第133夜 奇妙奇天烈な食べ物と変な色気で星3つ…『奇食ハンター』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第133夜 奇妙奇天烈な食べ物と変な色気で星3つ…『奇食ハンター

      2014/01/17

「・・・・・・・・・・残していい?」「ヌ!?/逃げるな! 奇食ハンターとして恥ずかしくないのかッ!!」「な・・何? その奇食ハンターっていうのは?」


奇食ハンター(1) (ヤングマガジンコミックス)

『奇食ハンター』山本マサユキ 作、講談社『週刊ヤングマガジン』掲載(2007年6月~2010年3月)

 旧車漫画『ガタピシ車でいこう!!』を描いていた漫画家、山ちゃんは、慢性胃炎に悩む担当編集のヤッさんから何気なく“雪見ラーメン”なる食べ物の話をされ、軽い気持ちで食べに行く。それが新たな連載の取材だとは露知らず−−。
 甘口メロンスパ、キュウリ味コーラ、チョコレートおでん、白ごま納豆パフェ……。日本各地に点在する斬新な(何か間違った)メニューや、企業が開発した(やっちゃった)不思議な食品、すなわち奇食を求めて、彼らは東奔西走する。貧乏で欠食アシスタントのデン子、『ガタピシ車』から続投の悪友の金田君、行きつけの店のウェイトレスのアユちゃん達を巻き込んで…。
 そこには、想定外の美味しさや、若干の期待はずれや、そして当然、悶絶級の“個性的な味”が待っているのだった。顔に縦線、額に汗を浮かべつつ、ひたすらおバカに、時にほのかにエロスを帯びて、ハンター達の狩りは続く。

試しの美学
 ファミレスのドリンクバーを初めて経験したのは高校生になったばかりの頃だった。複数のドリンクを混ぜて罰ゲーム的に飲用するという邪な楽しみ方を開発したのは自分たちだけではないだろう(マナーに反することだが、若気の至りなので許して欲しい。作った飲み物は責任をもって全て飲み干しました)。悪友たちとのレシピ研鑽によって生み出されたキメラ的飲料「エンドレス・ダークナイト・サマー」は、ギットリかつアンニュイな不味さで味蕾の記憶に残っている。
 当時の自分達のようなチャレンジマインドを持ったまま大人になった愛すべき人々によるものなのか、この世には摩訶不思議な食べ物が結構な数で存在する。そうした“奇食”は、「地方限定の素材や食品」「新機軸を狙い過ぎた新商品」「個人経営の店の不思議メニュー」に細分化され、この漫画でも満遍なく紹介されているが、色々な意味での花形は、やはり3つ目のカテゴリーだろう。
 これを愛すあまり何の得もないのに遠征までして、常識はずれなメニューに悶絶しては悦ぶへんtいや奇特な人もいるようだが(そんな愛好家の1人によるサイト「奇食の館」は本作のネタ協力元でもある)、この漫画に登場する作者も編集者も、巻き込まれるかわいそう(?)な人々も、食の嗜好は常識的なので、読者の共感しやすいリアクションをみせてくれる。
 そうまでして奇食を追う本作に疑問を抱く人もいるかもしれない。が、コミックスの各巻頭に掲げられているように、ウニやイカやタコを初めて食べた人間は周囲にゲテモノ食いと云われただろうし、たらこスパゲッティも苺大福も最初は奇妙なメニューだったろう。それを今日のように広く流布させたのは、紛れもなく歴代の奇食な人々だ。人物よりも遥かに写実的に奇食の有様を描写し、せいいっぱい食べて具体的な感想を並べる本作は、未知の組み合わせに希望を抱き、新メニューや新商品を作り上げた奇食な人々に対し、最大限の礼儀を払っていると云えるのではないか。
 とはいえ、本当に手のつけられないメニューはむしろ少数派で、多くは“やや微妙”から“意外とイケる”の間に分布していることが分かる。今でこそB級グルメなどの言葉がよく知られているが、2007年当時、まだ人外魔境のようにも見えた奇食の世界を、そんな風に解きほぐした点でも、この漫画は意義深いと思う。

楽しい旅路
 奇食がメインな本作ではあるが、それを目的とした、ライトな旅漫画としても楽しめる。作者とおぼしき主人公は、本作以前には旧車がメインテーマとした漫画を描いていたが、はっきり云って話のノリは本作とほぼ同じと云えるだろう。全国津々浦々に愛車を駆って出かけてはヘンなものに出会い、それを味わったり楽しんだりして、時にはセクハラまがいな言動で同行した女子を困らせ(それ以前に、旅先にはなぜか下ネタ系の土産物や施設が多い)、何らかのオチがあって1話完結、というのが典型的なスタイルだ。
 道中でのヤッさん(担当編集)やアシスタントとの掛け合いが何とも楽しい。決して豪華ではない旅だし、目的が奇食の取材という、いささかげんなりするものであっても、そこに漂っている「しかたないなー」とでもいうような弛緩した雰囲気が、学生旅行のような旅情をそそるのだ。
 加えて、当時よく目にした女性大食いタレントのギャル曽根、『クッキングパパ』の作者うえやまとち氏、『もう、しませんから。』作者の西本英雄などのゲストや、取材先の店長など、一筋縄でいかない面々が奇食とあいまって賑やかさに拍車をかける。
 食べるにせよ、騒ぐにせよ、エネルギッシュな物語であることに違いはない。作中の山ちゃんはちょっとお疲れ気味ではあるが、週刊での連載ということも考えれば、むしろ作者の健闘を讃えたくなるというものだ。

*書誌情報*
 絶版のうえ、正直なところ古書店でもあまり見かけない。電子書籍か、漫画古書専門店やネットを駆使するのがいいだろう。
☆通常版…B6判(18 x 13cm)、全5巻。電子書籍化済み。

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