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第64夜 人と妖(バケモノ)とが綾なす陰陽の絵巻…『うしおととら

      2015/05/24

「行っくぞーっ、とらーっ!」「うるっせーんだよ、うしおーっ!!」


うしおととら(33) (少年サンデーコミックス)

『うしおととら』藤田和日郎 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1990年1月~1996年10月)

 寺に住む少年、蒼月潮(あおつき・うしお)は、住職の父に虫干しを命じられた蔵の地下で、古びた槍に張り付けにされた妖怪と出会う。潮に「とら」と名づけられた妖怪は、かつて近隣に君臨していた大妖だった。そして、とらを500年にわたって張り付けていたその槍こそが、潮の父、紫暮(しぐれ)の云う妖怪退治の槍、「獣の槍(けもののやり)」だった。やむにやまれぬ事情で解き放たれたとらは、まずは潮を喰らおうと狙うが、槍を持った潮には叶わず、1人と1体の奇妙な共同生活が始まる。
 槍を持つ潮に押し寄せる妖(バケモノ)たちを、潮ととらは互いに罵りあいながらも協力して倒していく。戦いの中、死んだと聞かされていた母の消息を知った潮は、とらと共に旅立つことになる。それは、母に会うための旅立ち、そして、槍ととらの因縁を知り、多くの力を束ね、世界を滅ぼす大妖怪、白面の者(はくめんのもの)との戦いに臨むための旅立ちだった。

陽の力
 自分が、迷わずベストオブ漫画に挙げる作品だ。大学生になったばかりの頃、独り暮らしを始めて間も無く本作を知り、以来ずっとトップに在り続ける本作を前に、あまり冷静なことは書けないかもしれないが、努力はする。
 本作の魅力は多様で、長大な物語ゆえに切り口も様々だろうが、やはり第一に主人公、潮に代表される、人間の持つ希望への指向、純粋さ、明るさ、といった陽の力を臆面無く描いたことだろう。純粋で自己犠牲に溢れ、何もかもを信じる潮に対し、「鼻につく」という批判は当然、有り得る。しかしそれでも、過酷な運命を引き受け、それでも笑い、下手だが温もりに溢れる絵を描き、妖に対して引かないと同時に愛しさえし、多くの存在との絆を連ね、束ねていく彼の活躍に、勇気付けられる読者は多いだろう。洗練という言葉からは遠いと云われる画風にしても、この荒削りな人間的魅力を描いた物語には、この上なくマッチしていると思う。
 自分が物語に対して抱く「読むことで、読者が現実を変える力となる」という理想に叶う、掛け値なしの名作だ。

陰とも共に
 先に記したことと正反対ながら、本作には妖の持つ奇怪さ、妖が生まれた発端にある暗い感情、妖が潜む場所の描写における意匠など、陰に属する魅力もまた備えられている。妖達のデザインは闇に蠢くものの息遣いを感じさせる奇抜なものが多く、その野太さ、鋭さ、妖しさで、潮たち人間にはない土臭い魅力を湛えている。潮が引き抜く獣の槍にしても、その起源にはどす黒い感情の澱が淀み、槍の描写からもそれが凄みとして伝わってくる。
 これら陽と陰はイコール善悪ではないし、簡単に色分けできるものでもない。例えば人間であっても、凶羅(きょうら)、鏢(ひょう)、流(ながれ)といった者たちに通底している執念は陰に属すと云えるし、陰の者である妖たちにも、義侠心や兄弟愛といった陽の力を感じられる。作者の次作『からくりサーカス』(第27夜)では人間の素晴らしさがクローズアップされたが、本作では人間と妖、陽と陰の魅力が並立されているのだ。そうした陰陽の力が、潮ととらの関係のように、あらゆるレベルで相反しながらも結びついたり、表裏一体を成したりして形作った一大絵巻。本作を一言で表そうとする時、自分はそんな言葉を用いたいと思う。
 2013年1月、東北復興支援プロジェクト「ヒーローズ・カムバック」の1作として、前・後編の書き下ろし読み切りの形で、本作は『サンデー』紙上に帰ってきた。これからもきっと、人々の心が沈む時、それを吹き飛ばすために彼らは帰ってくる気がしてならない。

*試し読み*(リンク先の「サンプル」「立読」等をクリック)
Kindle eBookJapan

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.8 x 11.8cm)、全33+外伝1巻。紙媒体品切れ。電子書籍化済み。

☆ワイド版…B6判(18.6 x 13.2cm)、全18巻。「外伝 ECLIPSE」(『うしおととら全集 上 原画集 月と太陽』初出)を含む外伝を最終巻に収録。

☆文庫版…文庫判(15 x 10.6cm)、全19巻。ワイド版同様、外伝を最終巻に収録。

☆完全版…A5判(18 x 12.8cm)、全20巻予定。雑誌掲載時カラー再現、秘蔵特典同梱巻あり(1巻には初期ネーム『魔槍記』ネームノート付属)、カバー下イラストあり。

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Comment

  1. えむ より:

    懐かしいです。
    今見ても面白いので、また見てみようかな..。

  2. 100n100r より:

    ご再訪、ありがとうございます。
    読まれていたんですね。何だか嬉しく思います。
    序盤の、北海道まで旅をしていくところなんかが何ともいえず好きです。
    最近は色々なエディションが出ていますが、文庫版などはお手軽でいいかもしれません。

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