旅 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫-3ページ

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――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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「 旅 」 一覧



第82夜 旅の最果てを目指し、少年と彼女は行く…『銀河鉄道999

「あなたは機械の体をくれるという星へ行くのね/もし私をいっしょにつれていってくださるならパスをあげるわ/私と同じパスをあげるわ」「パス?」「そう/パスよ/無限期間有効の銀河鉄道の定期よ」


銀河鉄道999 (1) (少年画報社文庫)

『銀河鉄道999』松本零士 作、少年画報社『少年キング』掲載(1977年1月~1981年10月)

 未来。銀河系の星々は、天翔ける列車、銀河鉄道によって結ばれ、人々は身体を機械化することによって、永遠の命を手にしていた。貧しい人々を除いては。
 地球で暮らす貧民の1人、星野鉄郎(ほしの・てつろう)は機械の身体を得ることが叶わず、生身の人間を狩ることを楽しむ機械伯爵に母親を剥製にされてしまう。
 絶望する鉄郎の前に1人の女性が現れる。彼女の名はメーテル。銀河系の果てであるアンドロメダでは、無料で機械の身体をくれる星があるという。
 2人は銀河超特急999号に乗り込み、アンドロメダを目指す。幾つもの星に途中下車をしながら。旅の終着に何があるのか、鉄郎はまだ知らない。

男の宇宙
 超有名作と云っていいだろう。が、自分にとっても無二の作品なので取り上げることにする。
 5歳くらいの頃、父親の部屋に確か少年画報社ヒットコミックス版の第3巻だけがあるのを見つけ、それを読んだ。自分が初めて読んだ漫画と云えるかもしれない。
 ある人物が鉄郎の生殺与奪の権利を握って、こう云う。「私の言う事を聞くなら生かしてやる」。言下に拒否し、「たとえ死んでも自分の意思を通せるなら後悔しない」と云う鉄郎。その意気に負け、鉄郎は旅を続けられるのだが、そこに至るやり取りが、ハードボイルドで少し自嘲が混ざって、けれども最後に人間のひたむきさを感じさせて、素晴らしかった(もちろん5歳児がこう考える訳もなく、その時の感情をいま考えると、ということだ)。自分も鉄郎のような旅人として生きよう、と幼心に誓った。
 同じようなエピソードは幾度も繰り返される。男は如何に生きるかを形を変えて問われるのだ。いかにも九州男児の作者らしい。今日的にはジェンダー的な立場から批判を受けそうな考え方ではあるが、ここまで真正面から“男性性”を鼓舞してくれる作品は、いまや逆に貴重ではないか。作者には他にも『キャプテンハーロック』や『男おいどん』といった「男とは」を謳う漫画が多い。
 余談だが、そういえば『ケロロ軍曹』の作者、吉崎観音も九州出身である。方向性は違うが、壮大な大宇宙への憧れは九州男児のメンタリティなのかもしれない。

彼が大人になったとき、彼女は静かな涙を流す
 一方で、藤田和日郎(第27夜第64夜)が溺愛するメーテルというキャラクターも、改めて『め~てるの気持ち』などのオマージュの存在を持ち出すまでもなく、以降の漫画作品に多大な影響を残していると云える。本作の根幹に関わる存在のため、ここでは素性について詳らかにしないが、この、“少年の成長を見守る、憂いを帯びた淑女”というモチーフは、特に日本人の男性にとって、まさしく永遠の憧れなのだろう。
 物語が終着に近付いたとき、彼女は少年に別れを告げる。その時の涙は、未完成だった日々が終わりを迎えてしまったことに対し、少年時代が洩らす溜息の反映と、もちろん立派になった少年を誇らしく思う母性の気持ちと、それ故に別れなければならない女性の未練との混淆なのだと思う。宇宙にこれより麗しい涙があるだろうか。
 旅する男はブサイクとは無関係に格好良く、旅する女はただ凛然と格好良い。良くも悪くも、作者のもっとも濃いところが出たような作品である。読めば人生の視野が広がること請け合いだ。



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