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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第178夜 奇抜さをうっちゃる相撲魂…『大相撲SF超伝奇 五大湖フルバースト』

      2018/07/23

「この技のキレ……………/そして この土俵さばき!!/もはや間違いありません!!/遂に!!/ついに…/還って来たッッ(カム・バック)!!!/デトロイトの英雄が/全米相撲の聖地に/ご帰還だ――――ッ(カム・バ――――ック)!!!」


五大湖フルバースト 大相撲SF超伝奇 上 (シリウスコミックス)

『大相撲SF超伝奇 五大湖フルバースト西野マルタ 作、講談社ウェブコミック『MiChao!』→『月刊少年シリウス』別冊『KC NEMESIS』掲載(2009年~2012年1月)

 時は2XXX年。日本の国技だった相撲は、いつの間にかアメリカに伝播し、同国のナショナル・スポーツとなっていた。
 そんな全米相撲の聖地は、かつて世界一の工業都市として知られたミシガン州のデトロイト。今では「デトロイト・スモー・ガーデン」なる相撲の殿堂を擁するこの地で、必殺のデトロイト・スペシャルを携え“技(テクニック)の横綱(チャンプ)”と賞賛される五大湖(ごだいこ)は、200連勝という偉業を成し遂げる。しかし、その身体は既に原因不明の病に侵されていたのだった。
 これまで家族も顧みず、相撲にだけ邁進していた五大湖。育ての親で全米相撲協会の理事長である親方とも、息子のクリスとも分かり合えず、孤独を深める彼のもとを訪れたのは、自らをロボット科学者ドクター・グラマラスと名乗る謎の女だった。
 それから1年、変わらず熱狂に沸くデトロイト場所に、五大湖は久方ぶりに姿を現した。変わり果てた姿で。
 土俵で殺戮を続ける五大湖に対するのは、長き眠りから目覚めた“角界の守護神”こと名もなき伝説の横綱。過去の栄光、親子愛への渇望が交錯する中、2人の立ち合いが今、爆ぜようとしていた――。

大奇想にして大真面目
 小・中学校と一緒だった友人で、かなり本気で相撲に取り組んでいる男がいた。学校で会う彼はアニメや漫画を愛し冗談好きな愉快な人物だったのだが、放課後や休日には、学校の部活ではなく地域の少年相撲クラブで汗を流しているようだった。今の貴乃花親方がまだ現役力士の貴花田で、兄弟で「若貴」と呼ばれていた頃の話だ。
 自分と相撲との接点がそれくらいなので、相撲といえばその友人を思いだすのだが、そんな印象をかなり明後日の方向に張り飛ばされた、というのが、この漫画の初読時の思いだった。
 近未来と思しきアメリカの工業都市で、星条旗のまわしを付け「狩舞海(かりぶかい)」とか「満破綻(まんはったん)」といった四股名をもったアメリカン力士が、さながら総合格闘技のような入場シーンを経てがっぷり四つに組むシーンなど、妄想にしたって、なかなか出てこないのではないだろうか。しかも、恐らくこれはギャグではなく、徹頭徹尾、大真面目な物語なのだ。
 加えて、表紙がスタイリッシュ過ぎるために伝わり難いが、その力士たちの闘いを具現化する筆致は相当に男臭い。アメコミ的な筋肉の陰影を取り入れつつ、いわゆる綺麗さとは正反対のベクトルで描かれた画は、だからこそ、闘う者の鍛えられた肉体と、必死の形相をこの上なく表し得る。

Art of fighting
 人物が激昂して叫ぶ時の身体のブレ、アナウンサーの台詞のセンス、会場に満ちる「ごっだいこ!」コールといった演出には、『グラップラー刃牙』(第14夜)的なものを感じる。父と子という関係が1つのポイントである点にも影響が伺えると云えよう。
 日本古来の相撲という要素をアメリカナイズし、そこに現代日本の格闘漫画的なエッセンスを加え、さらには“世界の工場”デトロイトという土地に関連づけた機械という要素を盛り込んで描く。この漫画の魅力とは、1つにはそうした無国籍的な成り立ちによるものなのかもしれない。
 それではこの漫画は単にアメリカン相撲にサイボーグという発想の奇抜さに『刃牙』的な見せ方を仕組んだだけのものなのかというと、無論そうではない。“角界の守護神”である名もなき横綱の心・技・体にわたる強さが際立って描かれるものの、やはりそれも主題ではないだろう。
 思うに、自分がいて相手がいて“相撲をとる”ということ自体が、主題なのだ。力と力、技と技のぶつかり合いに、観客が沸き、読者も興じる。その作用か、闘う者はいつしか己の抱えた傷やわだかまりが浄化されているのに気付いていく。その成り行きを丁寧に追うことこそが、この漫画の本当の狙いではないだろうか。全7話のうち実に4話が、ひとつの相撲を描くために費やされるということからも頷けるだろう。
 全2巻のうち、2巻の後半は作者のデビュー作となった「両国リヴァイアサン」が併録されている。「五大湖」と併せて「SF相撲漫画3部作(トリロジー)」の第1、2作を成す物語として、通底したメンタリティが味わえる一篇だ。“心・技・体”のうち“体”と“技”を体現した2作を味わいつつ、最後の“心の横綱”が活躍する最終作を心待ちにしたい。

*書誌情報*
 紙媒体に先駆けて電子書籍が発表されている。電子書籍版には紙媒体版には収録されていない短編が併録されているので注意されたい。
☆通常版…B6判(18.2 x 12.8 cm)、全2巻。絶版。

☆電子書籍版…全2巻。

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