恋愛 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫-6ページ

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――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第60夜 いまは遠ざかりし、優雅と峻別の時代の恋情を想う…『エマ

「英国はひとつだが中にはふたつの国が在るのだよ/すなわち上流階級以上とそうでないもの/このふたつは言葉は通じれども別の国だ」


エマ (1) (Beam comix)

『エマ』森薫 作、エンターブレイン『月刊コミックビーム』掲載(2001年12月~2008年2月)

 1890年代、英国。ヴィクトリア朝の終わりも近い時代。新興貿易商の子息、ウィリアム・ジョーンズは、幼少期に自分を厳しく教育した元ガヴァネス(家庭教師)、ケリー・ストウナーを訪ねる。十数年ぶりの再会にケリーは喜ぶが、ウィリアムはケリーに仕えるメイドオブオールワークス(雑役女中)にして、ひとり身のケリーに娘のように寄り添うエマに心を奪われる。
 少しずつ接近し、ついには恋に落ちる2人。しかし、厳然たる階級制度が残るこの時代、上流階級の者と庶民との恋愛、結婚は考えられなかった。爵位へ手を伸ばそうとするウィリアムの父、リチャードは、息子とキャンベル子爵家との政略結婚を推し進めようと画策し、エマもウィリアムを想いながらも身を引こうとする。ただ1人、ウィリアムの幼馴染でマハラジャの王子、ハキムだけが2人を祝福していた。

似て非なるもの
 美麗な作画で人気を獲得した作品である。作者の英国のメイド及びその周辺に対する情熱は掛け値なしに素晴らしい。同時にそれを紙上に再現しようとする執念にも、並々ならないものを感じる。現在、次の連載に当たる『乙嫁語り』で本作と同時代くらいの中央アジアの一民族の生活を描いているが、絢爛豪華な描写から、自分としては本作を推したい。
 内容的には『ベルサイユのばら』など往年の歴史もの少女漫画を彷彿とさせる、貴族や上流階級の華麗な生活と、身分違いの恋を描いている。『ベルばら』がそうなったように、宝塚歌劇との親和性が高そうだ。ただ、『ベルばら』等と似て非なる点として、ストーリーと同時に当時の文化・風俗の紹介にも力点を置いていること、主人公たちが歴史的事件には関わらない(というより、泰平の時代ゆえに事件に遭遇しない、と云った方が適切か。無論、個人レベルでは事件が巻き起こるのだが)ことが挙げられる。
 主人公エマには、例えばオスカルのように混迷の中で煌めく美しさはないが、控え目な彼女が階級という障害と相対したときに見せる凜然とした佇まいには、別種の気高さを感じる。

終わっていく、或る時代の中で
 大きな視点から見ると、本作の舞台は戦乱の一歩手前であることがわかる。20世紀に入ると、イギリスを含む欧州列強のアジア・アフリカ植民地化の余波は世界大戦に繋がり、二度の大戦(特に第二次世界大戦)でイギリスは疲弊し、世界の主導権はアメリカに移る。本作の舞台は、その戦いの世紀の前夜とも云える時代である。
 そのことについての註釈めいた記述は本作にはない。そんなものがあれば、この英国恋物語にはむしろ野暮であろう。しかし読み手として、幸せに歳を重ねたであろうエマとウィリアム達が、どんな晩年を過ごしたかということには、少なからず想いを致す。そう捉える時、本作は巨大な世界史の中で毅然と生きた英国人達の、大切な記録にも思われる。8巻から最終巻の10巻まで、エマとウィリアムの物語を離れて当時の人々の群像劇を綴ったのには、そういう意味もあるのではないだろうか。



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第56夜 ほの暗い情念のドラマを超えて暁は到来する…『朝霧の巫女

「柚子/朝霧の「約束」は覚えてるか?/俺はそれを果たすよ/それだけは確かだ/どんなことがあっても/それだけは必ず」 『朝霧の巫女』宇河弘樹 作、少年画報社『ヤングキングアワーズ』掲載(2000年1月~2007年8月)  広島県内陸部に位置する地方都市、三次(みよし……

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第53夜 やせ我慢上手な“恐るべき子供たち”…『こどものおもちゃ

「…さあ…2人きりよ…私らも子供じゃないんだし…ケツ割って話そうじゃない? ん?」「…「腹」だろ/ケツはもうわれてんだよ」 『こどものおもちゃ』小花美穂 作、集英社『りぼん』掲載(1994年7月~1998年10月)  小学6年生の倉田紗南(くらた・さな)は青木賞作……

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第51夜 ふたりでいるって、割と素晴らしいこと…『くらしのいずみ

「俺らももう長いし/そろそろする? 結婚」 『くらしのいずみ』谷川史子 作、少年画報者『YOUNGKING アワーズ増刊アワーズプラス』『YOUNGKINGアワーズ』掲載(2006年4月~2008年1月)  世の中には色々な夫婦がいる。友達のような夫婦、文科系優男……

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第44夜 恋と夢と。彼らが選んだのは…『部屋(うち)へおいでよ

「ねェ……/これから……/いっしょに…/観よっか…/部屋(うち)においでよ…」 『部屋においでよ』原秀則 作、小学館『週刊ヤングサンデー』掲載(1990年月~1994年月)  東京、阿佐ヶ谷のとあるパブ。ピアノを弾く水沢文(みずさわ・あや)と、客なのに店の手伝いを……

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第12夜 欠ける月の下、優しい死とピアノの調べは歌う…『下弦の月

「あの月が欠けてゆく2週間があたし達に定められた運命なら/あの夜見た月が満ちる事は永遠にないだろう」 『下弦の月』矢沢あい 作、集英社『りぼん』掲載(1998年3月~1999年5月)  女子高生の望月美月(もちづき・みづき)は、街中でギターを弾く不思議な白人、アダ……

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第6夜 生者への冥い欲求と暗鬱の中で閃く生命の光刃…『武装錬金

「死んでもやっちゃいけないコトと、死んでもやらなきゃいけないコトがあるんだ!!」 『武装錬金』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2003年6月~2005年4月)  高校2年の武藤(むとう)カズキは私立銀成(ぎんなり)学園の寄宿生。ある夜、怪物に襲われて……

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第5夜 1955年、広島。その記憶が枷だった…『夕凪の街 桜の国

「もうきょうかぎりあえぬとも/おもいではすてずに/きみとちかったなみきみち/ふたりきりで/さーかえろう」 『夕凪の街 桜の国』こうの史代 作、双葉社『WEEKLY漫画アクション』2003年9月、『漫画アクション』2004年7月  夕凪の街。  終戦から10年後の……



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