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第73夜 みせろ昭和魂! 全力のケンカ大活劇…『あまいぞ!男吾

      2014/01/22

「質問!/巴男吾にとって奥田姫子とはなんですか?」「ライバルってとこかな…。」「アリガト、男吾くん!」


あまいぞ!男吾 (1) (トラウママンガブックス (第3弾))

『あまいぞ! 男吾』Moo.念平 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1986年4月~1992年7月)

 巴男吾(ともえ・だんご)は元気とケンカの強さが自慢の小学生。家族はみんな武道の段持ち、口より先に手が出るタイプで、毎日帰宅して自室に行くまでに一撃を食らわせてくるような家庭環境で育った。
 男吾が小学5年生のある日、男吾のクラスに奥田財閥の令嬢、奥田姫子(おくだ・ひめこ)が転入してくる。会うなり男吾に腕相撲で勝負を挑み、不意打ちで勝ってしまう姫子だが、男吾の心意気に触れて堅い絆で結ばれるようになる。
 勉強が苦手で、体育が5でそれ以外はオール1という成績の男吾だが、納得できないことには真っ向から立ち向かう。ケンカはもちろん、スポーツも、時には苦手の勉強にだって常に全力投球だ。その姿に男も女も惹きつけて、火の玉のごとく青春時代を駆け抜ける――。

惚れるわけだぜ
 自分の小学生時代は、どちらかというと優等生タイプで、内心、男吾のようなタイプに憧れていたと思う。荒唐無稽で、それ故に周囲が放っておかないタイプは、正反対の自分にもこの上なく魅力的に写ったのだ。
 第一、眼の光が違う。漫画表現における眼の描き方には恐らく色々な方法があり、作者によって様々なのだろうが、これほど真っ直ぐに、強い光を湛えた眼はそうは無いと思う。眼だけではない。児童文学およびテレビドラマ『あばれはっちゃく』の主人公、桜間長太郎(さくらま・ちょうたろう)がモデルという男吾は、蒼月潮(第64夜)よりももっとケンカっ早いが、情け深く、人間的強さへの向上心に燃えている。まことに少年漫画の主役に相応しい。多くの女子キャラクターに慕われるのも無理からぬことだろう。
 とはいえ、格好いいのは男吾だけではない。たびたび衝突しながらも、一大事には力を貸してくれるライバルたち。作者は教師経験者なのかと思うほどに登場人数が多く、性格も多彩な教師たち。そして、男共と肩を並べ、もしかしたら男より全然強いかもしれない女たち。その多くが気っぷのいい、気持ちのいい人物揃いだ。
 男女の別について云えば、それをこんなにフラットに描いた作品も珍しい。ヒロインの姫子からして、第1話から男吾と肉弾戦を繰り広げるし、同様の男女の肉弾戦は、中学生時代に入っても円谷操(つぶらや・みさお)の登場など色々な形で展開される。恐らくそこには、“必死な人間に男も女もない”という作者の信念があるのだろう。本気で武道に取り組んだり、拳での殴りあいに挑む女子の凛とした魅力に、はっと息を呑む場面も多い。

格差なんて知らねェ
 作者の信念のもう1つの表れは、巴家だろう。武道家一家として描かれる巴家だが、一家の大黒柱である金時(きんじ)は、空手三段の猛者ながら職場でトラブルを起こしてはクビになる、いわゆるダメ社会人として描かれる。普通なら失業の度に一家の空気は重苦しくなりそうだが、巴家ではそんなことはなく、毎度、柔道二段の男吾の母、安子(やすこ)と、剣道二段の姉、知子(しるこ)が金時を折檻する場面がコミカルに繰り広げられる。金時自身も、後ろめたさを感じつつも「死にはしねェだろ」といわんばかりの太平楽だ。
 いくら腕力が強くても、社会で巧くやっていけないのならば落伍者だ、というのが現実社会の認識だろうと思う。その理屈で行けば、巴家は落伍者の家庭とそしられてもおかしくない。しかし、その巴家には折檻はあっても落伍の卑屈さなど微塵もない。むしろ、バイタリティ全開で暴れ回り、結果的には何とかなってしまっているのだ。格差なんて知ったことか、それよりも正しいと思ったことを胸を張ってやれ、そんな金時の声が聞こえてきそうだ。そういう底抜けの明るさが、作品の土台に安定感をもたらしている。
 序盤から終盤までほとんど変わらない完成した作画とも相まって、「昭和の少年漫画の完成形」と云われるのも頷けるクオリティの作品だ。必読として推したい。

*書誌情報*
 連載当時のてんとう虫コミックス版は絶版。2002年に復刊されたトラウママンガブックス版も、いまや品切れである。従って入手困難が続いていたが、近年になっててんとう虫コミックス版の電子書籍が発売された。入手難度としてはこれが最も易しいが、てんとう虫コミックス版は、掲載時のものを圧縮したり割愛している箇所がままある。加筆も含め完全なものを読むには、トラウママンガブックス版の増刷を待つか、古書あるいはオークションで探すしかない現状である。また、2002年に英知出版『トラウママガジン』創刊号に書き下ろされた、本作の後日端「だんじて! 男児」は現在のところ同雑誌にしか掲載されていない。

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