第3夜 二次元ヲタクだって、青春するし恋もする…『げんしけん』
2018/06/27
「俺に足りないのは覚悟だ」
『げんしけん』木尾士目 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2002年4月~2006年5月)
晴れて椎応(しいおう)大学に入学した新入生、笹原完士(ササハラ・カンジ)にはひそかな野望があった。それは高校時代にひた隠していたオタク趣味(主に二次元)を開花させ、「充実した大学生活」を送ること。
迷った末、おっかなびっくり選んだサークルは「現代視覚文化研究会」略して「現視研」だった。優男イケメンなのにヘビーなオタクの同級生、高坂真琴(コーサカ・マコト)や、斑目晴信(マダラメ・ハルノブ)たち先輩、非オタクだけどコーサカにベタ惚れしてる春日部咲(カスカベ・サキ)らと一緒に、げんしけんの活動したりしなかったりする毎日は続く――。
好きこそものの上手なれ
こういうブログを書いている以上、自分は漫画オタクを名乗っていいのだろうが、あまりそういう気がしない。それは、「そこそこ好き」という程度では太刀打ちできないドオタク(賛辞)が巷にはたくさん存在するからなのだが、本作序盤で主人公の笹原が感じるのは恐らくそういう気持ちである。
初めて高坂の部屋に行くくだりがその好例だろう。漠然とゲームや漫画が好きだった笹原が、オタクが1人暮らしするとどうなるのかを目の当たりにして思い知るシーンである。彼の内にこの時の内省が消えずに残り、後の「コミフェス」へのサークル参加や就職へと繋がっているのだと考えると味わい深い。エロ同人やギャルゲーの描写や作中作のスピンオフなどが印象に残りがちな本作だが、“ダメなサークル”なりの、笹原やメンバー達が大人になっていくさまが丁寧に描かれている。
まごうことなき「リア充」
青春物語といえば「成長」や「変化」と並んで外せないもう一つの要素が「恋愛」である。本作でも3組の彼氏・彼女が登場し、漫画カップル、コスプレカップル、オタク&一般人カップルとそれぞれの恋愛模様を演じる。そんなカップルの片割れに横恋慕する者がいたり、我関せず無関係な者がいたりと『ハチミツとクローバー』に引けを取らない群像劇なのだが、決定的に違うのは彼らが二次元という趣味を介し、それぞれの性癖に自覚的かつオープンであること。このために爽やかさは『ハチクロ』に比して激減しているが、反面、変にリアルでもある。
本作9巻にて笹原たちの世代の物語はいったん終わりを迎えるが、4年弱の沈黙を経た2010年より、その後の世代の物語が続行中である。卒業後も変わらず一喜一憂する笹原たち先代の姿を垣間見ることもでき、当初からの読者としては喜ばしい。
かくして彼らは間違いなく「リア充(現実世界での生活が充実している=人生を謳歌している人々)」なのだが、それならば、少なくとも全国の文科系サークル棟でクダを巻いて毎日を過ごしている学生たちは誰もが「リア充」である。体育会系やチャラサーに臆することなく、怠惰で輝いた日々を過ごされんことを祈って、本文を結ぶ。
*書誌情報*
版型:B6判(18 x 12.8cm)、巻数:初代全9巻、二代目全12巻の合計21巻。電子書籍化済み。
☆新装版:初代部分のみ、全5巻で新装版が刊行されている。A5判、描き下ろしカバー、描き下ろしイラストあり。