漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第137夜 波乱の刻を咲き誇った、幾つもの魂…『ベルサイユのばら

      2014/01/17

「神の愛にむくいる術ももたないほど小さな存在ではあるけれど…/自己の真実のみにしたがい/一瞬たりとも悔いなくあたえられた生をいきた/人間としてそれ以上のよろこびがあるだろうか」


ベルサイユのばら 愛蔵版(第1巻) (Chuko★comics)

『ベルサイユのばら』池田理代子 作、集英社『週刊マーガレット』掲載(1972年4月~1973年12月)

 1755年、ヨーロッパの3国に、後の激動に翻弄される3つの命が生まれた。
 9月4日、スウェーデンに生まれた貴族ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン。11月2日、オーストリアに生まれた皇女マリー・アントワネット・ジョセファ・ジャンヌ・ド・ロレーヌ・オートリッシュ。そして、12月25日、フランス王家の軍隊を統率してきたジャルジェ伯爵家の末娘として生まれたオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェである。
 男児を切望していたオスカルの父レニエ・ド・ジャルジェ将軍により、男子の名前を与えられ、オスカルは軍人として育て上げられた。従卒のアンドレ・グランディエを軽くあしらう剣の腕と清廉な気質を兼ね備えた彼女は、近衛連隊長付大尉として、オーストリアからフランス王太子へと嫁いできたアントワネットの護衛を勤めることとなる。
 オーストリアのハプスブルク家による、フランスとの同盟関係強化のための政略結婚として、フランス国王ルイ15世の孫、王太子ルイ・オーギュストのもとへ嫁いだアントワネットだが、母である女帝マリアテレジアの戒めも空しく、凡庸な夫との日々の退屈を紛らすために放蕩を続け、懇意になった貴族への過大な支援を重ねる。一方で、王太子妃時代に知り合ったフェルゼンとは強く惹かれあい、やがてその恋慕は半ば公然のものとなっていく。
 王妃の放縦にたびたび苦言を呈するオスカルだが、貴族たちの爛熟や平民との格差に悩みつつ、フェルゼンに惹かれている自分に気付き、女でありながら軍服に身を包むことにも懊悩する。そんな彼女を目の当たりにしたアンドレもまた、長きにわたり秘めた想いに身を焦がしていく。
 王族、貴族、平民。それぞれがそれぞれに惑う中、アントワネットを始めとする王室の贅沢は次第に民衆の憎悪を呼び、やがて戻れぬ革命へと時代は突き進む。自由と平等を謳った燃え盛る革命の炎のさなか、彼らが見出したのは何だったのか――。

超少女漫画級
 母と妹が宝塚好きだという話は、まだ書いたことがなかったと思う。特に母は若い頃からの筋金入りのようで、だから『ベルばら』という単語を自分が初めて知ったのも、漫画やアニメのタイトルとしてではなくて、宝塚歌劇の演目としてだったと記憶している。母は「読む方向(コマを読む順番)が分からない」と云って漫画を手に取ろうともしない人間だが、そういう経緯があるために、この漫画だけは自分と共通の話題とすることができた。
 まつ毛周りのコスメの販促コンテンツとして起用されたり、アニメの主題歌がビジュアル系バンドにカバーされたりと耽美的なイメージが強調される本作だが、一読して分かるように(これほど広く読まれた作品ならば多くの方が承知してもいるだろうけれど)、決して耽美を前面に描いた作品ではない。もちろん、作中に描きだされた当時のフランス貴族社会の豪奢さは特徴の1つではある。が、その一方で描かれる人間の平等と不平等、それに付随して渦巻く情念、そして想いあいながらもついに孤高の愛を貫く人間の貴さというテーマはあまりに骨太で、時おり挿入される各人のモノローグがもつ詩情の豊かさとも呼応し、まさに超少女漫画級の作品と云うにふさわしいだろう。

人間オスカル
 『エマ』(第60夜)で引き合いに出したような、革命前後のフランスという舞台が想起させる、華麗さと残酷さ。その中で気高く生きるそれぞれの身分の人物たち。歴史物語には、安直に描けば王族・貴族が悪者で民衆が善い者となる危うさがあるが、本作はそれぞれの情熱や誇りを分け隔てなく描くことで、幾つもの読み方を与えてくれる。この企てにより、読者の多くが感情移入できる人物を見出せたことは、今もって『マーガレット』で新エピソードが掲載されたことからも明らかだ。
 ことほどさように、登場人物の誰しもが誇り高く魅力的な本作だが、やはり群を抜いていると自分が思うのが主人公オスカルだ。男装の女性戦士というイメージは、『百億の昼と千億の夜』(第99夜)で触れた“戦闘美少女”に容易に結びつくだろうし、恐らく彼女の(というよりも『ベルばら』全体の)影響下に『少女革命ウテナ』があることも含めて、社会と女性をめぐる考察をすることは可能だろうし有益でもあるだろう。
 だが自分は、そういう面よりもむしろ、やけ酒するし喧嘩もする彼女の姿に覚える親近感について触れたい。彼女のそんな生々しいところまでも、この漫画が描いていることを凄いと思う。そうした弱さまでも描かれているからこそ、貴族として軍人としての立場と民衆を愛し護るという思いの狭間で葛藤し、初めて知った恋心に苦しんだ末に至った心境を語る彼女の言葉は、読者に自らを省みるきっかけを与えるのだ。
 激動の時代を遠景に、そこに生きた人間のまるごとを活写する。この歴史を扱う創作の醍醐味を相当な高水準で達成しているのが、この漫画の本領だろう。

*書誌情報*
 あまたの版が存在する。もっとも入手が容易なのは、集英社文庫版だろう。
☆通常版…B6判(17.8 x 11.2cm)、全10巻。絶版(電子書籍化済? エディション違いの可能性あり)。
☆愛蔵版…A5判(21 x 14.6cm)、上下巻。
☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.6cm)、全5巻。
☆完全版…B6判( 21.8 x 14.6cm)、全9巻。雑誌掲載時扉絵収録、カラーページ再現。

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