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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第171夜 思い出になる日々を、呑気さで奏でよう…『けいおん!』

      2018/07/22


「梓 さっき何で私が外バン組まないのか聞いたよね/やっぱり私はこのメンバーとバンドするのが楽しいんだと思う/お茶飲んだり/だらだらすることもあるけど/それも必要な時間なんだよ」「……本当に?」「多分…」


けいおん! (1) (まんがタイムKRコミックス)

けいおん!かきふらい 作、芳文社『まんがタイムきらら』掲載(2007年4月~2010年9月)

 桜が丘高校に入学した田井中律(たいなか・りつ)は、幼なじみの秋山澪(あきやま・みお)を誘い軽音部の見学に赴こうとする。が、当の軽音部は部員不在のため、4月中に新入部員が4人集まらなければ廃部になると聞かされ、律は「今なら自分が部長に」と野望を燃やす。
 律の働きかけで、澪、合唱部に入部希望だったものの律と澪のやり取りを気に入った琴吹紬(ことぶき・つむぎ)、そして「軽音楽=軽い音楽」と勘違いした初心者の平沢唯(ひらさわ・ゆい)を加え、どうにか軽音楽部は存続を認められる。かくして、律=ドラム、澪=ベース、紬=キーボード、唯=ギターというパート割りで音楽室を根城に軽音部は活動開始。しかし、顧問になった(させられた)音楽教師、山中さわ子(やまなか・さわこ)先生ともども、お嬢様の紬が家から持ってくるお茶とお菓子の誘惑に、律や唯のストッパー役である澪も抵抗できない様子。
 お茶会や遊びを交えつつ、日々の練習、合宿、自作の曲による文化祭ライブといった1年間を経て、軽音部は新入生でギター経験者の中野梓(なかの・あずさ)を迎える。最初こそ、部のお気楽さに真面目な梓は戸惑うが、先輩4人に触れ、彼女にとっても軽音部はかけがえのない場所になっていく。勉強、行事、友達とのおしゃべり。そんなものを調べに乗せたり乗せなかったりしつつ、軽音部の季節はめぐるのだった。

共に過ごした場所のかけがえのなさ
 自分の高校時代の部活が天文部で、ゆうきまさみ『究極超人あ~る』的な日々を送ったことは『星の瞳のシルエット』(第101夜)で触れたが、その天文部に、吹奏楽部と兼部している部員が何人か居た。自分は楽器とはあまり縁の無い生き方をしてきたために、常に傍らに楽器があり、自分の気持ちを音楽に乗せられる吹奏楽部兼部者たちを、内心うらやましいと思っていたものだ。顧問が厳しいようだった我が高校の吹奏楽部と比べるべくもないが、それでもこの漫画を読むと、天文部の部室だった地学準備室で駄弁りながら楽器をいじっていた兼部者たちのことを思い出す。
 自分のそれらの思い出が必ずしも天文や吹奏楽についてのものでないように、この漫画もまた軽音楽そのものについてではなく、少女たちが作り出し、共に過ごした居場所のかけがえの無さを描いたものだろう。と云えば、この漫画に自分が感じた魅力を伝えられるだろうか。本作のアニメ化の際は、音楽や登場人物の魅力が前面に出たため重視されなかったのかもしれないが、弛緩した放課後の時間と、そこで綴られる他愛なくちょっとファニーなエピソードたちは、あずまきよひこ『あずまんが大王』(第46夜)からの“日常系・時間経過四コマ”の流れを踏襲しつつも、軽音部の活動という枠を与えられることで、全体に通底する方向性を持ち併せてもいる。

しなやかに強かに
 主題がそうであるために、音楽についての具体的なシーンは、多くの場合、省略される。恐らくこの漫画で最大の見せ場であろう文化祭での演奏も、極めてさらりと描かれているのだ。四コマ漫画というスタイル(といっても、1本ごとに副題がある従来の形式からは脱却し、単に同じ大きさのがコマが1列につき4つずつ列挙されていくのだが)からしても、それは妥当なことに違いないだろうが、省略はそれに留まらない。
 例えばギター初心者である唯がコードを練習するシーンや、各自が家で行っている自主練のこともほんの軽く触れられるだけで、部活としてやっていれば必ず噴出するだろう部員間での衝突なども、極力あっさりと描かれている。コマ外にある彼女たちの日常とか努力とかアンニュイさとかを想起できなければ物足りなく感じられることは想像に難くない。
 が、それらは無いわけではないのだ。サボり屋に対する怒りも、必死の努力も、これで最後だという寂しさも、コマに現れた微かな表情や仕草が語ってくれている。そのことを互いに分かった上で、彼女たちは明るく楽しい日々を謳歌するのだ。放課後のティータイムに代表される呑気さには、そんなしなやかさと強かさが秘められている気がする。
 卒業後の唯たちと、3年生になった梓たちをそれぞれ描いた続編でも、基本的なメンタリティは変わらない。本編のまとまりが良過ぎるために手が伸び難いが、併せて楽しめる2冊になっている。

*書誌情報*
☆通常版…A5判(21 x 14.8cm)、全4巻。表紙カバー下におまけ漫画等あり。電子書籍化済み。

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