第80夜 目指せ最強…『陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす!!』
2018/07/13
「世界最強の格闘家(オトコ)の夢はどうした――!?」
『陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす!!』にわのまこと 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1995年2月~1998年1月月)
戦国時代に発祥し、仙台藩御留流(せんだいはんおとめりゅう;門外不出はもちろん、藩外にも不出の流派)とされた古流柔術、陣内流(じんないりゅう)。11代目宗家である望月土武郎(もちづき・どぶろう)の押しかけ弟子の高校生、真島零(まじま・れい)は、陣内流の技の数々で現代の格闘技界に殴り込んでいく。目指すは世界最強の格闘家(オトコ)。それは、零の敬愛する歴代最強と云われる8代目宗家・城之内将士(じょうのうち・まさし)を超えるための闘いでもあった。
空手、柔道、テコンドー、プロレス、ムエタイ…。師や友人に支えられ、零は幾つもの異種格闘技戦を制し、その潔い戦いぶりは現代の武士(もののふ)として人気を博す。やがて、格闘技界を牛耳る不穏な影を感じた零は、これを叩き潰し最強となるため、更なる激闘に身を投じていく――。
それぞれの美学
自分が古流武術を少しばかり修行したのは、先にも『チャンバラ』(第68夜)で書いたようにひと昔前だ。現代武道にあまり魅力を感じず、そこに折からの格闘ゲーム・格闘技ブームもあって古流に入門するに至ったわけだが、そうした自分の行動原理は本作の考えと通底しているように思う。煎じ詰めればそれは「半ばスポーツ化した今の格闘技って本当に強いのか?」という疑念だ。その問いに答えるべく、作者は、最強を求めて古流柔術を修めた零と、現代格闘技の使い手達とを対決させる。そうした意味での構図は『チャンバラ』、ひいては『セスタス』(第59夜)に似ている。
零はもちろん強いが、激突する面々もただの噛ませ犬ではない。どの人物も己が流儀と美学をもって立ちはだかる。空手には空手の、プロレスにはプロレスの、ムエタイにはムエタイの強さと格好よさがあるのだ。異種格闘技というのは、ある意味で異なる美学の激突であって、決着後の清々しさも含め、本作の闘いはさながら戦国時代の一騎打ちを思わせる。
日本文化で闘う
自分も含め、読者は真剣勝負というものを知らない人が大多数だろう。本物を知らない読み手に対し、本作のような本物志向の格闘漫画はどうやってリアリティを引き出してみせるのか。『グラップラー刃牙』(第14夜)では作者の異常ともいえる闘争への(解剖学や栄養学の範疇まで踏み込んだ)興味でそのハードルをクリアしていると思うが、本作はただ、戦国時代に端を発する古流柔術の技術体系を細密に述べることで補おうとしている。それだけでリアルさを感じさせるのは普通のセンスではないだろう。
陣内流が擁する技の数々には「鉄菱(てつびし)」「鬼会(おにだまり)」「百枝刺(ももえざし)」など由来を想起させる名が付けられ、技の強力さ、正統性を示す上に、大袈裟に言えば武技にさえ情緒溢れる命名をする日本文化の豊饒さを薫らせてくれる。その鮮やかさは本作独特のものである。時に漫画的過ぎる部分も(それに作者がプロレス好きだからでもあろう、コミカル過ぎて笑ってしまう場面も)あるが、こうした技を駆使しての闘いは、スタイリッシュな作画も相まって華々しい。この点も、『刃牙』シリーズで主人公が「トータルファイティング」という無国籍な流儀で闘う点と好対照をなす。いわば、真島零は日本文化で闘っているのだ。
終盤は惜しくも打ち切り気味で終わってしまった本作だが、現在、続編に当たる『真島、爆ぜる!!―陣内流柔術流浪伝』が日本文芸社『週刊漫画ゴラク』で連載中である。引き続いて読んで、溜飲を下げるのもよいだろう。
*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全15巻。電子書籍化済み(紙媒体は絶版)。
☆文庫版…文庫判(15 x 10.8cm)、全9巻。絶版。
☆愛蔵版…B6判(18 x 13cm)、全10巻。書下ろしカラーページあり(連載時カラー部分は白黒)。絶版。
☆オンデマンドペーパーバック版…小B6判(17.6 x 11.2cm)、全15巻。内容は通常版と同じか。