【一会】『まるせい 1』……成年漫画描きの青春と苦闘
2018/07/20
刊行から少し経ってしまいましたが、花見沢Q太郎『まるせい』1巻が面白かったので書きます。
タイトルの「まるせい」とは、「○」に「成」と書く、いわゆる成年向け漫画、ようするにエロ漫画のこと。『100夜100漫』は中高生くらいから上の人が読むだろうな、と思って書いていますので、基本的に成年漫画は扱わない(画期的なものがあれば扱います)のですが、この漫画は掲載が一般誌なので、まぁいいかなと思います。
作者の花見沢Q太郎氏は、近年こそ『●REC』のラブコメ路線が有名ですが、もともとは思春期の少女の瑞々しさとエロスを奇跡的に融合させる手腕で知られた描き手です。数年前までアニメ雑誌『NEW TYPE』で「ちゃぶ台返し」なる1ページものの食べ物(?)系エッセイ漫画も連載しておられました(自分が初めて氏を知ったのがこの作品)。
先に連載されていた『少年よ大志を抱け!』の続編として企まれたこの漫画は、作者の若かりし頃の成年漫画修業時代に取材した実録モノという側面がある一方で、魅力的な女性キャラクターが複数登場し、読者は「さすがにここから先は創作でしょ。そうでしょ先生? そうだって言ってよ!」と出どころのよく分からない感情に襲われる程の展開を見せてくれるわけですが、そんな甘々な展開ばかりでないところが、この漫画の真価だと思います。
じゃあどんなことが描かれているのか? といいますと、それは、「当時(1990年代)の成年向け漫画に向けられていた社会のまなざしの厳しさ(一部はいまでもそうかもしれませんが)と、それによって困難に直面しつつも、創作に命をかける漫画魂のほとばしるような熱さ」です。
エロいエロくない問わず、漫画の制作は修羅場です。締め切り直前、アシスタントに助っ人も入り、マンションの一室で男女入り乱れての追い込み作業。ついこの間あいさつだけした人と、今は同じ部屋で隣り合って必死にトーンを削ってる、なんて光景は恐らく幾多の漫画家のアジトで日々繰り返されていることと思いますが、そういうところもきっちりと押さえられているからこそ、アシスタントのまるこちゃん(後にまるこ先生)とのなし崩し的な性交渉や、大学時代につきあっていた麻生とのやり取りが変なリアリティを持ってくるというものです。
それでまた、そういう女性たちへの恋慕のあまり、自分の漫画のヒロインを彼女たちに似せて描いてしまう主人公、花比沢Q一郎のダメさというか一途さというか、そんなところに少し笑ってしまったり。すべての経験が創作することに奉仕するという『ジョジョの奇妙な冒険』第4部(100夜100漫第70夜)の岸辺露伴先生の理論や、原秀則『いつでも夢を』の一郎が恋人の絶望をすら漫画のネタにした創作態度に比べれば可愛いものかもしれませんが、やっぱり漫画家(というか創作する人)には鬼気迫るものがありますね(とはいえ、全体的にライトなノリで描かれていますので、取っ付きやすいと思います)。
衝撃の展開を経て、2巻以降のQ一郎のまんが道と、女性たちとの関係がどうなっていくか、見守りたいと思います。