漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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第124夜 ○コ塗れでも潰えない、上流階級の心意気…『有閑倶楽部

      2013/12/07

「10億だ!!/いいか最低10億とらなきゃ家に帰るぞ/そんなはした金/ばかばかしくってつきあってられるか!!」


有閑倶楽部 1 (りぼんマスコットコミックスDIGITAL)

『有閑倶楽部』一条ゆかり 作、集英社『りぼんオリジナル』→『りぼん』→『マーガレット』→『コーラス』掲載(1981年4月~2007年10月)

 幼年部から高校まで一貫制の聖プレジデント学園は、各界の名士・名家の子女が通う名門。とりわけ高等部生徒会の面々は、教師たちでもしり込みする程の権力と能力を有していた。
 新興ながら世界規模の財閥である剣菱家の娘で運動部部長の剣菱悠理(けんびし・ゆうり)。宝石商の一人娘で、持ち前の美貌で玉の輿を狙う経理の黄桜可憐(きざくら・かれん)。日本画の大家を父に、茶道家元を母にもつ文化部部長、白鹿野梨子(はくしか・のりこ)。大病院の御曹司にして文武両道の生徒会長、菊正宗清四郎(きくまさむね・せいしろう)。警視総監と旧華族を父母に持ち、機械いじりが得意でアウトローにも顔が利く副会長、松竹梅魅録(しょうちくばい・みろく)。駐日スウェーデン大使の子息で女性とみれば口説かずにいられないプレイボーイで書記の美童グランマニエ(びどう・――)。生徒会らしい事は何一つせず、そのくせ暇を持て余す彼らは、いつしか周囲に「有閑倶楽部」と呼ばれるようになっていた。
 そんな彼らにとって、折々に巻き込こる事件は、まさに退屈退治にうってつけのレクリエーション。強盗、盗難、殺人、オカルトに某国諜報機関――立ちふさがる障害に萎縮するどころか、各員の持てる体力・知力・財力・魅力・権力をフルに使ってひた走る。華麗にしてゴージャス、けれども最後は努力と根性で、彼らのパーティーは留まらない。

庶民的ハイソ
 自分には10歳近く年上の従姉がいる。自分の家の裏手が従姉の家にあたり、子どもの頃には学校帰りなどに通りかかると、よくその従姉がファミコンをしているのが網戸越し見えたりしたものだ。従姉は漫画もそれなりに好きで、ごくまれに自分が彼女の部屋に上がり込んだりすると、色々と読ませてくれた。従姉の本棚は『りぼん系』の少女漫画が大半を占めていたが、そのうちの一作が、この漫画だった。
 ゴージャスな活劇物語である。毎度、豪勢な金品がからむ事件が発生し、色々な意味で超高校生級の6人の活躍(暗躍?)が描かれる。特に後の方の各編では悪人退治が毎度のこととなるが、基本的に主人公たちは自らの欲望に忠実なだけなので、時として(特に序盤)自分たちが社会を騒がせる形になることもある。
 上流階級の主人公によって周囲が振り回されるというパターンに、自分はどうしても『おぼっちゃまくん』(第48夜)を思い出してしまうのだが、当然、少女漫画なので万事にわたり幾分スマートに、綺麗めに描かれている。しかし、恐ろしい共通点も存在してしまうのだ。それは、作中の言葉を借りれば「ンコ」がらみの出来事が結構な頻度で描かれるということ。連載当時、『りぼん』読者にとってどう受け取られたのだろうか。
 「ンコ」ネタについての作者の意図を、自分は知るべくもない。が、酒の商標からとられた各人物の名前と、この「ンコ」ネタにより、上流階級的な「きどり」は完膚なきまでに消し去られ、庶民的ハイソ活劇とでも呼びたくなるような作風が醸し出されている。こうした点は、この漫画の長寿化に相応の役割を果たしたと思う。

偉大なるマンネリズム
 後半は散発的な発表とはいえ、30年弱に及ぶ本作の連載期間にも目を向けたい。この間、日本の景気の動向は大きく様変わりし、6人は永遠の高校生(本作はいわゆる“『サザエさん』形式”なのだ)ではあるものの、彼らの親はその影響に無縁というわけではなかった。最近のエピソードで剣菱グループの銀行の合併が描かれた時は、かつては敵役として上海マフィアやソ連KGBなどが登場していたことが思い出され、時代の流れを感じた。
 それでも、そういう容赦のない時代の流れの中で、この漫画の空気は変容していないことに安堵する。毎回、悠理は食欲魔人で喧嘩が強く、それを野梨子がたしなめつつ、可憐と美童が色仕掛けで、魅録が人脈を辿って、それぞれ手がかりを探し出し、清四郎がとりまとめて作戦を練る、というパターンは、もちろんそれぞれに工夫が凝らされているが基本的には変わることがない。『寅さん』的というか『007』的と云った方が近いか、ともかく安心して楽しめるという偉大なマンネリズムに満ちている。連載期間もあいまって、ある程度以上の年齢の読者には幅広く楽しめると云っていいだろう。
 マンネリズムはまた、6人の関係にも云える。思春期まっただ中なはずの彼らだが、旅先で全員同じ部屋で雑魚寝するなど、少女漫画に付き物の恋愛感情が感じられることがほとんどない。これには善し悪しがあると思うが、時に憎まれ口を叩きあいながらも、肝心なところでは一致団結できる彼らの姿に、高校生にしては少し大人びた(30年近く同級生をやっていれば当然と云えば当然か?)友情をみて、いつまでもこのまま馬鹿騒ぎを続けて欲しいと思うのだ。
 こうした形式のため、厳密には本作は完結していないと云えるだろう。作者によれば、最終回があるのなら6人の中の恋愛を描く、とのこと。長い長い有閑な日々の果て、彼らがどう変わっていくのかを見てみたい気も確かにする。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.8 x 12.6cm)、全19巻。電子書籍化済。
☆文庫版…文庫判(15.2 x 10.6cm)、全11巻。巻末書き下ろし頁あり。
☆DX版…B6判(18.2 x 13cm)、全9巻。絶版。カラー頁、巻末書き下ろしあとがき、ミニコラムあり。

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