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――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第92夜 優しさ、ゆえに精神を壊す…『MIND ASSASSIN

      2014/01/04

「この平和な時代で/ボクの力が本来の意味で使われることは もうないと思ってた……/でも それは…自分が勝手にそう望んでいただけなのかもしれない…」


MIND ASSASSIN 1 (集英社文庫―コミック版)

『MIND ASSASSIN』かずはじめ 作、集英社『週刊少年ジャンプ』→『週刊少年ジャンプ増刊号』→『月刊少年ジャンプ』掲載(1994年11月~1996年1月)

 第二次世界大戦中、ナチスドイツは超能力の研究を進め、ある成果をみた。それは、対象の記憶と精神を破壊する暗殺技術を持った殺し屋を造り上げる方法。マインドアサシンの誕生だった。
 戦後50年を迎えた日本。そのとある街角に奥森医院はあった。診療科目の看板には、「精神と記憶に関する相談受け付けます」という、風変わりな記載。
 医院を訪れる患者を一手に引き受ける医師、奥森(おくもり)かずい。日独クォーターで髪を伸ばせば女性と見紛う端正な顔立ちの彼こそが、祖父から父へと伝わった超能力を受け継いだ、3代目マインドアサシンであった。
 その力を持っていることに引け目を感じながらも、訪れた患者を哀しみから救うため、力を使い続けるかずい。同居人の虎弥太(こやた)の世話を焼きながらもそれに救われ、彼は今夜も闇に紛れる。

豹変系の一時代
 深夜の散歩というものに、誰でも一度はあこがれるのではないだろうか。まあ、ただの中二病なのだが、その病名がまだ存在しなかった頃、自分は本作を読み、黒いタートルネックを買って夜を歩いた。恥ずかしい話だが事実なのだから仕方がない。それほど本作の主人公、奥森かずいは自分にとって魅力的だった。
 昼はちょっと抜けたところのあるクリニックの若い先生。夜は非道の者を狩る精神の暗殺者。字面で書けば、『必殺』シリーズなど、世の殺し屋モノとそう違わない。それでも魅力を感じたのは、かずいの豹変ぶりにあるのではないかと思っている。優男の口調と態度が急に様変わりし、それまで居丈高だった悪党を圧倒するというのは、やはりストレートに痛快だ。
 優男の豹変といえば、『るろうに剣心』(第35夜)もそうである。本作と同じ『週刊少年ジャンプ』で、少しだけ早く連載を開始している(1994年4月)。本作と同時に掲載された期間もあっただろう。死を視つめ、死に親しむ優男というモチーフが、密かに流行した時期だったのかもしれない。

荒んだ優しさ
 本作は基本的に1話(1エピソード)完結型である。そしてどのエピソードでもけっこう過酷な事件が待ち受けている。意外と簡単に人が死ぬし、そもそも何もかもが無傷でいられるというタイプの物語ではない。
 何か(記憶、とは限らない)が失われることについて、描線の均一な、どこか荒んだ印象も受ける本作の画は、その微かな哀感をひっそりと提示する。その割に、不思議とさっぱりとした読後感を抱くのは、かずいが力を発揮する理由が彼の無償の優しさによるものであることに加え、幼い心を持つ同居人、虎弥太の存在によるところが大きいのだろう。
 本作は一応1996年に連載を終了しているが、作者にとっても特別な作品のようである。作者サイトの言を借りれば、本作は「今後ライフワーク的に描き続けるつもり」とのことで、続編を待つ読者もいることだろう。記憶を壊す物語が、人々の記憶に残り、愛され続けるというのは奇妙にも思えるが、作中に流れる、荒んだ中にも優しさのある空気のなせる業ゆえだと納得もいくというものだ。

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