漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

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【一会】『双亡亭壊すべし 7』……2つの再会と、2つの遭遇

双亡亭壊すべし(7) (少年サンデーコミックス)

 地上の悪意と遙か彼方からの悪意。双方が絡み合って建立されたかのような奇妙な館〈双亡亭〉をめぐり、総理が、能力者たちが、異星からの帰還者が、父を亡くした子どもが、そして絵描きが死力を尽くす宇宙的怪奇熱情活劇『双亡亭壊すべし』。つい先日刊行の7巻に追いつきました。概要と思ったことなど綴っていきます。

 前巻ラストで、命を賭してフロルが“取り寄せ”た液体窒素。“乗っ取られ”人(作中には出て来ませんが便宜的にこう呼びます)との乱戦状態となった中、結局は全員で捨て身同然で、どうにか爆発させることができました。轟音と爆風が全てを包みます。
 ところで、酸素のように燃焼しない窒素が「爆発」というのはどういうことなのか、少し気になります。温度が上がって液体窒素が急激に気体になる時、瞬時に体積が増えるので、容器(運んできた2人の片割れのお兄さんによれば「デュワー瓶」と云うそうですね)が破裂し爆発した、という感じでしょうか。
 この爆発により、〈双亡亭〉の主立った地上の建造物はあらかた吹き飛んだ様子。そんな中、凧葉の助けが間一髪で間に合い、フロルは生きていました。
 ぐったりしたフロルとともに、凧葉は地下から地上へ。確かに、長らく〈双亡亭〉の中に居たら、太陽が恋しくなることでしょう。

 どうにか地上に出た凧葉。そこには緑朗がいました。実に1巻以来の再会です。
 フロルは担架で運ばれ、疲労困憊の凧葉も手当てを受けることに――なるかと思われましたが、それは叶いませんでした。〈双亡亭〉内で出会った絵を描く男との約束によるものか、彼はまだ〈双亡亭〉から出るわけにはいかないようです。
 再び内部へと赴く前に、凧葉は緑朗たちに情報共有を行ないます。緑朗の姉・紅は〈双亡亭〉内に居ること。ここに巣くうモノは窒素に弱いこと。そして、連中は暗渠を通って海に至ろうとしていること。窒素のことも暗渠のことも、既に外でも別系統(青一や歴代総理たち)によって知られつつあることですが、裏付けという意味ではこれ以上ない証言者でしょう。
 かくて、凧葉は再び〈双亡亭〉の地下へと。姉・紅の消息を知った緑朗もまた、姉を、青一を、そして凧葉を追って、〈双亡亭〉へと足を踏み入れるのでした。

 一方、先行して〈双亡亭〉に乗り込み、手のドリルで“乗っ取られ”人を蹴散らす青一の前には、新手が姿を現していました。軍刀を帯び、「であります」口調の9つの影の首魁は、自分の所属を帝国陸軍東京憲兵隊と語ります。血走ったその目から、やはり〈双亡亭〉に乗っ取られた者と知れます。
 青一と憲兵達が激突した頃、ひとり爆発から距離をとっていた紅は、仲間を探すうち、大きく白い繭状のものに出会います。中には爆発の間近にいた能力者たちの姿が。
 その繭状のものは、傍らに居た者が髪を伸ばして造りあげたものだったようです。黒子のような格好をした、その儚げな少女は、自らを帰黒(かえりくろ)と名乗ります。
 外では斯波総理と桐生防衛相がしぶしぶ公務に戻っていったようですが、それはともかく。丁寧な物腰だけど何だか自信なさげな帰黒は、紅に訊ねられ、色々なことを語ります。爆発から能力者たちを守ってくれたこと、紅と同じような巫女であること、そして、緑朗が〈双亡亭〉内に立ち入ったらしいこと。
 〈双亡亭〉から遠ざけようとしていた弟が、ついに来てしまったことを知った紅は、帰黒に助力を願います。自分も同行者との合流を急ぎたい帰黒でしたが、これを受けてくれました。しばらくはこの“紅黒”コンビで行動するようです。
 多勢に無勢な上、人間に対しては力を振るいたくないためにピンチに陥った青一に対しても、助太刀する者がありました。卓越した剣腕で“乗っ取られ”た憲兵隊を蹴散らしたミイラ男のような男は、彼らの隊長・黄ノ下残花(きのした・ざんか)少尉だと云います。部下だけ〈双亡亭〉に乗っ取られてしまったということでしょう。
 一息に憲兵隊を退けた残花でしたが、青一のことも〈双亡亭〉側の者だと思っている様子。色々と人間離れしている青一なので、無理もないかもしれません。

「慧可断臂図」は、こんな絵。

 その頃、再度〈双亡亭〉の中へと入った凧葉は、意識と無意識の間で、再びあの絵を描く男の前に居ました。
 〈双亡亭〉内を思ったように移動できる「黒い手」のことを問いかける凧葉に、青年は自分が凧葉にくれたものだと答えます。青年の描いている絵から、雪舟の「慧可断臂図(えかだんぴず)」に話が脱線したりもしますが、ついに凧葉の質問は核心に迫ります。
 外国の建築物に「脳髄を揺らされ」、自分も同じような建物を目指して〈双亡亭〉を建てた自称芸術家。そんな人は、作中1人しか該当しません。
 片や、父親のことを思いだし、自分を奮い立たせて〈双亡亭〉内を進む緑朗の前には、不思議な少女の画が現れていました。手鞠を持ち和装に身を包んだその姿は、本作の第1回冒頭で、〈双亡亭〉の不穏な手鞠歌を歌っていたあの少女と同一人物に思えますが、はたして。

『明月記』にも彗星など天文の記録が。

 さらに、自分は醜いと思い込み、それを否定する紅の言葉も「ぜんぜん信じて紅」(p.145)帰黒からも、新たな事実が語られます。
 〈双亡亭〉が建つこの土地は、土地自体が「もう駄目」なのだと。藤原貞宗の「星月記」によれば(たぶん、藤原定家の「明月記」になぞらえたものでしょう)、寿永元年(1182年)、「星」が降り、以来ずっと“忌み地”のようなものだったそうです。「星」と云えば、既に我々は〈黒い星〉の〈侵略者〉が〈双亡亭〉に関係していることを知っています。この平安末期の「星」もまた、それに関わるものだったのでしょうか。
 それにしても、帰黒といい、鬼離田三姉妹といい、フロルといい紅といい、かわいそうな幼少期を過ごした女性が多い漫画です。あるいはそれも、今後の展開に絡んでくるのかもしれません。

 帰黒の言葉からは、もう1つ重要なことが確かめられました。それは、彼女は紅たちよりもずっと前の時代の人物であること。そのことは、まだ青一を信じられず例の“水”で彼の経緯を知り、その感応作用で自らの来歴も青一に伝えた残花によっても裏付けられます。彼は正真正銘、帝国陸軍東京憲兵隊の所属であり、あの五・一五事件に際して軍属の犯人たちを追跡した沼半井小隊第四分隊隊長でした。
 ということはつまり、〈双亡亭〉は複数の時間にまたがって存在しているか、あるいは中に入った者の主観時間を外界よりもずっと遅く(ないしは停止)させる、ということになるのではないでしょうか。「脳を揺らす」どころではなく、空間も時間をも捻じ曲げた、恐ろしい建築物です。
 残花の回想は続きます。
 事件の犯人を追って〈双亡亭〉に入った残花班を待っていたのは、やはり主の坂巻泥土。残花とは幼馴染みであることが判明しますが、既に泥土はかつての彼ではありませんでした。作品を世に受け入れられない拗ね者が、いつしか抱いた狂気。それがこの能力の引き金となったのかは分かりません。今のところ分かるのは、残花を含む全員が、このとき肖像の洗礼を受けることとなった、ということだけです。

 あわや絵に引き込まれんとする残花少尉、の場面で今巻は閉幕。続く8巻は、4月中旬頃の刊行予定です。
 この漫画は「ひとつの呪い」だとする巻末のあとがきに戦慄しつつ。〈双亡亭〉を作った者が明らかになる次巻を楽しみに待ちたいと思います。

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