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【一会】『3×3EYESサザンアイズ幻獣の森の遭難者 4(完)』……失敗やあやまちは、イコール破滅じゃない

3×3EYES 幻獣の森の遭難者(4) (ヤングマガジンコミックス)

 作中・現実世界ともに12年の時を経て、かつての最終決戦に連なった新編「幻獣の森の遭難者」が発表されたアジアン伝奇バトルロマン『3×3EYES(サザンアイズ)』。その最終巻となる4巻が、先月発刊されました。
 三つ目の聖なる存在、三只眼吽迦羅(さんじやんうんから)のパイことパールヴァティ4世と、その不死の従者である无(ウー)八雲たちが訪れたパリを舞台に、龍皇ベナレスの被造物であるグリフィンのノルマルテ、彼が再び生きる縁(よすが)となった少女・甲子美智留(きのえね・みちる)、そして戦乱を望むゲゲネイスらによって織り成された混乱と戦い、そして“ある世界の危機”を巡る物語も、今巻でひとまずは幕間を迎えます。
 とはいえ、ゲゲネイスによって呼び出された獣魔の女王エキドナをどうにかし、本気になってしまったベナレスを止めなければ落着とはいきません。12年前と同じように八雲がベナレスと直接対決する一方、術士ハーンと化蛇(ホゥアシヲ)葉子の夫婦とその娘のセツ、元ベナレス九頭龍将の舞鬼(ウーカイ)といった面々がエキドナ送還の術式構築に回り、事態の収拾を図ります。
 が、力が戻りきらない八雲に対し、ベナレスの勢いは圧倒的。今一度ベナレスに勝つのは至難のように思われます。

 形勢不利な戦いの中、ノルマルテが過去を語り、パイの別人格・三只眼によって、ついにこの戦いの発端となった真相が明かされます。サブタイトルとなっている「幻獣の森」とは、ひとりの少女の安寧の為に作られた“誠実なる嘘”でした。
 過ごしてきた12年という時間が偽りだった、というのはかなりの衝撃でしょう。この喪失感には、やはり“綾小路ぱい”が主人公だった本編(100夜100漫第100夜)の第2部が思い出されます。あの時の綾小路ほどではないにせよ、それと似た喪失感を彼女は味わったことと思います。
 そして今回の騒動の裏には、三只眼のある“あやまち”がありました。八雲が感じている欠落感を案じたが故に下してしまった選択だったのでしょう。
 煎じ詰めると、三只眼が選択を誤らなければ何も起こらなかった可能性が高かったわけですね。傷つき虫の息となったノルマルテを「愚か者め」と叱りながらも、なぜか彼女が悲しげだったのは、そうした理由からだと思われます。
 自分の過失を明かして謝罪する三只眼を、八雲は赦します。パリ壊滅の土壇場で、騒動の発端とも云える彼女を無条件に赦せる懐の深さは尋常ではないようにも思いますが、それが彼とパールヴァティが積み上げた関係性の深さとも云えそうです。
 三只眼を赦す八雲の脳裏には、今エピソードの冒頭(1巻)で宇宙飛行士の若口さんが宇宙飛行士の資質として口にした、“人間の幸福とは、交換である”という言葉が浮かびます。この場合の「交換」というのは、例えば『鋼の錬金術師』(100夜100漫第200夜)で云われたような“万物を支配する厳然たる等価交換”と云う意味ではなく、小さな気遣いが、お互いに幸福感をもたらすということのようです。例えば挨拶や何気ない一言をかけられたり、1杯のコーヒーを淹れて貰うだけでも、人は安心できるし力を発揮できる、ということかと。すぐ誰に対してもできることとは思いませんが、宇宙飛行士を目指さずとも心に留めておきたいところです。

 劣勢に立たされながらも、八雲はベナレスを倒すべく一計を案じます。ただし、それは美智留に覚悟を強いるものでもありました。
 幼くして病に侵されていた美智留は、世界が与えてくる「苦痛」に対して、それを「呪う」という“交換”をして生きてきたと語ります。その彼女が、八雲がベナレスに追い詰められていく中、幻想から抜け出て現実に抗うことを決意するまでの流れが、今エピソードの核と云えるでしょう。
 生きていれば嫌なことも色々ありますし、世界に対して「祝福」を交換し続けるというのは、けっこう難しいことだと思います。それでも、そうあり続けたいと願うことは大事でしょう。彼女にはそうあって欲しいと思います。
 彼女の決意を促したのは、敵であるはずのベナレスでした。心根を重んじ、現実に抗うことが生だと云うベナレスの美学は、試練を乗り越える人間の強さを良しとするものです。強大な敵を前にしても誇りを失わず戦おうとする人間に、憧れに近い感情を抱いていた『HELLSING』(100夜100漫第39夜)のアーカードに近いようにも思えます。
 12年前の戦いでも、ベナレスはたびたび八雲の成長を促してきました。この漫画は八雲側の主観で描かれていますので、対する彼は悪役の扱いになっていますが、むしろ人格的には尊敬すべき、厳格な師匠のような印象も受けますね。今は袂を分かった葉子やノルマルテが、それでも敬意を払うのにも納得がいきます。

 それほどに偉大な无ベナレスと、八雲の戦いにも終幕の時は訪れます。三只眼、ノルマルテと美智留、ゲゲネイス、ハーン一家と舞鬼、ベナレスの主であるカーリーまでもが、それぞれの立場とやり方で後押しし、決着を八雲に託す最終決戦には、やはり込み上げるものがあります。しかし、本当の意味で決着をつけたのは、三只眼ではなくパイの「覚悟」だったというところでしょうか。
 勝負が決まれば、「なかなか楽しめた」と云うベナレスは寛容なところを見せてくれます。しかし、八雲への提案は意表をついたものでした。ベナレスと八雲に限った話ではありませんが、単純な敵対関係では片付けられない色々な関係性が、この漫画の面白さでもありますね。
 ともあれ、これで物語は一区切り。ノルマルテは冒頭から「失敗」という言葉を使い、三只眼もまた「あやまち」という言葉を口にしました。確かに経緯においては苦い思いを抱く場面も多かったのですが、それでも結末には一抹の希望が残されたように、自分は思います。失敗してもあやまちを犯しても、それが即ち破滅ではないとする展開は、12年前から一貫しています。そこに、作者の信念を感じます。

 さて、まさかのトラバーユ提案を持ち掛けてきたベナレス。彼と八雲たちの今後は、次のエピソードに続きます。
 12年前の戦いのラストで粉々に吹き飛ばされた八雲は、長い時間をかけて復活しましたが、それが不完全だったということが示されました。なぜ不完全なのか、不完全だとすれば、どうすれば彼は完全回復ができるのか、という点について、次エピソード「鬼籍の闇の契約者(仮)」で語られるのではないかと思われます。掲載誌の『e-ヤングマガジン』を見ても、まだ連載は始まっていないようですが、今回の最終話である87話(3×3EYES<サザンアイズ> 幻獣の森の遭難者 第87話)以降に掲載されている「幕間のようなもの」「特別与太番外 八雲の結婚式」「予告」などを読みつつ、待望したいと思います。
 高田先生、ひとまずお疲れ様でした。八雲たちのその後を楽しみにしています。



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