「だからこそ浪漫倶楽部の出番だろ!!/これから一緒に不思議な事件が起きたら一つ一つ解決していけばいーじゃないか!!」 『浪漫倶楽部』天野こずえ 作、エニックス『月刊少年ガンガン』掲載(1995年5月~1998年2月) 火鳥泉行(かとり・せんこう)は夢ヶ丘中学校の……
「 不思議 」 一覧
第46夜 淡々と、ただならない日常は過ぎゆく…『あずまんが大王』
「そんなんじゃありませんのだ」
『あずまんが大王』あずまきよひこ 作、メディアワークス(現アスキー・メディアワークス)『月刊コミック電撃大王』掲載(1998年12月~2002年3月)
恐らくは関東にある、どこかの共学高校。そこで繰り広げられる、とも、ちよ、よみ、榊(さかき)、大阪(おおさか)、神楽(かぐら)といった女子生徒たちの日常。大事件が起こるでもなく、部活に青春を注ぐわけでもなく(約1名いるけど)、ただヘンな妄想や勘違い、あるいは世間知らずや未熟のために繰り返されるボケと突っ込みの応酬。それを助長はするものの、たしなめたりはあんまりしない教師たち。共学なのに男子はほとんど出ないけれど、異様な存在感を示す古典教師(男)。
そんな毎日を繰り返して、卒業に至った3年間の軌跡。
“日常系・時間経過四コマ”の先駆
高校生の時、部活や委員会は好きだったがクラスにはあまり溶け込めず、休み時間はよく机に座って読書していたものだったが、そんな時に後ろの席などから「あれってこういうことだよね」「違うよ~、こうだよ」なんてやり取りが聞こえてきては「違うよ、そうじゃないよ」と突っ込もうにも自意識が邪魔して突っ込めず、臍を噛んだことがよくあった。本作は、そういうじれったいけれど何だか暖かい気持ちを、読む人に喚起してくれると思う。
何となく日常生活を繰り返す女子高生を描き、しかも1つの四コマで文脈が完結するのではなく、その背景として時間の流れがあり、人物が経験・記憶・成長していくという要素は、少なくとも広く読まれる作品としては初めてのものではなかったかと思う。そうした意味で、本作は先駆と云えるだろう。
連載開始は90年代の最末期。この5年後に『らき☆すた』が開始され、そのさらに2年後には『けいおん!』や『日常』が始まっている。軽く調べた限りでは、本作のメジャー化後に同じような構造を持った四コマ漫画が急増しているように読み解ける。四コマという形式でこそなくなったが、本作の作者自身も『よつばと!』という後継作によっても高評価を得ており、日常を切り取る、これらジャンルの隆盛は続くだろう。
少女たちの夢と不思議回路
概要に記載した通り、本作には大きな事件や倒すべき敵など出てこないし、登場人物たちが共通して打ち込むようなスポーツ等もない。ただ1年生として登場した彼女たちが、それなりに刺激的な日々を過ごし、校内行事に参加し、受験を経験して卒業していくという、要約すれば単純な物語だ。
小学生から飛び級で高校生になった美浜ちよという漫画的要素はあるものの、それ以外は多くの人が過ごした(または過ごす)であろう現実の高校生活から逸脱したものは殆ど見られない。ただ、少女たちのみる夢と妄想が、大きなウェイトを占めている点が特徴的である。精神分析学的とすら云えてしまいそうな、夢による現実の侵襲が織り交ぜられた作品世界は、10代の頃に特有な、無軌道とも云えてしまう物事の捉え方や発想が渾然一体となっている。しかも、ともすれば“萌え”を前面に押し出しそうな構成でありながら、描写は程よく距離を置いている。この辺りが、恐らく本作の魅力の根源なのだろうと思う。
かつて2ちゃんねる発で『姉ちゃんの詩集』という詩集が刊行されたが、このファニーな詩集の作者も、やはり女子高生だったことは、本作との言い知れぬ関連性を示しているように思う。
*書誌情報*
☆通常版…A5判(20.8 x 15cm)、全4巻。
☆新装版…B6判(17.6 x 12.8cm)、全3巻。大幅な加筆修正あり。
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