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第14夜 個人VS個人、その最高水準の衝突…『グラップラー刃牙』

      2018/06/28

「強くあろうとする姿は――――かくも美しい!!!」


グラップラー刃牙 (1) (少年チャンピオン・コミックス)

グラップラー刃牙板垣恵介 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1991年9月~1999年6月)

 東京ドームの地下には闘技場がある。そしてそこでは、各々の世界で現役を担っている格闘家たちが、夜な夜な真剣勝負の異種格闘技戦を繰り広げているという――。
 範馬刃牙(はんま・ばき)はその地下闘技場の若きチャンピオン。空手・柔道・ボクシング・プロレス・中国拳法などの格闘技はおろか、ヤクザ・軍隊・野生動物といった、ありとあらゆる闘争に身をさらし、その技を体得した“トータルファイティング”で君臨する。彼の目標は、父・範馬勇次郎(ゆうじろう)。ベトナム戦争で超人的な傭兵として活躍し、その暴力は一国の軍隊にも匹敵する“地上最強の生物”である。
 この最強の親子、そしてそれぞれのファイトスタイルで最強を誇る男達が、それぞれの“強さ”を携えてしのぎを削る。折しも、闘技場最強を決めるための最大トーナメントが開催されようとしていた――。

騙し討ちと痛み
 有名作である。特に男性にとっては、「最強」という二文字は特別な意味を持っているだけに、必修科目なのではないだろうか。本作の言葉を要約して援用すれば、男は基本的に暴力による最強を目指し、大半はそれが果たされないために、代替手段――知力、経済力、魅力など――を獲得していくに過ぎないとされる。極端ではあるが、一理あるようにも思える。
 そんな主張をぶつくらいなので、本作のバトルシーンの力の入りようは並ではない。最強を目指す闘いにおいて、ルールは限りなく無しに等しい。騙し討ちを仕掛けられ、それで負ければそれは弱いのだ、という論法だ。
 同時に、登場人物がダメージを受けた際の描写が非常に緻密なため、思わず顔をしかめたくなる痛いシーンも多い。しかし、それらのお陰で、本作の闘いは、身体と身体がぶつかりあう生の闘いとして認識されるのである。この傾向は、本作の続編である『バキ』『範馬刃牙』にも継承されてはいるが、生身の身体による衝突を痛烈に描くという点においては、やはり最初のシリーズである本作を推したい。

“闘いのテレクラ”
 そんなリアルな闘いを繰り広げられる登場人物たちも魅力に溢れている。というよりも、ほぼ全ての人物に現実のモデルが存在する。そんな彼らがトーナメントで戦うということは、現実では実現不可能な“相撲VSプロレス”、“空手VS柔術”“格闘技VSケンカ”といった、闘争に興味がある者(おそらくは大半の男子)なら一度は議論したことがあるだろうテーマを紙上で実現することに他ならない。上の小見出しは作者の板垣恵介自身の言葉とのことだが、まさにその通り。しかも格闘に関する作者の深い造詣により、それぞれの闘いで秘伝、奥儀の大盤振る舞いを見ることができる。
 必ずしもフェアプレイと云えない展開、見ていられない凄惨な闘いもあるが、闘いの後には、それらすら包み込んで浄化する爽やかさが漂う。格闘漫画が漫画の一大ジャンルである限り、忘れてはならない作品である。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.2 x 11.4cm)、全42巻。電子書籍化済み。

☆完全版…A5判(20.8 x 15cm)、全24巻。書き下ろし表紙、掲載時カラーページ再現。

☆コンビニ版…B6判(18 x 13cm)、全15巻と思われる。「最大トーナメント編」全12巻のみ近年再刊行された模様。

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