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【一会】『坂本ですが? 4(完)』……別れにパイを、ハンドサインに祈りを。

      2016/01/31

坂本ですが? 4 (ビームコミックス(ハルタ))

 完全無欠気味な高校1年生・坂本君のエレガントさと、それによる周囲の人々の改心や再起を描いたスタイリッシュ系人情ギャグ漫画『坂本ですが?』。およそ1年ぶりの刊行となった4巻で無事完結となりました。

 級友たちと坂本のそれぞれの出会いの思い出、坂本に冬ソナ並の憧れを抱く久保田君のお母さん再登場、合コンという名の社交界での歌曲「魔王」熱唱、8823(ハヤブサ)先輩たっての願いによる二人羽織フレンチ、クラスの不良あつしとの雪合戦など、最後らしくハイレベルなエピソードが散りばめられている今巻。ですが、やはり印象深さという意味では最後の2編が一番に挙がるのではないでしょうか。

 春。3年生の卒業と自分たちの進級を控え、1年2組の面々は、ちょっと盗撮癖のある学級委員長・藤田さんが撮った写真とともに1年間の坂本レジェンドを振り返ります。
 しかし、別れの季節が穏やかに過ぎ去るわけもなく。坂本に対して依然として複雑な思いを抱くあつしに、本作最大の黒幕の3年生・深瀬がある“方法”を提案、卒業式で送辞を述べる坂本を最後のアクシデントが襲います。
 この送辞から最後までの50ページ弱は素晴らしいです。これまでのエピソードでは、坂本のスタイリッシュさの描き方が正直ちょっと苦しいかな…という所もあったのですが、ここでは坂本のスタイリッシュさと人間愛と、そしてファニーかつ馬鹿々々しい絵面が一体となっていて、揺さぶられます。
 今までクールを貫いてきた坂本ですが、最後の最後で見せた表情(244ページ)には一抹の寂しさが漂います。中指を人差し指に重ねたハンドサイン(fingers cross)に込めた祈りは、学校に残る同級生たちの幸運を念じたものか、あるいは自身の嘘がばれないように願ったものでしょうか。最後のコマの「坂本ですが?」
も「そうきたか」と膝を打つ意味合いで、見事な幕切れと思いました。

 けっきょく坂本君とは何だったのか、という疑問についての解答は様々あると思います。現時点での自分の考えを述べますと、彼は、「世の中のどんな不条理に対しても、クールに決めて、切り返してくれる人がいてくれたら」という人々の願いに応える、ある種の都市伝説が具現化された存在だったのではないかと思います。
 『ぬらりひょんの孫』(100夜100漫第2夜)に、黒田坊という漆黒の僧侶の姿をした妖怪が出てきますが、彼は辛い出来事に直面した子ども達の想念から産まれたとされています。子どもの想像の産物とあって無制限に強く優しいその妖怪と、常に完璧な物腰で老若男女に分け隔てない慈愛をもって接する坂本君は、同質の存在ではないか。いつしかそんなことを考えながら、今巻を読んでいたように思います。

 昨今の漫画作品としては珍しく、完結後にアニメ化というニュースが飛び込んできた本作。4月からのアニメの放映も楽しみですが、まずは漫画の完結を寿ぎたいと思います。
 佐野先生、お疲れ様でした。またどこかの紙面でお会いできる日を、楽しみにしています。

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