漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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「 バトル 」 一覧

第39夜 化物と人の野蛮な高貴さに酔いしれろ…『HELLSING

「私にとって日の光は大敵ではない/大嫌いなだけだ」


HELLSING 1 (ヤングキングコミックス)

『HELLSING』平野耕太 作、少年画報社)『ヤングキングアワーズ』掲載(1997年5月~2008年9月)

 大英帝国王立国教騎士団。通称ヘルシング機関は、永くイギリスと王室を怪物――ことに吸血鬼――から守護してきた。
 ヘルシング機関には対化物の切り札が存在する。その者の名はアーカード。ヘルシング局長インテグラ・ヘルシング卿に仕え吸血鬼を狩る吸血鬼である。彼が新たに吸血鬼にした新米婦警セラス・ヴィクトリアと共に、化け物ども、そして敵対するカトリック法皇庁バチカンの特務実行部隊との戦いを繰り広げる。
 戦いの背後には、先の大戦から続くある因縁があった。ミレニアム。その言葉だけを頼りに、彼らは調べ始める。ロンドン存亡をかけた“戦争”への歯車は動き出していた――。

不道徳
 本作の登場人物の90%は化け物と狂信者と戦闘狂だ。主人公は相当レベルの高い吸血鬼だし、彼に吸血鬼にされてしまった婦警も、最初こそ躊躇いがちであったにせよ、次第に夜の眷属となっていく。彼らが戦う化け物はもちろん人間からは最も隔たった存在だし、敵対勢力であるバチカン特務局第13課イスカリオテ機関のメンバーは「暴力を振るって良い相手は悪魔共と異教徒共だけ」「死んだプロテスタントだけが良いプロテスタント」などと吐く清清しいまでの狂信者である。ヘルシング機関に人材登用されてくる傭兵たちも、高くない金のために自らの命を賭けてしまえる“割と人間のクズ”らしい。最大の敵となるミレニアムの面々に至っては化け物で狂信者で戦闘狂である。彼らの戦いに巻き込まれ、無辜の市民はそれこそ藁のように死ぬし、通常の警察や軍隊も全くの無力だ。
 そうした血みどろの戦いの様子が、作者独特の画風と台詞回しで描かれていく。まるでB級アクション洋画のような立ち居振る舞いと台詞回しに、アメコミ調の擬音、外国人がよくする片目をすがめた表情など、非凡なものを見せつつも、やはり少なくとも小学生には読ませない方がいい作風であることは否定できない。

化け物を倒すのは、いつだって――
 にもかかわらず、本作には強く惹き付けられる。それは、化け物という存在を深く描くことによって、英国人(ジョンブル)の、というよりも人間の、誇りを描いているからである。
 『聖闘士星矢』や『うしおととら』のような、単純な人間賛歌とは少し違う。それらは人間と人間の絆というものを強く顕している。他方、本作で描かれている人間の誇りとは、個人の矜持なのだ。ヘルシング卿の、クズのはずの傭兵の、端役の政治家の、もしかしたら黒幕の彼の、人間としての誇りに、胸が震えるだろう。分別をつけられるようになった若者には、必ず読んで欲しい作品だ。

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第35夜 目を逸らさず、歩みを止めないということ…『るろうに剣心

「剣は凶器 剣術は殺人術/どんな綺麗事やお題目を口にしても/それが真実――けれども拙者はそんな真実よりも、薫殿の言う甘っちょろい戯れ言の方が好きでござるよ」 『るろうに剣心』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1994年4月~1999年9月)  明治初期……

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第30夜 霊とも敵とも共に歩む姿こそが強さ…『シャーマンキング

「そのなんでも知ってる“精霊の王”って奴と友達になれば!!/なんの苦労もしないで毎日のんびり楽に暮らせるんだろ…!!」「ドバカモン」 『シャーマンキング』武井宏之 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1998年7月~2004年10月)→完全版にて完結(2009年4月) ……

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第28夜 描かれた円の中は、少女の心を映す混沌…『魔方陣グルグル

「これからあたしたちいよいよ世界を冒険するのね!/あたし世界中の町を見てみたいな/いろんな人に会ったり楽しい事もいっぱい…/どんな世界が待っているのかしら……/……ゆうしゃさまムーンストーンをつかうのよ……」「何考えてんだよ/なんだよムーンストーンって」 『魔方陣グ……

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第27夜 宵闇に燦然と燃えさかる“人間の姿”…『からくりサーカス

「何かあったら心で考えろ…/今はどうするべきか…ってな。/そうして…笑うべきだとわかった時は…/泣くべきじゃないぜ。」 『からくりサーカス』藤田和日郎 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1997年7月~2006年5月)  両親の都合で中国で暮らしていた青年、加藤……

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第21夜 運命・意志・希望…『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風

「大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている/向かおうとする意志さえあればたとえ犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな……………違うかい?」 『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』荒木飛呂彦 作、集英社『週刊少年ジャ……

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第20夜 闘いに臨む覚悟と、その果ての慈悲…『怪奇警察サイポリス

「汝の魂に、幸いあれ…!」 『怪奇警察サイポリス』上山道郎 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1991年12月~1995年6月)  新聞部の部長を務める中学2年生、鬼塚勇気(おにづか・ゆうき)。同級生の新聞部員、三原千夏(みはら・ちなつ)に押されつつも部を取……

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第14夜 個人VS個人、その最高水準の衝突…『グラップラー刃牙

 2013/05/18  100夜100漫,

「強くあろうとする姿は――――かくも美しい!!!」 『グラップラー刃牙』板垣恵介 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1991年9月~1999年6月)  東京ドームの地下には闘技場がある。そしてそこでは、各々の世界で現役を担っている格闘家たちが、夜な夜な真剣……

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第11夜 いにしえの倭国で、二人の視る夢は続く…『邪馬台幻想記

「…そうだ/オレは伊予を高天の都へ連れていく……/倭国を統一するために…/そしてオレは見てみたい…/伊予が造る理想の国を…」 『邪馬台(やまと)幻想記』矢吹健太朗 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1999年2月~6月)  幻想の時代――紀元3世紀。倭国は戦乱の……

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第10夜 超古代遺跡を護る闘いに見い出す人の偉大さ…『スプリガン

「どーせ死ぬなら最後まで納得いくまで戦って死んでやる!!/自分の行動に後悔だけはしたくねー!!」 『スプリガン』たかしげ宙 原作、皆川亮二 作画、小学館『週刊少年サンデー』→『週刊少年サンデー増刊号』掲載(1989年2月~1996年1月)  かつて地球上にはいくつ……

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