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漫画の感想やレビュー、随想などをつづる夜

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第90夜 勇者は誰か…『DRAGON QUEST -ダイの大冒険-』

      2018/07/14

「なんでもできる反面なんにもできないのが勇者って人種さ…/だが…勇者にも一つだけほかの奴には真似できない最強の武器がある…」「えっ!? な…なにそれ!?」「決まってんだろ/勇者の武器は/“勇気”だよ!」


DRAGON QUEST―ダイの大冒険― 12 (ジャンプコミックスDIGITAL)

『DRAGON QUEST –ダイの大冒険-』堀井雄二 監修、三条陸 原作、稲田浩司 作画、集英社『週刊少年ジャンプ』掲載(1988年12月[読切掲載]~1996年11月)

 かつて勇者は魔王を討ち、世界に平和が訪れた。魔王に従っていたモンスター達も邪気を失い、南海の孤島、デルムリン島で穏やかな日々を送っていた。
 少年ダイは島でただ一人の人間。赤ん坊の頃、島に流れ着いたところを島の長老格ブラスに拾われ、育てられた。
 異変は突然に訪れる。魔王ハドラーは復活し、世界は再び危機に陥った。島にやって来た自称「勇者の家庭教師」アバンに手解きを受け、勇者の道を歩み出すダイ。兄弟子の魔法使いポップと共に世界へと漕ぎ出していく。
 それは、幾多もの戦いと出会いと別れ、そして自らに備わった未知の力の意味を知る旅の始まりだった。

王道の人間賛歌
 自分がファミコンの類に接するようになったのは比較的遅く、小学校卒業の間際くらいだった。それ以前から本作は連載されており、その頃の自分はまだドラクエを知らなかったにも関わらず、友人宅などで少しずつ読んでいた。
 ドラクエの世界観を用いて創作されたオーソドックスな(『魔方陣グルグル』(第28夜)などのような変格でない)漫画作品としては、他に藤原カムイの『ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章』シリーズが有名だが、このジャンルに先鞭を付けた(『ロトの紋章』は本作の2年後に開始)という意味でも、自分は本作を推したい。
 既に多くの作品で言及したところだが、人間ではない存在が登場する作品では、逆に人間の素晴らしさが描かれている。本作も同様で、魔王を筆頭とするモンスターに対する人間の強さ、貴さが高水準な画力と演出で語られている。端役的なキャラクターにもそうしたエピソードがあり、作者が思い入れを持って仕事をしたということが垣間見れる。
 しかし、物語は手放しで人間を賛美してはいない。作者は、モンスターへの恐怖によって人間が陥ってしまう、醜い部分もきっちりと描いてみせる。そうした醜さを描いた上で、それでも人の素晴らしさを訴える姿勢は、既に古典的ですらある。が、“勇者を描く”というテーマも相まって、まさしく王道的な魅力を湛えた作風として結実していると云えよう。

勇者ポップと英雄ダイ
 さて、そのような人間賛歌の作品という前提に立つと、既に多くの人が指摘しているように、本作の真の主人公は魔法使いのポップなのだと思う。それなりの出自がある仲間たちに対し、彼はただの武器屋の息子である。そんな彼が、臆病な性根を克服し仲間のために戦い強くなっていく様は、本作の主たる読者である少年たちを、いたく勇気付けるだろう。冒頭に掲げた名台詞のように「勇者の武器は勇気」で、仲間を鼓舞し奮い立たせるのがその役割であるのなら、ポップこそ勇者なのだ。
 ポップが勇者であるのなら、ダイは何者なのか。人を超えた力を宿し、それゆえ疎まれることすらあり、それでも人間を愛す彼はきっと、ギリシア悲劇が云うところの「英雄」なのではないだろうか。終盤、ポップとダイがそれぞれ直面し、乗り越えていかなければならない“壁”は、彼らが勇者や英雄となるための通過儀礼という見方もできよう。
 あまり小難しく書くと二の足を踏まれる読者も多いと思うが、心配は無用である。ポップもダイも、それぞれ自分の言葉で素朴に葛藤し、語ってくれる。単に大団円なだけでない、読者に力を与えてくれる終章となっている。胸のすく大冒険に、仲間たちと旅立たれたい。

*書誌情報*
☆通常版…新書判(17.4 x 11.4cm)、全37巻。絶版。

☆文庫版…文庫判(15 x 10.4cm)、全22巻。電子書籍化済み。

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