漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第45夜 新鋭機と“お役所的仕事”の流儀…『機動警察パトレイバー

      2015/05/10

「よくみとくといいや。/志望がかなえばこいつに命預けることになる。」「じゃ……じゃあこれが……/新型の警察用レイバー!?/こ…これは…/趣味の世界だねえ……」「とかいいながらわりと気に入ってるだろ。」


機動警察パトレイバー(1): 1 (少年サンデーコミックス)

『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみ 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1988年3月~1994年5月)

 20世紀末の技術の革新により、汎用人型作業ロボット、“レイバー”が普及した世界。警視庁では増加の一途を辿るレイバー犯罪に対応するための警察レイバー部隊を発足させる。俗に云う「パトレイバー」の誕生である。
 新設される特殊車両二課に配属された新米婦警の泉野明(いずみ・のあ)は、憧れの最新鋭パトレイバー、イングラムのパイロットとなる。野明のバックアップを担当する篠原遊馬(しのはら・あすま)を始めとする隊員達と共に様々な任務にあたり、特車二課のメンバーとして、社会人として経験を積み、成長していく野明。
 そんな中、彼らはイングラムのスペックを上回る謎の黒いレイバーと遭遇し、その来歴を追い始める。事件は複雑化し、周囲を巻き込んだ大規模なものになっていく。

やかんのある職場
 概要だけ読んで、真面目でシリアスな群像劇と思われるかもしれない。しかし、作者はちょこちょこと弛緩したノリを挟んでは息抜きをさせてくれる。
 前作『究極超人あ~る』にも繋がるこの空気は、恐らく作者の勤め人経験(公式には具体的には語られていないけれど、地方公務員だったという説はまことしやかに囁かれている)から来ているのではないだろうか。しかも昨今の締め付けの厳しい世代ではなく、高度経済成長後~バブル崩壊前の太平楽な世代のそれである。
 “茶坊主”当番制度があり、時にはみんなで掃除をし、身体を動かした後には、金物屋に売っていそうな、表面に油性マジックで「特2」と書かれたやかんから麦茶でも飲む。そんな描写によるお気楽感と、最新技術の結晶たるレイバーの活躍の巧妙な使い分けが、本作の本質的な魅力なのかもしれない。

仕事をする者として
 上記とも関連するかもしれないが、本作では主人公たち若手の仕事における葛藤や、隊長と“警察官の仕事とは”的な話をするシーンが幾度かある。彼らは警察官だが、だからといって任務だけに邁進する完成された隊員としては描かれない。一個の人間で、生活者として考えなければならない課題も抱えているのだ。刑事ドラマの『踊る大捜査線』シリーズが本作をモチーフにした、とはまことしやかに語られる話だが、このような“警察官=会社員”として描いた視点にその根拠を求められると思われる。
 そのようなわけで、本作はレイバーに憧れる理工系の人間や、劇場版を手掛けた押井守による機械や組織の緻密な描写に惹かれる人の他にも、ゆうきまさみが“仕事をする者”を描いたことによる根強いファンも多いと思われる。
 本作の描かれた1980年代後半と、今日の仕事をめぐる状況はだいぶ違っているとはいえ、描かれた“未来の仕事のスタイル”に変わらず憧憬を持ち続けるのは、悪いことではない気がする。

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