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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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「 成長 」 一覧

第84夜 彼岸と此岸の境を越えた喧嘩三昧の果てに…『幽☆遊☆白書』

「ちょっともの足りねーだけさ/要するにないものねだりってヤツだな/どっちに居たところで足りねーものはあっからな」


幽・遊・白書 19 (ジャンプ・コミックス)

幽☆遊☆白書冨樫義博 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1990年51号11月~1994年7月)

 中2の浦飯幽助(うらめし・ゆうすけ)は超強いケンカの他にも一通りの悪事をこなす不良少年。それでも幼馴染の蛍子(けいこ)には強く出れず、たしなめられる毎日だ。
 ある日、幽助は子どもを交通事故から助けるために死んでしまう。浮幽霊となった彼の前に、霊界の使い、ぼたんが現れ、語りだす。幽助の死は霊界の計画にないため成仏できず、生き返るための試練を受けられる、と。どうにか試練に受かった幽助は無事に生き返るものの、今度は妖怪が人間界で起こす悪事を調査する“霊界探偵”としての仕事が待っていた。
 熾烈な戦いの末、いくつかの事件を解決した幽助の元に、闇世界の大イベント、暗黒武術会の招待状が届く。幽助は霊能力を持つ悪友の桑原(くわばら)、これまでの闘いで共闘関係となった鞍馬(くらま)、飛影(ひえい)らとともに闘いに赴く。人間界、霊界、魔界を巻き込む闘いの、それは序章に過ぎなかった。

不吉の流儀
 妖怪を扱った漫画は多くあると思うが、その中にあって本作は亜流といえるかもしれない。水木しげる『ゲゲゲの鬼太郎』に始まる系譜は、民話の類に取材した云わば正統的な作品群で、『ぬらりひょんの孫』なども、どちらかといえばそこに含まれるだろう。
 一方で本作はモチーフにそうした民話などがあっても、作中に登場するのは作者オリジナルの妖怪ばかりだ。この点、物足りない読者もいるかもしれない。が、既成の物語にとらわれない妖怪の造形は、作者固有の独特な世界観を創り出す助けになっている。
 そのようにして創られる世界観は、打ち沈んだ陰りのあるトーンで統一されている。コミカルなシーンが無いではない。しかし、登場人物の生い立ちの多くは苛酷で、後半ではスクリーントーンをほとんど使わずに描かれた画面からは冥い美しさが立ち上っている。

勝者不在
 物語もまた、世界観に追従する。中盤以降、ジャンプ的な闘いが続いていくが、それぞれのエピソードにおいて、主人公たちが勝利したと云えるのか、自分にははっきりと決め付けることができない。1つの価値観が勝利し、他方を圧倒することを、作者は拒否する。それは、あるいは編集部に対する皮肉だったのかもしれない。ともあれ世界観と相まって、少年漫画という枠組みからは明らかに逸脱したと云えよう。現実をかえりみれば、勝者がいないことなどざらにある。その意味で、本作はすぐれて現代的なバトル漫画とも云える。そして受け手がそれを受け入れたことは、往時の本作の人気が物語っている。
 不吉、勝者不在ではあるが、しかし本作は後味が悪いのかと問われると、そうでもないのだ。妖怪たちは非情だが奇妙に無邪気とも捉えられる描き方がされ、相応の感情移入ができるし、勝ったのか負けたのか分からない居心地の悪さを感じながらも、幽助たちは仲間と悪態をつきあいつつも笑い転げる瑞々しさを持ち続ける。そこには、物語を経て彼らが培った、したたかな強さを感じる。本作を読み終えた時、読者は、そんな彼らの歩みに寄り添えた誇らしさと、同時にお別れの喪失感を覚えることだろう。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全19巻。電子書籍化済み。

☆完全版…A5判(21 x 14.8cm)、全15巻。カバー描き下ろし。豪華装丁。絶版。

☆コンビニ版…B6判(18.2 x 12.8cm)、全9巻。絶版。

☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.6cm)、全12巻。

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第79夜 貧乏とUFOと…『NieA_7(ニア アンダーセブン)』

 2013/07/22  100夜100漫, , ,

「人はパンのみにて生くるにあらず?」「疑問形かよ!!/パン買えない人が言うな!!」 『NieA_7(ニア アンダーセブン)』安倍吉俊+g(ジェロニモ本郷)k(糞先生) 作、角川書店『月刊エースネクスト』掲載(1999年9月~2000年12月)  大学受験に失敗した……

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第76夜 サッカーごしに見える、少年達の心の形…『ホイッスル!』

「ボールをけってるだけで幸せなのに/どうして勝ちたいんだろうね?/それぞれいろんな熱(きもち)をボールに託して試合をする/負けたらそこで途絶える/勝てば先につながる熱(きもち)/途絶えさせてしまった熱(きもち)に勝った側が返せることは/次もまたその次も途絶える時がくるまでは/自分……

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第73夜 みせろ昭和魂! 全力のケンカ大活劇…『あまいぞ!男吾』

「質問!/巴男吾にとって奥田姫子とはなんですか?」「ライバルってとこかな…。」「アリガト、男吾くん!」 『あまいぞ! 男吾』Moo.念平 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1986年4月~1992年7月)  巴男吾(ともえ・だんご)は元気とケンカの強さが自慢……

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第72夜 猫による夏宵の永遠軌道…『銀河鉄道の夜-最終形・初期形』

「カムパネルラ また僕たち二人きりになったねえ/どこまでもどこまでも一緒に行こう」 『銀河鉄道の夜』宮沢賢治 原作、ますむらひろし 作、朝日ソノラマ(最終形1983年10月、初期形1985年8月)  学校へ通うジョバンニは、漁に出て消息が分からない父と、病気で臥せ……

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第68夜 古流VS剣道にみる“強さ”…『チャンバラ 一撃小僧隼十』

「…なにをビビッちょるんかオレは…/戦を挑むんやったら怖いのは当たり前やろ…/それでも戦った男がそこにおる!!/…ふるえなんち…/噛み砕け!!/オレも“鷹津”やろうが!!!」 『チャンバラ 一撃小僧隼十』山田恵庸 作、講談社『週刊少年マガジン』掲載(2002年10月……

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第67夜 偽りの表情が紡ぐ恋情と友情は、真実か…『彼氏彼女の事情』

「もし傷つくのなら/最初の相手は/有馬がいいわ/……/その日/“彼氏”“彼女”になりました。」 『彼氏彼女の事情』津田雅美 作、白泉社『LaLa』掲載(1996年6月~2005年3月)  神奈川県内トップの進学校、県立北栄高校に入学した宮沢雪野(みやざわ・ゆきの)……

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第64夜 人と妖(バケモノ)とが綾なす陰陽の絵巻…『うしおととら』

「行っくぞーっ、とらーっ!」「うるっせーんだよ、うしおーっ!!」 『うしおととら』藤田和日郎 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1990年1月~1996年10月)  寺に住む少年、蒼月潮(あおつき・うしお)は、住職の父に虫干しを命じられた蔵の地下で、古びた槍に張……

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第59夜 真の自由を問いかける、古代の拳闘…『拳闘暗黒伝セスタス』

「アップライトのベタ足/右拳は槍/左拳は盾/古代拳闘には体重(ウエイト)制も回戦(ラウンド)制も存在しない/採点(ポイント)制の判定など概念さえ無かった/時間無制限・完全(K・O)決着が唯一の掟(ルール)だ」 『拳闘暗黒伝セスタス』技来静也 作、白泉社『ヤングアニマ……

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第54夜 星空を仰ぐ何人にも、女神の誘いは降る…『星世界たんけん』

 2013/06/27  100夜100漫,

「星は何千万年何百億年っていう長ーい一生だけど/人間や犬、植物と同じ――/せいいっぱい生きて新しい生命のたねを飛ばして死んでいく――/それをくりかえす生命そのものはずっと続くのよ」「ずっと?」「そう/ずっと――」 『星世界たんけん』加賀谷穣 作・画、山岡均 監修、星……

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