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第150夜 京言葉が語るボケとツッコミ、小さな絆…『京洛れぎおん

      2014/02/26

「奴らと戦う力を持っていても小学生だよ/本気の力をモロに受ければ壊れてしまう/体もまだ未熟なのに/使命だから行くんだ/えらい子なんだよね」「別のイミで俺がえらいんですけど!?」


京洛れぎおん(1) (ブレイドコミックス)

『京洛れぎおん』浅野りん 作、マッグガーデン『コミックブレイドBROWNIE』→『月刊コミックブレイド』掲載(2008年12月~2013年8月)

 ゲーム『神獣旅団(モンスター・クルセード)』好きの中学3年生、神足鉄汰(こうたり・てった)は、母親の勧めた五光山(ごこうざん)学園高校を受験するために訪れた京都で、あらゆるものを喰らう半透明の化け物を目撃する。
 同時に鉄汰は同い年の少女、西遠紫里(さいおん・ゆかり)と知り合うが、政府の古都史跡安置保全課(通称こしあん)に所属する役人、紀ノ川(きのかわ)の車に拉致同然で連れ込まれてしまう。
 鉄汰の見た、異次元から現れる化け物を倒す力を持ち、遠い昔から代替わりを繰り返し京都を護ってきたと云われる“戦女(いくさめ)”。あくまで軽いノリの紀ノ川によれば、鉄汰には戦女の受けるダメージを引き受ける、サポーターとしての適性があるという。
 そんなわけで、なし崩しに戦いの場に立たされた鉄汰だが、コンビを組むことになった小学5年生の戦女、椹木千鳥(さわらぎ・ちどり)のツンツンぶりに衝突することもしばしば。しかし、少しずつ互いに信頼関係を築いていく。
 無表情な戦女の葉賀椛(はが・もみじ)と、鉄汰と同じく紫里の母が営む寮に住む元気者の車折和助(くるまざき・わすけ)のコンビ。“男の娘”な戦女の高小路紫水(たかのこうじ・しすい)とその従者である石川北泉(いしかわ・ほくせん)のコンビ。そんな仲間たちとともに、鉄汰と千鳥の日常と戦いは続く。
 やがて現れる、戦女と化け物との戦いを邪魔する“万葉の戎士(まんようのじゅうし)”を名乗る謎の3人組。そして、ほのめかされる政府と市の秘密。鉄汰と千鳥は、洛中と世界の平和を護り通すことができるのか――?

京言葉と和菓子
 自分は生まれも育ちも関東なので関西にはあまり縁がない。けれど、それでも京都には別格な印象を抱いている。それは、中学生の時に修学旅行で行って以来、幾度も訪れた場所だからということもあるのだが、それ以上に闇の深さがそう思わせるのだと思う。それは、山に囲まれた地勢ゆえの文字通りの夜の暗さでもあるし、かつての都であり、幾つもの妖怪変化の説話の舞台が今もそのまま残っていることでもある。
 そんな京都の雰囲気を描き出した物語としては、近年の小説ならば万城目学『鴨川ホルモー』だったり森見登美彦の諸作だったりが存在するが、漫画では珍しいかもしれない。作者の浅野りんは、かつてエニックスの『ドラクエ漫画劇場』シリーズなどで腕を磨いた『ガンガン』系の漫画家として当時から知ってはいたが、京都出身かつ現在も在住者であることは、この漫画を読むまであまり意識していなかった。
 京都ネイティブである作者によって、舞台となる場所は緻密にロケハンされているし、全編の会話は京都弁で語られている。主人公の鉄汰は綾部市で育っているので、厳密に云えば丹後弁を話す方がリアルなのかもしれないが、それは措くとしても、日常シーンにおける京都弁によるやり取りは、特に関東者からすれば新鮮この上ない。
 加えて随所に光る高橋留美子的なボケとツッコミだったり表情だったり擬音だったりが楽しい。それ以外にも各話のタイトルが有名な小説から取られていたり、紀ノ川の食べる和菓子が毎度ちがったりする作者の細かなこだわりが、京都というロケーションとあいまって何とも云えない雰囲気を醸成しているのだ。

二通りの関係性
 軽いノリとツッコミが支配する日常シーンに対して、“化け物”との戦闘については存外シビアだ。と云っても、命のやり取り云々というような重みがあるわけではない。恐らくはゲーム『モンスターハンター(Monster Hunter)』が元ネタであろう(作中にもそれと思しきゲームソフトが小道具として登場する)戦闘インターフェイスによって、戦女とサポーターの知覚がリンクされ、多くの場合は主人公の的確な指示で“化け物”を倒すことができる。
 それでは何がシビアなのかと云えば、それは小学生である“戦女”と高校生であるサポーターの(というか、もっと云えば千鳥と鉄汰の)チームワークについての描き方である。
 一般に、小学生の信頼を若干年上の異性が得ることは、簡単でありながら難しいだろう。信頼されればそれこそ盲目的に信じる一方で、ひとたび不信が芽生えれば、それは上の世代全体への不信に短絡する。同時に未熟なコミュニケーションの仕方が事態を解り難くするだろう。
 そういう小学生を前にして、大人は誠実さをもって臨まなければならない、というのが教育的立場の意見だと思うが、鉄汰は悪態をつきながらもそれを実践する。そして、そのコミュニケーションのツールとなるのが、前述のゲームだ。「少年と幼女」という関係性は作者が以前から描いてきたところだが、その系譜に連なりつつも、ゲームと現実という二通りの関係性で描いたところに新しさがあると云えるだろう。
 終盤、畳み掛けるような展開は賛否が別れるところだが、上に挙げたような複数の要素が渾然一体となった独特な味わいが楽しめる漫画である。

*書誌情報*
☆通常版…B6判(18 x 13cm)、全5巻。電子書籍化は現在3巻まで。

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Comment

  1. さつま より:

    渋い作品チョイス流石です。

    私は京都近辺出身なので濃いローカルネタも楽しめたんですが、あまりにマニアックだったので読んでて不安になりました笑。関東の方にも楽しんで頂けたようでなにより。

    ご指摘のように高橋留美子的ドタバタコメディが魅力の漫画家さんですよね。ファンタジーへの転身を試みた『パンゲア』は畳み切れませんでしたし、やっぱり学園物があってるように思います。今作も魅力的なキャラクターは作れてたと思うんですが、中途半端になってしまったのが残念。次回作では長期連載を期待したいです。

  2. 100夜100漫 より:

    さつまさん、こんばんは。

    京都の方のご出身でしたか。何となく、いいですなぁ。

    京都の地理はうろ覚えなんですが、それでも楽しめました。四条大宮駅などは見覚えもありましたし。

    『パンゲア』は雑誌を移って続いたので楽しみでしたが、もう一息でしたかね。。それこそ高橋留美子的なドタバタが細く長く続いてくれると楽しいんですけどね。

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