思い浮かぶのは、漫画がノベライズされたり、逆に小説がコミカライズされたりという動きです。前者は例えば『ジャンプ』系の漫画を小説化し続けている集英社のJUMP j-BOOKS、後者は光瀬龍氏の小説を萩尾望都氏が漫画化した『百億の昼と千億の夜』や、宮澤賢治の原作から登場人物を猫に置き換えて漫画化した、ますむらひろし氏の『銀河鉄道の夜』などが有名でしょうか。

 あるいは、このところ目立ってきた、活字本の紹介を主眼に置いた漫画も思い浮かびます。本の世界に親しむ中学生・草子が書く感想文に揺さぶられる、玉川重機氏の『草子ブックガイド』や、図書室に集う面々のギャグタッチなやり取りに触れるうち読書欲も喚起される施川ユウキ氏の『バーナード嬢曰く。』、社会人1年生の主人公・佐倉ハナの朗読を通じた成長とともに、名作の息づかいを味わえる片山ユキヲ氏の『花もて語れ』あたりが私的に一推しな“読書案内漫画”です。

 勿論これらの漫画も素晴らしいのですが、定番かつ直球なので、今回は敢えて外します。代わりに挙げるのは、独立した物語でありながら、その伴奏として活字本が小さからぬ役割を果たしている漫画たち。読むことで活字本の入り口となり、先に活字本を知っていれば、より楽しめるような漫画たちです。

その世界を支えるもの

「黄色い本――ジャック・チボーという名の友人」と『チボー家の人々』

 いの一番にご紹介したいのは、高野文子氏の「黄色い本――ジャック・チボーという名の友人」です。1作ごとに独特なコンセプトを見せる高野氏の漫画ですが、この中篇ではフランス文学の大作、ロジェ・マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』とがっぷり四つに組み合って読み耽る、地方在住の女子高生を描いています。

 といって、『チボー家の人々』を読んだ彼女が何か大きな変化を遂げる、という感じではありません。高校に通い、家事を手伝い、進路を決めて卒業していく、そんな彼女の姿が淡々と描かれています。けれども、全5巻の黄色い上製本――白水社版『チボー家の人々』は常に彼女と共にあって、その作品世界で確かに彼女は『チボー家』の中心人物であるジャックたちと交友を結び、読了とともにお別れの時を迎えます。その過程は、確かにドラマティックと云えるでしょう。
 人生の中で、1つの物語を記した本を読む時間は(仮に大長編だとしても)僅かな割合にしかならないでしょう。けれども、それは読者の世界を形作るものに他なりません。そのことを、漫画ならではの表現で示した名篇だと思います。

『惡の華』(全11巻)と『悪の華』

 『黄色い本』とはだいぶ趣が異なりますが、同じように単一の活字本の強い影響の下に描かれたという括りならば、押見修造氏の、その名もずばり『惡の華』も忘れられません。群馬県K市を舞台に、中学生の主人公・春日高男(かすが・たかお)とクラスメイトの仲村佐和(なかむら・さわ)を始めとする3人の少女たちが抱える、まさに“のたうち回る”ような思春期の閉塞感を描ききった作品と云えましょう。
 高男が傾倒するボードレールの詩集『悪の華』について、直接的な感想や解釈が示されているわけではありません。が、そこまで彼が崇拝し、縋り、やがて絶望し、それでも忘れ難い詩集『悪の華』とはどんなものなのかという興味が湧いてきます。その詩に高男が抱くイメージの具現とでも云えそうな佐和の破壊的な振る舞いもまた、関心を掻き立てる要因となることでしょう。
 主人公が高校生になって以降の後半では、一転して静かな展開が続きます。が、そこでは読書する者が抱く孤独が物語のキーになっていたりもします。読書するとはどういうことか、それを考える意味でも味わい深い漫画です。

 続きを「シミルボン」にて公開中です。以下のリンクからどうぞ。

 - 随意散漫

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