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【一会】『孤独のグルメ 2』……18年ぶり。無邪気さと、変わらぬ自由さ

      2018/07/21

孤独のグルメ2

 個人で輸入雑貨を商う井之頭五郎(いのがしら・ごろう)が、主に都内の街で見知らぬ飲食店に入り、そこでの食事や湧き起こってくる想念を淡々と描き流す食事漫画『孤独のグルメ』(100夜100漫第63夜)。その第2巻が、実に18年の歳月を経て刊行されました。1996年までの連載で一区切りとなり単行本1冊にまとめられていましたが、その後も2008年ごろから散発的にエピソードが発表されており、いわばその“第2期”にあたるエピソードを集めたものが第2巻と云えそうです。
 1巻最後のエピソードと今巻最初のものとの間には12年の隔たりがあることになりますが、五郎さんは相変わらずスーツ姿であちこち駆け巡って仕事をしており、さして歳をとった様子はない様子。独りで食事をするスタンスも変わりなく、1巻から通読しても大きな違和感を覚えることはないでしょう。

 それでも、読んでいて若干の変化はあるように感じました。
 まず、1巻では自動車に乗って移動するシーンもそこそこあったものの、今巻では(少なくとも直接的には)自動車は登場しない点。読む限り、商売的には景気は悪くなさそうであるものの、何がしか経営上の変化があったのかも、と邪推できなくもないです。
 それと、街やお店について発せられる五郎さんのモノローグも、多少色合いが違うような。1巻の、吉祥寺の回転寿司や西荻窪の自然食レストランのエピソードでは、街や店やお客に対してちょっと斜に構えたモノローグがありましたが、今巻ではそういう態度は控え目になり、無邪気に食事を楽しむ様が前面に出て来たように感じました。歳をとらないように見える五郎さんですが、やはり10数年の間に角が取れて丸くなってきた、ということでしょうか。その反動か、「なくてけっこうコケコッコー」「お召し上がりとうだい」「韓国スムニダ」「思いもヨルダン大使館」「ご機嫌げんちゃん」等々の親父ギャグ(?)も頻回に登場し、前巻とはまた違う独り飯の高揚を見せています。

 そんな風に、細部には多少の変化を感じましたが、それでも最初に記した通り、五郎さんの思考や、かつての恋人小雪(さゆき)との記憶などが差し挟まれながら、お店や料理の佇まいが描かれるというこの漫画の本体にはいささかの変わりもなく、興味深く面白く読みました。端っことはいえ自分が都内在住ということもあり、信濃町のペルー料理とか東大の食堂の「赤門」と「エコノミー」は、いつか食べに行ってみたいなと思ったりも。東京を飛び出しての鳥取やパリでのエピソードもいい感じです。
 また、お茶漬けを食べようと入った三鷹の下連雀で居酒屋でのエピソードも、前巻とのリンクを感じさせる一篇でしょう。前巻では板橋区大山のハンバーグ屋で、外国人の店員を執拗に叱る店主に食事の気分を害され、アームロックに似た古武術技を繰り出して逆に店員に止められてしまった五郎さんですが、今回はアームロックから更に投げ技に移行するという怒りぶり。そのあと若干の自己嫌悪に陥るのも前と同じ展開ですが、ものを食べる時の自由さを重んじる、彼の一貫した食事哲学が垣間見られる一幕と云えるでしょう。
 そんな五郎さんの自由さは、個人で仕事をしているという組織からの自由さ、いざとなれば肉弾戦も強いという物理的な自由さによるんだろうな、と読みながら思いました。なかなか真似できなさそうな境地ですが、参考にできる部分はあるかと思います。

 現在のところ、連載誌である『SPA!』に以降のエピソードの掲載はないようですが、恐らく今後も散発的に新作が掲載されていくかと思われます。今度はどこで何を食べるのか、次なる五郎さんの出没を楽しみにしています。

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