仕事 | 漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫-5ページ

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――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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第85夜 甘口な、けれど薄荷も効いた日々…『ハチミツとクローバー

「うまくいかなかった恋に意味はあるのかって/消えていってしまうものは無かったものと同じなのかって――」


ハチミツとクローバー 10 (クイーンズコミックスDIGITAL)

『ハチミツとクローバー』羽海野チカ 作、宝島社『CUTiEcomic』→集英社『ヤングユー』→『コーラス』掲載(2000年6月~2006年7月)

 美大生の竹本祐太(たけもと・ゆうた)は、先輩の森田忍(もりた・しのぶ)や真山巧(まやま・たくみ)らとともに、貧乏アパート住まいながら大学生活を楽しんでいた。ある日、美大教師の花本修司(はなもと・しゅうじ)から、彼の親戚にあたる少女、花本はぐみを紹介され、祐太は一目惚れする。しかし、はぐみはその天性の才能のゆえか、同じく天賦の才を持ち合わせる森田と次第に接近していく。
 一方、一途に真山を慕う山田あゆみはその想いを募らせるが、真山の恋情はアルバイト先のデザイン事務所の経営者で修司の旧友でもある原田理花(はらだ・りか)に向けられていた。その理花の気持ちは、いまだ亡き夫のものであることを知りつつも。
 それぞれがそれぞれの想いを抱き、交錯させ、未来を見つける。そうして時が過ぎていく――。

恋と成長
 昔、数か月だけ付き合った人がいた。自分が無職で、この先なにをしたらいいのか分からなかった時のことだ(今もそうかもしれないが)。本当のところ、付き合ったといえるのかどうか、それも定かではないが、本作の初読は、その人に借りて読んだのだ。当事はまだ単行本が8巻までしか出ておらず、9巻を読む前に疎遠になってしまった。――と、そんな思い出語りをつい書かせる力を持った作品である。
 青春を描く時に、恋愛を描くのはもちろん常套手段と云っていいが、それと同じ位、成長を描くことは重要であろう。本作は両者の均整が非常によく取れている。というか、“自分が何なのか分からないために、好きな人に焦がれるばかりで、具体的には何もできない”というように、両者が有機的に絡み合っている。それが読者の経験に痛烈に語りかけ、響くのだ。本作では天才肌のはぐみにスポットが当たることも多いが、そういう意味では、やはり竹本が主人公といっていい。他の登場人物もそれぞれの葛藤を抱えているが、凡人がどう社会や仕事や、ようするに世の中に向き合っていくかを痛々しくも爽やかに描いている。

ポスト青春ストーリー
 同時に、美大生らを見つめる、彼らより少しだけ大人の視点を導入したことが、本作の独自性を高めている。はぐみの保護者代わりで竹本らの先生に当たる修司、その友人で真山が想いを寄せる理花、その後の真山の就職先の先輩社員たちなど、“少しだけ大人”の世代に属する人物は多い。
 彼らの1人が作中で吐露してもいるが、彼らにとって、竹本たちの世代は“通ってきた道”なのだ。自分達がかつてぶつかり、困惑の末、何とか折り合いをつけたことを、「まだ片付いていないよ」とばかりに竹本たちがもう一度鼻先に突き付けてくるものに、彼らがどう応じるか、ということも、本作の魅力となっている。
 この点を以って、青春ストーリーと云う以上に、ポスト青春ストーリーと云ってもいいのかもしれない。



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第66夜 裏世界に咲き誇る、逸脱者たちの毒花…『職業・殺し屋。

「ああ…なんて卑しい仕事なんだ…」 『職業・殺し屋。』西川秀明 作、白泉社『ヤングアニマル嵐』→『ヤングアニマル』掲載(2001年8月~2010年1月)  インターネットの奥底に存在するアングラサイト「職業・殺し屋。」。そこでは、依頼者が提示した金額から値段を下げ……

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第62夜 彼方に挑む者達と、一切をただ抱擁する者達…『プラネテス

「そのオッサンはな/地球(おか)の上で満足できる人じゃねェんだよ/オレにはわかる」「独りで生きて/死んで/なんで満足できるんですか/バカみたいよ/宇宙は独りじゃ広すぎるのに」 『プラネテス』幸村誠 作、講談社『モーニング』掲載(1999年1月~2004年1月)  ……

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第55夜 控え目な瞳が映す、国際都市の温もりと傷跡…『神戸在住

「――神戸より。」 『神戸在住』木村紺 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(1998年9月~2006年3月)  辰木桂(たつき・かつら)は神戸の大学に通う美術科生。父の仕事の都合で東京から引っ越してきた、昔の洋楽と文庫本を愛する真面目で小柄な女の子だ。  大学の……

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第45夜 新鋭機と“お役所的仕事”の流儀…『機動警察パトレイバー

「よくみとくといいや。/志望がかなえばこいつに命預けることになる。」「じゃ……じゃあこれが……/新型の警察用レイバー!?/こ…これは…/趣味の世界だねえ……」「とかいいながらわりと気に入ってるだろ。」 『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみ 作、小学館『週刊少年サンデ……

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第44夜 恋と夢と。彼らが選んだのは…『部屋(うち)へおいでよ

「ねェ……/これから……/いっしょに…/観よっか…/部屋(うち)においでよ…」 『部屋においでよ』原秀則 作、小学館『週刊ヤングサンデー』掲載(1990年月~1994年月)  東京、阿佐ヶ谷のとあるパブ。ピアノを弾く水沢文(みずさわ・あや)と、客なのに店の手伝いを……

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第41夜 豪華で特濃。中華をめぐる仁義なき戦い…『鉄鍋のジャン!

「料理は勝負だ! 勝てばいいんだ!! 」 『鉄鍋のジャン!』西条真二 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1994年12月~2000年3月)  国内最高峰といわれる東京銀座の五番町飯店に、謎の挑戦者がやってきた。飯店のものよりも美味しい炒飯を手際よく作った、……

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第40夜 神職だって、お金は欲しいし恋もしたい…『神社のススメ

「神社は宗教だがビジネスなんです/そしてアミューズメントだ」 『神社のススメ』田中ユキ 作、講談社『月刊アフタヌーン』掲載(2004年4月~2006年6月)  大神社の宮司の次男、里見信二郎(さとみ・しんじろう)。実家の神社は兄に任せ、自分は好きな舞を仕事にしよう……

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第38夜 杯を満たす葡萄の香に、人生の喜怒哀楽は映る…『ソムリエ

「本当に正しい組合せというのは/料理とワインの間ではなく/ワインとお客様の間にあるんじゃないかな」 『ソムリエ』城アラキ 原作、甲斐谷忍 漫画、堀賢一 監修、集英社『MANGAオールマン』掲載(1996年1月~1999年6月)  パリで暮らす日本人、佐竹城(さたけ……

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第31夜 ビッグ・マイナーの“笑えるけど壮絶”な日々…『失踪日記

「私は取材旅行にでていた(そーゆーことにしといてください)」 『失踪日記』吾妻ひでお 作、大田出版『夜の魚』掲載(「夜を歩く」のうち「夜の1」のみ;1992年10月)+コアマガジン『お宝ワイドショー』掲載(「街を歩く」;2002年)+書き下ろし  1989年11月……



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