漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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「 青春 」 一覧

第87夜 パロディ、ジェラシー、満載の空騒ぎ…『太臓もて王サーガ

「みなのもの!/出合え出合えー!!/美女はオレと出会え出会えー!!」


太臓もて王サーガ 全8巻完結(ジャンプコミックス) [マーケットプレイス コミックセット]

『太臓もて王サーガ』大亜門 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2005年7月~2007年5月)

 現実と幻想の狭間にある世界、“間界(まかい)”の王子、百手太臓(ももて・たいぞう)が人間界にやってきた。彼の目的は国民全員が自分の嫁で構成されている“ハーレムランド”を作ること。
 お供の安骸寺悠(あんがいじ・ゆう)とともに私立ドキドキ学園高等学校に潜り込み、野望成就に向けて活動を開始する太臓だが、基本的に下品で見た目もおにぎり的なので、彼女の1人もできそうにない。それでも持ち前の傍若無人さで、太臓は嫁探しを続ける。
 そんな彼の周りには、いつのまにか人間・間界人を問わず変人が集まっていき、毎度ややこしいことになるのである。クラスの“太臓係”を押し付けられた不良少年、阿久津宏海(あくつ・こうみ)のツッコミが追いつかないほどに…。

愛あるパロディとゴシック体のツッコミ
 画期的なギャグ漫画である。いや、話の構成自体は、従来からの形を踏襲したドタバタ(一部ラブコメディ)のため、特に型破りということはない。
 問題は演出の方である。パロディネタの嵐なのだ。比較的読み込んだと思う自分にしても、いまだによく判らないネタが多々ある。パロディの対象となるのは主に掲載試のジャンプ作品で、そのうちで特に別格なのが作者が愛して止まない『ジョジョ』(第21夜第70夜)ネタである。少し読んだだけでジョジョマニアを語るにわか者は、本作の溢れんばかりのジョジョネタをみれば少し謙虚になるかもしれない。と言うぐらい、密度の濃い、愛情のこもったネタを投入してくる。
 これに対するは、不良高校生である阿久津宏海による、往年の柴田亜美的な突っ込みである(あくつこうみ、という名前には“つっこみ”役の意味があったのだろうか)。この切れ味も鋭い。ゴシックにした台詞でツッコミを現すテクニックは誰が発明したのか不明だが、結果として本作のギャグの爆発力を大いに向上させていると云えそうだ。
 この2者が組み合わさった破壊力は半端ではない。公共の場で本作を読むのはよく考えてからにした方がよいだろう。

空騒ぎが終わったら
 『はじめてのあく』や『ラブひな』(第19夜)といった純然たるラブコメを読んだあとに本作を読むと、その品の無さ、男臭さに思わず笑ってしまう。しかし、現実の男子高校生の生活に近いのは、本作の方ではないかと思う。もちろん程度は比べ物にならないながらも、友人たちとのバカ騒ぎがあって、ツッコミがあって、下ネタがあってという、何の変哲も無い学生生活を、実のところ本作は過剰に描いているだけなのではないだろうか。
 学園を舞台とし、時間経過の概念がある以上、いずれは彼らも離れ離れになる。本作の狂言回しである宏海は、太臓以下マイペースな人々のおかげで気苦労が絶えないのだが、それもこれも、大切な思い出になってしまうのだと、久しぶりに本作を読み返した自分は思ったのだった。
 本作のラストは残念ながら打ち切りに等しい幕切れである。しかし、限られた紙面の中で、作者は最大限の誠意を作品に注ぎ込んだといえるラストである。空騒ぎの終わりを見届けて欲しい。

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第85夜 甘口な、けれど薄荷も効いた日々…『ハチミツとクローバー

「うまくいかなかった恋に意味はあるのかって/消えていってしまうものは無かったものと同じなのかって――」 『ハチミツとクローバー』羽海野チカ 作、宝島社『CUTiEcomic』→集英社『ヤングユー』→『コーラス』掲載(2000年6月~2006年7月)  美大生の竹本……

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第82夜 旅の最果てを目指し、少年と彼女は行く…『銀河鉄道999

「あなたは機械の体をくれるという星へ行くのね/もし私をいっしょにつれていってくださるならパスをあげるわ/私と同じパスをあげるわ」「パス?」「そう/パスよ/無限期間有効の銀河鉄道の定期よ」 『銀河鉄道999』松本零士 作、少年画報社『少年キング』掲載(1977年1月~……

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第81夜 ゲームと世界の特異点…『PSYCHO+サイコプラス)』

「知らないの?/この緑色はね……/悪魔の色なんだよ!!」 『PSYCHO+(サイコプラス)』藤崎竜 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1992年11月~1993年2月)  もって生まれた緑色の瞳と髪という特異体質のせいで、日陰者の生活を余儀なくされていたゲーム好……

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第76夜 サッカーごしに見える、少年達の心の形…『ホイッスル!

「ボールをけってるだけで幸せなのに/どうして勝ちたいんだろうね?/それぞれいろんな熱(きもち)をボールに託して試合をする/負けたらそこで途絶える/勝てば先につながる熱(きもち)/途絶えさせてしまった熱(きもち)に勝った側が返せることは/次もまたその次も途絶える時がくるまでは/自分……

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第74夜 彼女は庶民的な日常とSF世界を行き来する…『成恵の世界

「飯塚クン/私なんか誘ってもつまんないわよ」「そ/そんなコトないよっ」「ビンボくさくてネクラでも?」「うん」「愛読書が女性セ○ンでも?」「う うん」「父が宇宙人でも」「うん」 『成恵の世界』丸川トモヒロ 作、角川書店『月刊少年エース』掲載(1999年4月~2012年……

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第73夜 みせろ昭和魂! 全力のケンカ大活劇…『あまいぞ!男吾

「質問!/巴男吾にとって奥田姫子とはなんですか?」「ライバルってとこかな…。」「アリガト、男吾くん!」 『あまいぞ! 男吾』Moo.念平 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1986年4月~1992年7月)  巴男吾(ともえ・だんご)は元気とケンカの強さが自慢……

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第68夜 古流VS剣道にみる“強さ”…『チャンバラ 一撃小僧隼十

「…なにをビビッちょるんかオレは…/戦を挑むんやったら怖いのは当たり前やろ…/それでも戦った男がそこにおる!!/…ふるえなんち…/噛み砕け!!/オレも“鷹津”やろうが!!!」 『チャンバラ 一撃小僧隼十』山田恵庸 作、講談社『週刊少年マガジン』掲載(2002年10月……

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第67夜 偽りの表情が紡ぐ恋情と友情は、真実か…『彼氏彼女の事情

「もし傷つくのなら/最初の相手は/有馬がいいわ/……/その日/“彼氏”“彼女”になりました。」 『彼氏彼女の事情』津田雅美 作、白泉社『LaLa』掲載(1996年6月~2005年3月)  神奈川県内トップの進学校、県立北栄高校に入学した宮沢雪野(みやざわ・ゆきの)……

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第55夜 控え目な瞳が映す、国際都市の温もりと傷跡…『神戸在住

「――神戸より。」 『神戸在住』木村紺 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(1998年9月~2006年3月)  辰木桂(たつき・かつら)は神戸の大学に通う美術科生。父の仕事の都合で東京から引っ越してきた、昔の洋楽と文庫本を愛する真面目で小柄な女の子だ。  大学の……

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