漫画のレビュー&随想 | 100夜100漫

――夜毎、お話ししましょう。貴方が私を縊(くび)らぬ限りは。

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「 バトル 」 一覧

第30夜 霊とも敵とも共に歩む姿こそが強さ…『シャーマンキング

「そのなんでも知ってる“精霊の王”って奴と友達になれば!!/なんの苦労もしないで毎日のんびり楽に暮らせるんだろ…!!」「ドバカモン」


シャーマンキング 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

『シャーマンキング』武井宏之 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1998年7月~2004年10月)→完全版にて完結(2009年4月)

 森羅学園中等部の生徒、小山田まん太(おやまだ・まんた)は、終電間際となった塾からの帰宅途中、墓場で幽霊と戯れるユルい少年、麻倉葉(あさくら・よう)と出会う。出雲から上京してきた彼は、霊と交流し、その力を借りることができる者、シャーマンだった。友人となった2人は、葉の能力を駆使することで、霊たちと話し、未練を叶え、つながりを築いていく。
 葉の上京は、500年に一度行われる“シャーマンファイト”に参加するためのものだった。全世界から様々なスタイルのシャーマンが集い、戦うことで、神とすら交信できる“シャーマンキング”を決める一大舞台がシャーマンファイトである。日本の巫者はもちろん、中華、アイヌ、ネイティブアメリカン、イングランド、キリスト教……ありとあらゆる文化圏のシャーマンと戦い、あるいは共闘し、敬愛するレゲエ歌手のような「楽に生きられる世界」を作るため、葉はシャーマンキングを目指す。

精神を感じる
 大学生の頃、興味本位で宗教学の授業を取ったら、想像以上に気合の入った内容で、中部アメリカの先住民の民間信仰についての洋書の和訳をまとめて発表させられた。その当時、すでに本作は連載中だったが、それとこれを結びつけてせめて楽しもうとは考えず、ただ定期的に回ってくる発表日の準備に追われる毎日だった。
 本作の完全版が出て物語が完結した時、改めて読み返し、バトル漫画の体裁を取りながらも、後半になるにつれて、現実の多くの宗教が目指す精神的な安楽の成就というテーマが色濃く表れているのを感じた。よく『週刊少年ジャンプ』で連載されたものだと思う。本作に先立ち、作者は千手観音などの仏像が戦ながらも救いを実践するという『仏ゾーン』を発表しており、こうした題材に深い関心を抱いていたことが知れる。少年漫画(というよりも漫画一般)に、バトルの味付けという意味を超えた作品テーマの中心概念として、現代文明の物質性と対照を成すシャーマンの精神性を持ち込んだことは、この作者独特の功績だろう。『3×3EYES』(第100夜)『孔雀王』などの隣接した先行作品があるにせよ、それらはやはりバトル漫画の域を出ていない。本作はそれら諸作の後継として読むよりも、シャーマニズムがもつ雄大な精神性を感じ取る作品として読まれるのが適当と云えるのではないか。

旅情と家族と
 叙情と旅情に溢れる展開も、本作の魅力をいや増している。葉の舎弟もどきである木刀の竜(ぼくとうのりゅう)が、まん太と共にサイドカーで葉の故郷、出雲へ向かう旅をはじめとして、多くの旅が作品を彩る。旅好きを公言する作者ならではの、ロードムービー風漫画としても楽しめるのだ。中でも作者の出身地である青森を舞台とした一連のエピソードは、ストーリー全体から見れば異質かもしれないが、ノスタルジーと旅情と詩情とが、抑制されながらも冴えた描線で巧みに描かれた名編と云わざるを得ない。
 青森のエピソードとも関連するが、主人公の葉とそのいいなづけであるアンナの関係は、ストーリー序盤から既に長年連れ添ったように老成している。これは本作連載時に既に妻子のあった作者の実体験によるところかもしれないが、平穏を尊んで生きる2人の姿が欺瞞を感じさせることなく描かれており貴重だ。
 この2人に留まらず、親子、兄弟、祖先と子孫といった様々な血縁の者達の姿も描かれる。血縁でなくとも、若年者たちすべての父親役を買って出る人物や、話がひと段落するごとに敵味方の分け隔てなく食卓を囲み、一緒に風呂に入るシーン等も同じ種類のものと捉えられよう。宗教的なテーマを描いた漫画でも、その目指すところをこんなにも素朴に魅力的に描いた作品は、そうないのではないだろうか。本作のような描かれ方はジャンプの主要読者層には照れ臭いかもしれない。自分も本誌連載の時には何だかむずがゆい気持ちで読んでいたが、その大切さは時間が経つにつれて心に沁みる。そういった意味で、どんな読者にも訴える普遍性の高いテーマを扱った作品と云えよう。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.6 x 11.4cm)、全32巻。電子書籍化済み。

☆完全版…A6判(21.2 x 14.6)、全27巻。ストーリーに関わる大幅加筆あり。既存部分にも修正あり。巻頭にキャラクター紹介「原色魂図鑑[SHAMAN FILE]」あり。初版奇数巻にのみ作者インタビュー等を収録したフライヤーあり。

☆コンビニ版…文庫判(14.8 x 10.8cm)、全16巻。完全版の本文内容に新規描き下ろし「REMIX TRACK 幽STREAM」追加。特製UV仕立てポストカード付き。第2刷(2014年1月)は表紙描き下ろし、表紙イラスト特製カード付き。最終16巻には完全版最終公式ガイドブック『マンタリテ』掲載の「フラワーズ―花の時代―」を収録。

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第28夜 描かれた円の中は、少女の心を映す混沌…『魔方陣グルグル

「これからあたしたちいよいよ世界を冒険するのね!/あたし世界中の町を見てみたいな/いろんな人に会ったり楽しい事もいっぱい…/どんな世界が待っているのかしら……/……ゆうしゃさまムーンストーンをつかうのよ……」「何考えてんだよ/なんだよムーンストーンって」 『魔方陣グ……

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第27夜 宵闇に燦然と燃えさかる“人間の姿”…『からくりサーカス

「何かあったら心で考えろ…/今はどうするべきか…ってな。/そうして…笑うべきだとわかった時は…/泣くべきじゃないぜ。」 『からくりサーカス』藤田和日郎 作、小学館『週刊少年サンデー』掲載(1997年7月~2006年5月)  両親の都合で中国で暮らしていた青年、加藤……

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第21夜 運命・意志・希望…『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風

「大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている/向かおうとする意志さえあればたとえ犯人が逃げたとしてもいつかはたどり着くだろう? 向かっているわけだからな……………違うかい?」 『ジョジョの奇妙な冒険Part5 黄金の風』荒木飛呂彦 作、集英社『週刊少年ジャ……

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第20夜 闘いに臨む覚悟と、その果ての慈悲…『怪奇警察サイポリス

「汝の魂に、幸いあれ…!」 『怪奇警察サイポリス』上山道郎 作、小学館『月刊コロコロコミック』掲載(1991年12月~1995年6月)  新聞部の部長を務める中学2年生、鬼塚勇気(おにづか・ゆうき)。同級生の新聞部員、三原千夏(みはら・ちなつ)に押されつつも部を取……

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第14夜 個人VS個人、その最高水準の衝突…『グラップラー刃牙

 2013/05/18  100夜100漫,

「強くあろうとする姿は――――かくも美しい!!!」 『グラップラー刃牙』板垣恵介 作、秋田書店『週刊少年チャンピオン』掲載(1991年9月~1999年6月)  東京ドームの地下には闘技場がある。そしてそこでは、各々の世界で現役を担っている格闘家たちが、夜な夜な真剣……

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第11夜 いにしえの倭国で、二人の視る夢は続く…『邪馬台幻想記

「…そうだ/オレは伊予を高天の都へ連れていく……/倭国を統一するために…/そしてオレは見てみたい…/伊予が造る理想の国を…」 『邪馬台(やまと)幻想記』矢吹健太朗 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1999年2月~6月)  幻想の時代――紀元3世紀。倭国は戦乱の……

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第10夜 超古代遺跡を護る闘いに見い出す人の偉大さ…『スプリガン

「どーせ死ぬなら最後まで納得いくまで戦って死んでやる!!/自分の行動に後悔だけはしたくねー!!」 『スプリガン』たかしげ宙 原作、皆川亮二 作画、小学館『週刊少年サンデー』→『週刊少年サンデー増刊号』掲載(1989年2月~1996年1月)  かつて地球上にはいくつ……

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第8夜 弟が愛し憎悪する姉は血と鋼に身を固める…『シリウスの痕

 2013/05/12  100夜100漫, ,

「さて最後のお別れをしなさい/自分の生身の肉体に」 『シリウスの痕(きずあと)』高田慎一郎 作、角川書店『月刊少年エース』掲載(1999年5月~2001年10月)  脳以外を機械化した人間を殺し合わせる闘犬(ドッグファイト)。犬たちには既に闘争本能しか残されていな……

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第6夜 生者への冥い欲求と暗鬱の中で閃く生命の光刃…『武装錬金

「死んでもやっちゃいけないコトと、死んでもやらなきゃいけないコトがあるんだ!!」 『武装錬金』和月伸宏 作、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(2003年6月~2005年4月)  高校2年の武藤(むとう)カズキは私立銀成(ぎんなり)学園の寄宿生。ある夜、怪物に襲われて……

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