第69夜 人が挑む神との闘い、奇跡の前世代譚…『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第69夜 人が挑む神との闘い、奇跡の前世代譚…『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話

      2013/09/13

「何かに命を張って生きることは/約束に似てるな/誰と交わしたわけじゃない/自分の中の約束」


聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話 1 (少年チャンピオン・コミックス)

『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話』車田正美 原作、手代木史織 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(2006年8月~2011年4月)

 18世紀のイタリア。孤児のテンマは、ギリシアにある聖域(サンクチュアリ)から来た天秤座(ライブラ)の黄金聖闘士(ゴールドセイント)童虎(どうこ)に秘められた小宇宙(コスモ)を見出され、聖闘士となるための修行を受けることになる。聖闘士とは地上の守護神アテナに仕え、海皇や冥王からの侵略から地上を守るため命を懸ける戦士たちだった。
 試練をくぐり抜け、テンマは天馬星座(ペガサス)の聖闘士となる。ほぼ時を同じくして、孤児院の幼馴染サーシャがこの時代のアテナであることを知り驚くテンマ。しかし、それだけでは終らなかった。テンマの故郷が冥王ハーデスの手先に襲撃を受け、急行するテンマ。そこで見たのは、ハーデスの“器”となった、サーシャの兄にしてテンマの無二の親友、アローンの姿だった。
 テンマ、サーシャ、アローン。かつて永久(とわ)の友情を誓った3人を中心に、神々と人間による地上の存亡をかけた闘いが始まる。

大成功の前世代譚
 ゼロ年代に入ってから、よく見聞きするようになったものに、往年の有名漫画の続編やリビルドというものがあった。結構な数があったように思うが、自分の見た限り、大成功を収めたものはあまりなかったように思う。だから、『聖闘士星矢』(第49夜)の続編(というよりも大いなる前世代譚だが)が始まると聞いて、大丈夫かと懸念したのが最初だった。しかも、作者は女性である。非常に差別的な言い方になって恐縮至極だが、ありていに云って、はたして女性が車田節を継承できるのかと、そこについてもいぶかしんだ記憶がある。
 しかし結果として大成功だったと思う。ほぼ同時に連載開始となった本家による『NEXT DIMENSION 冥王神話』と比べても、自分にとっては遜色のない熱量を持った作品と感じられた。本作の作者は幸福であろう。『星矢』が大好き過ぎて漫画家になり、その正統な別エピソードを自分の手で書けたのだから。その恍惚と恐怖は想像を絶していたと思う。コミックス各巻カバー袖の作者の言葉には、大抜擢への不安と、負けまいとまさに命を振り絞る様が生々しく綴られている。重圧に臆せず、最後まで息切れすることなく描ききったことは、本作の内容と同じくらい、読む者を励ましてくれることと信じる。

神に挑む
 内容的にも、奇をてらわない正統派である。オリジナルの『星矢』と大きく違うのは、主人公とアテナ、そしてハーデスに当たる人物が互いに幼馴染であるということであろう。これによって、序盤からラストまで、一本のラインで話がまとまったように思う。また、『星矢』では初期の敵対している期間が長く、あまり活躍できなかった黄金聖闘士も、本作では各人に大きな見せ場があり、前作で自分の誕生星座の聖闘士があまり目立たなかった読者も大いに溜飲を下げられる。各人がそれぞれの信念を持って闘う場面は、流麗な絵柄も相まってどの星座の読者であっても大満足だろう。
 そして、聖闘士といえばやはり神に挑む闘いであろう。『星矢』と同様かそれ以上に、人が神に挑むシーンは多い。作者はしっかりと車田節を継承し、さらに独自のセンスを加味してゼロ年代の神と人との闘いを描いてみせる。神と対峙し、命を燃やして限界突破する聖闘士の、言葉に、技に、振る舞いに、心が震えること必定だろう。
 本編終了の熱も冷めやらぬ2011年5月より、12人の黄金聖闘士各人にスポットを当てた『外伝』が開始され、現在も『別冊少年チャンピオン』にて連載中である。本編の黄金聖闘士の活躍にあき足らない読者は手に取ってみるとよいだろう。

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