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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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【一会】『Spotted Flower 1』……ヘタレヲタ夫とカタギ強気妻の「そんな未来」

      2018/07/20

Spotted Flower 1

 刊行からだいぶ経って(1か月ちょっと?)しまいましたが、自分的にはつい先日やっと読んだのでここに書きます。『Spotted Flower』の第1巻ですね。
 木尾士目先生と云えば、やはり『げんしけん』(100夜100漫第3夜)が有名ですが、その後の『ぢごぷり』での、育児についてかなり鬱々とした描写も印象深いです。『ぢごぷり』初読時、木尾先生こういうのも描かれるのかーと思いましたが、考えてみれば『四年生』『五年生』などの初期からどろりとした展開を描くのはお得意で、その中ではむしろ『げんしけん』の方がちょっと異色だったのかもしれないなと思い至った次第です。

 さて、この漫画ですが、大筋としては“妊娠中の奥様の方が欲求不満で、あの手この手で二次元ヲタクな旦那様をどうにかその気にさせようとする(そして失敗する)”というもの。描写がかなり赤裸々ですが、内容が性的ではあってもエロティックではないので、以前言及した『まるせい』よりは幅広い読者にお勧めできる気もします。といいますかこの漫画は、掲載誌『楽園(Le Paradis)』の読者層から考えるに、女性(しかも結婚して子どもが生まれる前後辺りの)を主な想定読者として考えられた作品なのでしょう。
 とはいえ、妊婦を主役として据えた漫画で、男性作者が女性読者に云えることはあまり多くないんじゃないかと思います。作者が体験不能なことを体験済または体験可能な人に向けて描くことのリスクというか、生じるだろうスレ違い感は拭い難い、と、ネット上で見かけた賛否両論いくつものレビューは示しています。
 自分はといいますと、面白く読みました。子どもの命名についての奥様のおばあちゃんの空気読み過ぎな気遣いも、ひたすら空回りしてしまう奥様の奮闘と年下の友人の過激な助言も、自分の欲望を通そうとする奥様と旦那様のせめぎ合いも、なんというか、相手への心遣いとか信頼ゆえのものに感じられて、それが心地よく感じました。全体的にコメディタッチで描かれているからということもあるでしょう。そして、「先のことはわからないよ」という台詞。この言葉を、漠然とした不吉さではなく希望を表すものとしたところが、今巻できらりと光るポイントだと思います。
 そういえば書き忘れていましたが、巻末で作者が触れているように、このご夫婦が、まんま『げんしけん』のあの人とあの人なんですよね。平行世界での同一人物とでもいうべきでしょうか。そう思えばタイトルの「spot」は「斑」って意味がありますし、「Flower」は云わずもがな咲くものですよね…。『げんしけん』初代の頃のあのノリのまま、まだ駆け出しの夫婦として描かれる2人にもまた、賛否両論があると思いますが、まだ2人は新婚で1巻ですし、読者は長い目で見守っていってもいいんじゃないでしょうか。
 と云いつつも、掲載誌『楽園(Le Paradis)』は年3回の刊行。単行本1冊あたり9話収録するとして、2巻は3年後になろうかと。本当に長い目でお待ちしたいと思います。

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