100夜100漫

漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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「 不思議 」 一覧

第176夜 夢現と血まみれの刃の向こう、優しさの咲く…『竹光侍』

「要するに、今の某(それがし)に刀は無用。」「大事な子を一人忘れておいでだよ、お前様」「ん……/見慣れぬ子だな……」「覗いてごらんな、ふふふふふ…」


竹光侍(1) (ビッグコミックススペシャル)

竹光侍永福一成 原作、松本大洋 作、小学館『ビッグコミックスピリッツ』掲載(2006年8月~2010年3月)

 江戸のかたぎ長屋。元は岡っ引きの親分である与左衛門が差配(さはい;世話役のこと)を務めるこの長屋に、信濃者の浪人、瀬能宗一郎(せのう・そういちろう)はやってきた。
 当初こそ住人たちから訝しげな視線で見られた宗一郎だが、狐を思わせる顔立ちながも柔らかな物腰と誠実な態度、甘味を好み、蛸や蝶を飽かず眺める無邪気さもあって、次第に信頼を得、溶け込んでいく。特に同じ長屋に住まう大工の倅、勘吉(かんきち)とは、歳の離れた友達関係を築くのだった。
 楊矢場の矢取女で宗一郎と同郷のお勝、旗本の三男で我が身を持て余す御輿大三朗(みこし・だいざぶろう)といった知己を得、与左衛門の口利きで手習所の師匠も務め始めた宗一郎。しかし、そんな彼の穏やかな生活のそこここに、血なまぐさい亀裂は走る。
 父より仕込まれた剣術の腕と、なによりも自身の性により、宗一郎は戦いを呼び込む。それは、国許からの刺客という形をとって彼を襲うのだった。木久地(きくち)真之介と名乗るその刺客は、「何(いず)れ、お前を斬る」と囁く。
 なぜ自らが狙われるのか、それすら明らかでない宗一郎が、それでも願うのは自分の内に住まう鬼を消し去り、平穏を生きること。愛刀「國房(くにふさ)」を質に入れ、竹光を差してまで望むその願いが、叶えられる時は来るのだろうか。質屋の奥で「國房」はため息を吐き、血の臭いを嗅ぎ取った猫は、街を出る決意を固めるのだった−−。

(さらに…)

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【一会】『蟲師 特別編 日蝕む翳』……再会と、満ち欠けへの祈り

 桜も終わって、そろそろ緑が眩しい季節になりました。  この季節に合わせたかのような濃緑が目に染みる表紙で現れた本書『蟲師 特別篇 日蝕む翳』。以前100夜100漫で扱った『蟲師』(第114夜)の続編、というか新エピソードが描かれています。昨年末に『アフタヌーン』で……

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第166夜 ひと皿ひと皿に込められた、“本当の私”…『寿司ガール』

「寿司ごときに私の生き方が変えられるなんて/認めたくないけどね!!」 『寿司ガール』安田弘之 作、新潮社『月刊コミック@バンチ』掲載(2011年1月~2012年5月)  深夜の回転寿司で、ふと入った寿司屋で、行きつけの店のカウンターで。それぞれの人生を抱えつつも、……

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第163夜 菌と人間、遠いけれども楽しい学びの道…『もやしもん』

「この学校はスゴいよ/いろんな人がいろんな意志で支えあってみんなで遊んでるんだね」 『もやしもん』石川雅之 作、講談社『イブニング』→同『月刊モーニングtwo』掲載(2004年7月~2014年1月)  この春、晴れて東京の某農業大学(これが正式名称)に入学した沢木……

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第162夜 憎しみと受容と愛をもって全天を仰げ…『ほしにねがいを』

「私達みんなひとつだったんです」「あ! もしかして……ビッグバンの前の事?」「今もひとつです/私達みんな違うけどひとつ−−/ここの宇宙もその他の宇宙も/草木も虫も/鳥も魚も海も土も/マグマも時間も/空間も暗黒も/私も輝くんも/有るのはみんなひとつ−−/ただ/それを言葉で分けている……

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第161夜 ネタの嵐がもたらす奇妙な詩情…『平成義民伝説 代表人』

「魚権(ウォーケン)は自分に誓った/イガラシのために命をかけて「シャクレル」と/そして/イノキとイノチは/ちょっと似ている/と思った」 『平成義民伝説 代表人』木多康昭 作、講談社『週刊少年マガジン』掲載(2002年2月~同5月)  国民的男性アイドルユニットIG……

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第160夜 少女の帰還を導くのは、凄惨な楽園の幻視…『クーの世界』

「今日もまた/クーの世界で目覚めるんだろうなあ/どうせ夢がつづくなら/ずっとクーの村で暮らしたいなあ/家捜しの旅なんて無駄だよって/夢の中の私に言ってあげられたら……」 『クーの世界』小田ひで次 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(1999年11月~2000年11月……

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【一会】『夜とコンクリート』……自然と人工物を並べる美しさ

 標題作。不眠気味の建築士の、少し疲れてやがて眠れる一夜。  「夏休みの町」。暇暇な大学生たちと、丘の上の戦闘機とお爺さん。からの、反転。  「青いサイダー」。つんけんした母親に色々言われながらも、空想に遊ぶ僕少女。と、屋上のおじさん。  「発泡酒」。その時の“本当……

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第147夜 ぐちゃぐちゃな、自意識と外界の間で…『空が灰色だから』

「物心も付いてない頃/家族で出かけた遠い町 太陽光を浴び黄金色に燃えていた麦畑に今度は私が連れていくから/火が鎮まるまでお話しよう/その後は一緒に流れ星を探そう/古旅館の頼りない窓を優しく開けてせーので見上げた夜空には/星なんてひとつもなくて」 『空が灰色だから』阿……

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第146夜 スパイスの香りに、みんなが集まる…『今日、カレー!』

「やっぱりおなじがいいね」「ん?」「あのね/やっぱり/おなじものを おいしいって おもうって/なんか うれしいね」 『今日、カレー!』縞野やえ 作、マッグガーデン『月刊コミックブレイド』掲載(2011年9月~2012年2月)  美しい自然に囲まれ、採れる魚も野菜も……

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