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第161夜 ネタの嵐がもたらす奇妙な詩情…『平成義民伝説 代表人

      2014/03/25

「魚権(ウォーケン)は自分に誓った/イガラシのために命をかけて「シャクレル」と/そして/イノキとイノチは/ちょっと似ている/と思った」


平成義民伝説代表人 全2巻完結セット(少年マガジンコミックス)

『平成義民伝説 代表人』木多康昭 作、講談社『週刊少年マガジン』掲載(2002年2月~同5月)

 国民的男性アイドルユニットIGARASHIのメンバーだった米良勝男(めら・かつお)。宇宙飛行士を目指すためにグループを脱退、宇宙開発事業団(NASDA)で訓練の日々を過ごしていたが、ある日たまたま点けたテレビをみて衝撃を受ける。そこに映し出されていたのは、勝男を差し置いて宇宙に飛び立たんとしている、IGARASHI残留メンバーの姿だったのだ。
 激怒した勝男は、IGARASHIが乗り込んだスペースシャトルに忍び込み、宇宙空間上でハイジャックしてしまう。シャトル内では、勝男の不条理な支配が始まるのだった。
 一方そのころ地球では、NASDAの職員で勝男の上司でもあった米村(よねむら)が、責任をとって事態を好転すべく動き出す。彼が向かった先は、下総国で百姓一揆を指導した佐倉惣五郎(さくら・そうごろう)の子孫にあたる14代目佐倉惣五郎のもとだった。
 紆余曲折ののち、IGARASHIの救出を引き受ける14代目。しかし彼と、その息子で3歳ながら老け顔の魚権(ウォーケン)の前には、奇妙な存在が次から次へと立ちはだかるのだった。朝日プロダクションからの刺客で朝の子ども番組を仕切れそうなサトラレ、馬と人の間に生まれた馬男、呪術師(ブスつかい)……。
 ネタでネタを洗う狂騒の物語は、いつしかそれ自体の加速度に軋みをあげ、各方面からのクレームを集めていくのだった――。

クレーム上等のロック魂
 テレビよりも漫画や本やゲームを好んで生きてきたため、基本的に芸能人関係には疎い。それでも、この漫画に出てくる人物の元ネタくらいなら分かるし、だからこそ「こんなこと書いて大丈夫か!?」と心配にもなるというものだ。
 ジャンプに連載された『幕張』、マガジンに移っての『泣くようぐいす』といった作者の芸風は、この漫画に至ってひとつのピークを迎えたように思う。雑誌掲載時から単行本化される段階でもかなり修正が入ったという、そのネタの詳細はここでは明かさ(せ)ない。が、連載当時にテレビを賑わせていた人物を中心に、作者の目に映ったものは芸能人を中心にことごとくパロディされ、皮肉られ、風刺された(しかも了承無しで)と云っても過言ではないのではないだろうか。写実的な画風と相反するようなその作風は、大亜門『太臓もて王サーガ』(第87夜)などのパロディよりも数段、露悪的で屈折している。
 こうしたネタの大半は、読者に中高生レベルの悪ふざけと捉えられてもおかしくない(罪のないことに、マガジンの読者層の半数以上は中高生だろう)。だがしかし、途中から主人公的存在となる佐倉の必殺技“大人の事情”に込められたのは、業界の不公平に憤る心ではなかったろうか。自分の連載がどうなろうと不条理を見逃さない挑戦的なスタンスは、ただのネタ漫画と云うには余りにもまばゆい、まごうことなきロックだと思う。

あまりに文学的な
 ストーリー漫画である以上、物語があるのだが、やはり構成としてはよいとは云えないだろう。前述のようなパロディに下ネタ(主に性的な)と悪ふざけが乱舞し、物語はどんどん収拾のつかない方向に転がっていく。
 だが、そんなデタラメ三昧の展開に、ある意味で詩的なものを感じるのは自分だけだろうか。例えば、高橋源一郎の初期の小説『ジョン・レノン対火星人』(このタイトルも相当だ)を思い出してしまうのだ。
 木多康昭に文学とはアンバランス、と思われるかもしれない。が、氏の初期作品に「仮面の告白」「夜明け前」「海に生くる人々」など往年の文学作品の名が冠されていることは、決して無意味ではないと思う。
 その内容から、本作はやはり上下2巻という短命に終わった。しかし、作者の初期の無軌道さと後年の『喧嘩商売』シリーズにみられるストーリーテリングの狭間に位置し、それが詩情すら醸し出すこの漫画に、たまたまではあるだろうが絶妙なバランスを感じざるを得ないのだ。

*書誌情報*
 もともと発行部数が少ない上、電子書籍化もされていないのでなかなかお目にかからない。ネットでの購入が確実だろう。
☆通常版…新書判(17.4 x 11.8cm)、全2巻。絶版。

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