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第143夜 直し治される、仏心の導きか…『壊れた仏像直しマス。

      2014/07/29

「ここを守りたいのは―/お前だけじゃないってことさ……潰させねぇよ/この工房も/お前の夢も」


壊れた仏像直しマス。 1 (芳文社コミックス)

『壊れた仏像直しマス。』芳家圭三 作、芳文社『週刊漫画TIMES』掲載(2011年7月~2013年8月)

 仏師、英道吉(はなぶさ・どうきち)。仏像の製作と修復に抜きん出た手腕を持った天才だが、いかんせん放蕩癖が強く、家族はいつも振り回されてきた。
 ある日、根城である「はなぶさ美術工房」から、またもや道吉が姿を消したことに気付いた道吉の末娘、彩葉(いろは)は、すぐさま3人の兄に連絡を取る。独立して仏像修復を営んでいる長兄の京一郎(きょういちろう)、美術工芸大学で助手を勤める次兄の龍之介(りょうのすけ)、美大で彫刻を学んでいる三兄の翔太(しょうた)は、失踪した父が請け負っていた仏像修復等の仕事を、とりあえず自分たちで割り振ることにして工房を閉じようと提案する。既に鬼籍に入った母に、苦労ばかりかけていた父に対して、兄たちの思いは複雑なのだ。
 しかし、父の工房に愛着のある彩葉は反発、自らが工房を引き継ぐことを決意する。とは云うものの、まだ女子高生の彩葉に仏像修復などできるはずもなく、彩葉の熱意に促される形で、大学を休職した龍之介が中心となって工房を切り盛りすることに。
 修復を依頼される仏像は、どれも永い年月を経たものばかり。そこには、人間が連綿と抱いてきた喜怒哀楽が寄り添っている。それを断ち切ることなく、あるがままの姿を取り戻すべく、龍之介たちは腕を振るう。それは依頼人の心に沈殿した澱を取り除くことにも繋がっていく。
 そんな日々を過ごすうち、兄妹は知る。父が放蕩を繰り返す理由と、亡き母の本当の気持ちを――。

しみ抜き職人のような
 テレビだか本で読んだのだか忘れてしまったが、「しみ抜き職人の仕事は、作品が残るわけではない。むしろ、何か残ってしまえば、失敗である」というような話があって、なるほどなと思った憶えがある。しみ抜きだけでなく、何かを修復したり、調子を整えたりするような仕事は全て同じ美意識をもっているだろう。
 とりわけ、信仰対象である仏像を修復するにあたっては、そうした意識が大切なのだと、この漫画の端々で描かれたエピソードは語っている。作者が仏像修復とどの程度の関係を持っているのかを寡聞にして知らないが、仏像といえば武井宏之『シャーマンキング』(第30夜)の前哨とも云える『仏ゾーン』の知識しかなかった自分にとって、修復において何が重要視され、修復する者がどんな想いを込めるかを綴った本作は新鮮だった。
 旅行や初詣など、仏閣を訪ねることがあれば、この漫画で得た知識でも披露して道連れを驚かせるのも一興だ。

帰る場所
 描かれる物語もまた、仏像修復になぞらえられるかのような穏やかさに満ちている。
 仏像修復を依頼してくる様々な人々の背負っている、家族や郷里についての在り方を巡る展開は、もちろん、時として激情に彩られもする。しかし、そうしたストーリーの中心には常に仏像修復についての哲学があり、ひいては仏教的な慈愛とも云うべき安定感がある。それ故に、各エピソードの幕切れは優しさに満ちている。
 こうした構成に、甘いという声もあるだろう。また、自分としては少し台詞に頼り過ぎな感がある。しかし、それでもいくつかのエピソードに心を揺さぶられたのは確かなのだ。
 終盤、それまで何人もの依頼人が抱える心のわだかまりを修復してきた4兄妹は、自分たちの在り方に目を向けることとなる。大きな物語ではないが、亡き母を巡り、父と子達が知らず知らず纏わり付かせていた屈託が浄化される、綺麗なまとめ方だと思う。よくできた家族小説を読むような愉しみ方のできる漫画である。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(19.4 x 13.4cm)、全4巻。

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