漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

*

「 青春 」 一覧

第52夜 誰も彼も汗にまみれて一生懸命にバカだった…『柔道部物語

「「「俺ってストロングだぜぇ~!」」」


柔道部物語(1): 1 (ヤンマガKCスペシャル (62))

『柔道部物語』小林まこと 作、講談社『週刊ヤングマガジン』掲載(1985年9月~1991年7月)

 地元の岬商業高校に入学した寿司屋の息子、三五十五(さんご・じゅうご)は、中学では吹奏楽部でサックスを吹き、成績はトップクラスという典型的な文科系男子。そんな彼が先輩の怪しい勧誘(「髪型自由、練習も少ない、女の子にモテるし、就職もいいし、強くなれる」)に騙されて柔道部に仮入部する。体育系漫画のご多分に漏れず、いきなり強烈なシゴキにあう1年生。髪型は丸坊主(五厘刈り)で変な挨拶を強要され、そんなことをやっているので勿論モテるわけがない(とはいえ、三五には中学時代のガールフレンドがいるのだが)。
 岬商柔道部はそこそこ強く、「強くなれる」という宣伝文句だけは本当だったと三五が思い出した頃、他校との合同合宿が催される。三五たちは強豪校とのレベルの違いを見せ付けられ、「もっと強くなりたい」という思いが芽生え始める――。

真っ当さと可笑しみのバランス
 実は中学生の頃、不真面目な柔道部員だったのだが、部室の片隅に全巻置かれていたのがこの作品だった。練習にはあまり出ず、たまに出た時には汗臭い部室でこれを読み、まさに見よう見まねで背負い投げなどを試してみたりしていた。
 上に書いた概要だけでは“辛く苦しいスポ根漫画”と取られそうだが、作者が作者なので『What’s Michael?』や『一二の三四郎』のように随所にギャグが散りばめられた作風であることは云うまでもない。もちろん基本は真っ当な柔道漫画なのだが、その真っ当さとギャグとのバランスが小気味よいのだ。
 例えば厳しい練習中、手抜きのテクニックに目覚めた三五の同級生がいかに手を抜いているかの描写があったり、本気になった部員たちを指導する元メダリストの顧問の先生の最初の教えが「俺ってストロングだぜ~~!」「俺はバカだ!」などと自己暗示をかけることだったりと、練習の厳しさと、その傍らにあるバカらしさがフラットに扱われているのである。この辺り、実際に新潟の高校で柔道部だった作者の実体験に取材しているのだろう。

“あの頃”の体育会系部活動
 今になって読むと、上記のような部活潜入ルポ的なくだりは、昭和の時代に地方高校の体育会系部活で、どのような価値観でどのような練習が行われ、そこにどんな汗と涙や自嘲混じりの笑いがあったのかを留めていてくれるようにも思える。ことにスタイリッシュさが追求され尽くされた現在、これほど男だらけで、武道場の汗とエ○ーサ○ンパスが混交した芳香が匂ってくるような作品は、ちょっとないのではないか(『からん』が一番近そうだが、幸か不幸か同作は女子柔道)。そういう意味では失われつつある昭和的価値観の資料として貴重と云えるかもしれない。もちろん、言わずもがなのことだが、三五を始めとした柔道部員たちの成長物語として、手に汗を握って大いに楽しめる良作である。

広告

広告
thumbnail

第46夜 淡々と、ただならない日常は過ぎゆく…『あずまんが大王

「そんなんじゃありませんのだ」 『あずまんが大王』あずまきよひこ 作、メディアワークス(現アスキー・メディアワークス)『月刊コミック電撃大王』掲載(1998年12月~2002年3月)  恐らくは関東にある、どこかの共学高校。そこで繰り広げられる、とも、ちよ、よみ、……

thumbnail

第44夜 恋と夢と。彼らが選んだのは…『部屋(うち)へおいでよ

「ねェ……/これから……/いっしょに…/観よっか…/部屋(うち)においでよ…」 『部屋においでよ』原秀則 作、小学館『週刊ヤングサンデー』掲載(1990年月~1994年月)  東京、阿佐ヶ谷のとあるパブ。ピアノを弾く水沢文(みずさわ・あや)と、客なのに店の手伝いを……

thumbnail

第42夜 恋情も、不安も、諸共に携えて見上げよう…『宙のまにまに

「21分30秒/ポルックス方面2等級!/はいっ」 『宙のまにまに』柏原麻美 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2005年9月~2011年7月)  この春から高校に入学する大八木朔(おおやぎ・さく)は、父親の単身赴任を期に、かつて住んでいた小杉野市に戻ってくる。文……

thumbnail

第33夜 淋しさの記憶を抱え、彼らは奇跡と親和する…『浪漫倶楽部

「だからこそ浪漫倶楽部の出番だろ!!/これから一緒に不思議な事件が起きたら一つ一つ解決していけばいーじゃないか!!」 『浪漫倶楽部』天野こずえ 作、エニックス『月刊少年ガンガン』掲載(1995年5月~1998年2月)  火鳥泉行(かとり・せんこう)は夢ヶ丘中学校の……

thumbnail

第25夜 読書の視覚化…『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人

「実っコ/本はな/ためになるぞう/本はな/いっぺえ読め」 『黄色い本 ジャック・チボーという名の友人』高野文子 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(1999年10月[表題作])  ロジェ・マルタン・デュ・ガール著/山内義雄訳『チボー家の人々』(白水社)。ハードカバ……

thumbnail

第24夜 気高くも哀しい、非モテ系昭和男児の生き様…『男おいどん

「神もホトケもクソもあるもんかとは思うばってん/もしいらっしゃるなら天地・宇宙 万物の真理をつかさどる神サマ/おいどん男ばい! しあわせにしてくださいともたすけてくださいとも死んでもたのみません/おいどんはおいどんのやりかたでがんばるけん/見ていてください」 『男お……

thumbnail

第23夜 “都落ち”により、少女は自由を知る…『丘の上のミッキー

 2013/05/27  100夜100漫, ,

「今日 新しい学校に行ってまいりました/森戸南女学館といいます/ここは蛮族の巣窟です!!」 『丘の上のミッキー』久美沙織 原作、めるへんめーかー 作画、白泉社『花とゆめEPO』掲載(1989年11月~1990年9月)  浅葉未来(あさば・みく)は、東京都心のカトリ……

thumbnail

第19夜 ドタバタラブコメの舞台で、彼らは未来を掴む…『ラブひな

「浪人したって/遭難したって/どんなひどい目に遭ったって/全部全部幸せだった!!」 『ラブひな』赤松健 作、講談社『週刊少年マガジン掲載(1998年10月~2001年10月)  大学受験に失敗し、あえなく二浪目に突入した浦島景太郎。勉強はだめ、運動もだめ、外見は冴……

thumbnail

第7夜 シュールギャグが描く時代の気分…『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん

「お前のパンチを喰らって倒れなかったのは…オレが初めてだぜ…!!」 『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』うすた京介 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1995年12月~1997年8月)  県立わかめ高校に転校してきた藤山起目粒(ふじやま・おこめつぶ……

広告

広告